ちびっこ警官の引き継ぎ会:Sixth
「ふうぁ~よく寝ました……」
もっそりとした動きで、起き上がる。かかっていた毛布が、ぱさっと床に落ちる。どうやらここは、署のソファーの上らしい。奥のほうで舟をこぐ、サリーの姿が見えた。
「そっか、あの時寝ちゃって……」
ゆっくり起き上がり、サリーに歩み寄る。軽くつついただけで、机の上に彼は突っ伏す。
よほど疲れていたようだ。……サリーの手が、包帯に包まれているのに意識が行った。
「なんでしょうこれ」
いや、深く詮索するのはやめよう。今は寝かしといてやってくれ。
「……さっきから、なんなんですか。わたしの脳内に直接とかやめてほしいんですが。てゆうか、わたしの中にいるんですか?何がどうなってるんです?」
あぁ、説明もしてなかったな。気が付くとお前の中にいた。お前の……キオクの中に。
「は?」
なんでもない、お前のもう一つの意識だと思ってくれ、独立してるけどな。
そういえば、名乗ってすらなかったか。
いや、名前はもう忘れたが、私自身が何なのかも忘れたが。宿主が勝手に考えて……。
「しんしゃ」
……え?
「しんしゃ。君の名前。名前がないとどうにもやりにくいですし」
しんしゃ……シンシャ。水銀?
「そうなんですか?なんかどっかで聞いたことあって」
……っぷ、ははははっ!
いいな、シンシャ!水銀だから、毒か。いかにもあたしらしい!
気に入った、技名は変だが、それはいい。
「ええっ、技名へんですか?……そんなことより、その代わり、私のことを名前で、サファって呼んでください」
サファ?まあいいけど。
ふふっ、と笑う宿主……サファ。
しかしそのあと、思い出したかのように、うわごとのようにサファは言った。
「ん?あれ?そういえばなんで私の中にいるんです?」
それは……忘れた。
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「ようやく、継がれたようだ」
「あのチカラか?キオクを描く者たちのことか」
「やけに遅かったの、今回は。いよいよこの世界も終わったと思ったのじゃが」
「だが、今回は倒しがいがありそうだよ」
「そう?やけに能力が地味にみえたわ」
「「同感」」
「ははは、そうもみえる。でも、覚醒させると厄介だ、とっとと処理してしまおうよ」
「いや、逆だ。とっとと覚醒させてしまうんだ」
「そう、覚醒させてしまえ。スペランツァの件も、滞っている」
「だから頼んだぞ。きっと良き成果を持ち帰ってくれると期待しているぞ」
マーキュリー。
「んァ?なんだってェ?」
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ユニコーンを失った。
順調順調。
あとは、君に、任せた。
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国立魔導大学のキャンパスの中で、愚痴を吐きあう男三人。そのうち一人は、例の助けられた男、鈴鳴琳之介である。
「ホントマジねぇって、あの女」
三人のうち一人が、唐突に話し始める。
「あいつから言い寄ってきて、それなのに別れよ~とかありえん」
「でもそんなんよくあるだろ。まだそこでうじうじ言ってるなんてそれこそ馬鹿らしい」
「はいはい、そうですよー……でも、彼女できたことない鈴鳴クンよりもマシだろ」
ひっひっひ、と男二人が笑う。
「……きっと、そのうちできる」
「大学生にもなって何言ってるんですかねぇ、お前はお花畑の中坊かっての……でも、できないほうがらくでいいかもなぁ」
「それ。もう恋愛なんてやめだやめ」
「申し訳ないんだけど」
急に割り込んできた鈴鳴に対し、一瞬の沈黙。
「惚れたわ、あの婦警さんに」
「「はぁ⁉」
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サファはまだ、病室に入ることを躊躇していた。
かれこれ一週間ぶりである……桐上のお見舞いに来るのは。手には花を持っていたが、くしゃくしゃになりそうなほどに握りしめていた。
「ふーふー、落ち着け、わたし」
怒鳴られそうだからびくびくしているのであった。いや、病院だからそんなことはないのだけれども。
「よし、いきましょ」
腹をくくり、扉をあけ放つ。
…………!
「こっんにっちわぁぁ~~っ!」
「うっさい、黙れ」
すでに意識を取り戻した彼女は、窓際で黒く長い髪を輝かせる。
「久しぶりだな、サファ巡査……おうっ!」
サファは、まさかの行動に出た。思いっきりフルスイングで、けが人をぶん殴ろうとしたのだ。
「忘れませんよ、わたしをずたずたのぼこぼこにしたこと!」
「だからってけが人を殴ろうとするやつがいるかァっ!」
それは、怒鳴られるだろう。何やってんだ、サファ。
「それぐらいは許してくださいよ、しんしゃ」
「何を一人でぶつぶつと……二回目のリビングメイルの装着でいよいよ頭がおかしくなったか?」
「いえ、そんなことは……あれ?なんで知ってるんです?」
あきれたように首を振る桐上。
「すべてサリバール巡査部長から聞いた。お前が来ないあいだにな。あの錠をひったくった上に独断行動して倒れて帰ってきたとな。聞いたときはもう……吹きそうになった。まだそんな馬鹿なやつがいるのだと」
ははははっ!、と桐上は笑い出した。
「もう……そっくりだ、そういうとこ。やっぱそれはお前が持っとくべきなんだろうな。だから、お前にそれが扱えたんだろう。でも、忘れるなよ?それをまとうということは、何人もの人の命を預かるってことだ。それに、あいつの意思を乗せて戦うんだ」
「あいつ……アラタさんですか」
「そう。やっと思い出したか……別に私は、あのことでお前を責めたりせんよ。あいつは、あいつの意思で散っていったんだ。本望だろう」
きっとな、とつなぐ。
「ただし、そうなるにはお前もここのルールに従ってもらうぞ。基本二人一組で行動、勝手にリビングメイルを使わない」
「げ、そんなルールが……あれ?隊長ってサリバール巡査部長とよく一緒に行動してません?」
「うん。だから新しくここに来る奴とペアになってもらう」
「そんな物好きもいるもんですねぇ」
「お前もその一人だが。さてそいつだがモーブをおびき寄せる特異体質でな、名前が……」
その時、ガラガラっと病室のドアが開いた。
外から一人の女性が……まだ二十代ちょっとぐらいの人間の女性が入ってきた。
「えっと……スペランツァ・ルッキーニ、です。イタリア人……設定、になって、ます。よろしくお願いします」
今回はここまで
ちょっとお休みするかも……大丈夫、前みたいに二週間とか休まないですって。




