愉快なバディのビル消失:First
「なんて、ことを……っ!」
「ひどい……」
そう、あたしたちは、目の前に広がる光景をただ眺めていた。
そこは、あまり意識してみたことはなかったが。あたしですら、背筋の凍るものであった。
ぽっかりと。
ビルとビルの間が空いていた……並び的にあるはずのビルが、そこにはなかった。
ついさっき、通報が入って。
ビルと人が消えたと言われた。
「うばー、ねむいです」
何もない机の上に倒れ込む。仕事はないのかと、そう聞かれそうだが前のユニコーン事件から一か月以上事件も何もなく、あったことといえば、ちょっとした警備の依頼でただ淡々と直射日光を浴び、またある時は雨風にさらされたぐらい。すっかりリビングメイルが錆付いてそうであった。
「ホントに何もないんですかー、なんか楽しいことからわたしを遠ざけとしてません?」
「阿呆、事件を楽しいことというやつがいるか。なんもなかったら茶でも入れてこい」
すっかり全快した桐上から、返答が飛んでくる。
「えー、わたしですか?給料あがるならいいですよ~」
「つまりやりたくないんだな、まったく……」
「あの……私がやります」
そう手をあげたのはスペランツァ。例のサファのバディである。ささっと立ち上がり、視界の端から消えた。
「……この課にしては、優秀な人材が入ったな」
「なんですか、わたしが優秀じゃないみたいな言い方」
「それ、僕も含まれてます?」
実際無能と言われたような部下二人が、声をあげる。
「あ、なんだ、その……聞かなかったことにしてくれ」
「やった、課長への口止め料で泡の出るジュースが飲めそうです」
「いやいやいや。そこはNIPPONーSYUだろ」
「……財布が軽くなりそうだな」
懐をさする桐上。正直久々のアルコールには、あたしも心が躍る。桐上にはご愁傷さまという他ないが。
「でもしんしゃ、お酒は私が選びますからね、隊長のお金で」
お前のセンスに任せるぞ。
「前から気になってたんだが、そのしんしゃって何なの?」。
「同意だ、気味が悪い」
サリーが首を傾げ、桐上もまた同じようにする。あまり前に出すぎたのは失敗だったか。
「あぁ、それはですね……」
ばかっ、なんて言うんだ、わたしのなかにもう一個あたしがいるんです~とでもいう気か⁉
「っあ、あっあ、あ~……そんなことより、前の事件ってどう処理されたんです?」
「私……も知りたいです。その事件のこと……何も知らないので」
ちょうど帰ってきたスペランツァが、お茶を配りながらフォローする。ナイスフォロー……んん?あれ、あたしらこいつに話したか?
「ああ、そういえばサリバール巡査部長にしか話してなかったな。テロとして処理されたよ。今第二小隊が嗅ぎ回ってる」
「ご苦労さんだよ、第二小隊は。ろくなリビングメイルを持ってないのによくやるよね」
「ふうん、そうなんですか」
「自分から話振ったのに、興味なさげだねぇ」
「第二小隊があることは初耳ですけど」
「「「うっそ⁉」」」
「スペランツァも知ってるんですか⁉」
「当たり前……だよ!なんでむしろ知らないの……?」
(しんしゃ、知らなかったですよね?)
…………はっ。すまん驚きすぎてぼっとしてた。
(うそぉ!)
「もういい……もういい。お前が話も聞かずここに入ったことはよーくわかった」
あきれたように首を振る桐上。あたしも、こいつにあきれきってたところだった。なんでこいつなんかに憑いたんだろうか?
「あのな、お前……」
と、もはやフォローのし甲斐がない状態での説教が始まろうとしているとき、ちょうど、急いだ様子でリザードマンの男性が部屋に飛び込んできた。デーク警部補……件の第二小隊の隊長である。
「桐上警部補、少し」
「……どうかしましたか?」
………………。
「よかったぁ……」
桐上警部補が席を立ったのを見て、安堵のため息をつくサファ。
しかしその平穏も一分の持たず消える。すぐに帰ってきた桐上から、とんでもないことが飛び出した。どうやらここが扱う事件は……平和なものと危険なものの差がすごいらしい。
「サファよかったな、事件だぞ。ビルが一つ、丸々消えやがった。サリバール、私と行動しろ。サファとスペランツァは別行動、現場に急行だ。なに、すぐに終わるさ」
そして……今に至る。
「これ、穴でしょう」
慌ただしく人が動き回る中、隣のスペランツァとあたしに呼びかけるサファ。
「……だろうね。こんなことができる魔物も知らないし……魔法も、穴を開く魔法しか知らない……」
同感である。どでかい穴が、ビルを丸々飲み込んだとしか考えられなかった。そのうち、魔力反応が見つかるだろう。
「やっぱりそうですか……あーあ、わわたし、穴開けられないんですよね。めんどくさいことになりそうです」
「私……は開けられるけど……あまり開けたくない」
「あ、リビングメイル使えば開けられるかも?」
「こんなところで魔力消費しちゃうの……?」
そう。穴が開くということは、それだけの魔物がいるということである。万が一戦闘になった時のことを考えると、あまり装着はしたくないところであった。
「っていうか、スペランツァは人間なのに穴開けられるんですね。それなら問題ないじゃないですか」
「うん……でもね、私、調整ができないからきっと……ひどいことになっちゃうと思う」
「へえ、こっちの世界にはびっくり人間がいっぱいいるんですねぇ」
そんなのんきな会話をしていると……現場(といっても、アスファルトごときれいにはがされ、平らに整地されているので地面が露出している更地である)のど真ん中にいた男が声を荒げた。信じられないといった様子だが……声を聞いたとき、理由はすぐにわかった。
「魔力検査の結果出ました……白、魔力は一切検出されません!」
「「…………はぁっ⁉」」
なんてこった、こいつはたまげた。
今回はここまで
二ヶ月ぶりだオラァ!




