ちびっこ警官の引き継ぎ会:Fifth
「なんか、昔見たあにめ、ってやつみたいだ」
天井を仰ぐ、その様子を眺める。
「なんでだろうね、なんでこうなっちゃうんだろうね」
「……はい」
ベットの上で浅く息をする桐上隊長を見ながらため息をつく。
「僕の居場所が、少しづつ削られてくようだよ」
「そんな、ことは」
「今回は死ななかったから、とでもいう気か?ばかいえ、運が良かっただけさ。桐上警部補がああなってるときに何もできてない。僕は……あの時から何も変わってない。ただ、見てるだけだ。人一人助けられないのに、なんでこんな仕事をやってるんだろうね?」
「でも、でも……!」
「もういいや、馬鹿らしくなった」
ぱっと後ろを振り返るサリー。
「いったん帰ろう。とっとと捕まえなきゃ、ユニコーン」
そのまま桐上に見向きをせず、歩みを進めた。手に、血の臭いのついた錠を持ったまま。
……錠を、手でつかんだ。ぎゅっと握りしめ、こちらにひく。びくともしなかったが、それでも、彼の心は動いたのかもしれない。
「なに?サファ君」
「わたしが行きます。行かせてください」
「ダメに決まってるでしょ、落ち着いて」
「なんでですか、わたしにも戦わせてください!」
怒鳴り、そして錠をはぎ取る。
「なにを……返すんだ、サファ」
「いやです」
一歩、後退る。
「絶対に、いやです」
「なんで?なんでそんなことを」
「あんな話を聞いた後で、戦わないなんて選択ができますか」
「……わかった、絶対に君を責めはしない。だから返してくれ」
「いいやですといっています。もう行っていいですよね」
「まて、待ってくれ!」
病室から飛び出した。
「お願いだ、待ってくれ……僕が何するかわからない!」
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ただ、走っていた。自分でも、なんで走るのか……戦うのかがわからなかった。
その時、川の流れる音が耳に飛び込んできてようやく、考える余裕が……あたしの問いかけを聞く余裕が宿主の中でできていた。
なんでお前は戦うのか、と。アラタの代わりにでもなるつもりか、と。
「そうなのかもしれません」
本当に?
「……いえ、違うかもしれません」
そう、違う。宿主よ。戦いたいから戦うんじゃないのか。少なくとも、あたしはそうだった。
「でも、いいです。戦える意思があるんだから」
そう。じゃあさ、自分のその背中、傷がきれいさっぱり消えてるの知ってる?
「ええ、もちろん」
そんなことをできるのは人間の芸当じゃない。リビングメイルを纏えば、お前は人間を捨てる。サファ、お前はもう、人じゃなくなっている。はめられたんだ、人から遠ざけるように。
「かまいませんよ、そんな些細な事」
……ふうん。じゃ、もういいや。
……お前、願いとかある?
「ユニコーンを見つけること」
それだけでいいの?まあ、お前が望むなら。
あたしの務めを果たすとするか。
……はい、終わり。
わたしのチカラはお前のもんになった。あたしはまだここに残り続けるつもりでいるけど。
あ、あとさっきの答えね。ユニコーンは、お前のすぐ後ろにいるよ。
「へ?」
即座に、後ろを振り向きました。
そこにはどす黒いユニコーンが。鎧をまとい、そこにいました。
「見つけた……っ!」
手に握りしめていた錠を素早く左手首に取り付ける。
使い方は、わかるよな?
「もちろん。いくよ!」
『Start livingmail』
左手を、空をひと撫でするように回す。
『open the 3rdworld!』
白い光の漏れ出す穴が、いくつも花開く。中から、鎧が顔を見せた。
『ready……』
光の線が、全身を這う。一瞬で伸びた身長の感覚に、一瞬だけ戸惑う。でも。
「set!」
戦わなければならない!
『GO!』
光の線に沿うように、鎧が装着されていく。顔を覆ったバシネットが、赤く光った。
『model……G O L E M!!』
「どりゃぁぁぁっ!」
一歩踏み込むと、恐ろしいほどのスピードが出る……制御、できるのだろうか?
「うわっ、わっ、わぁっ!」
ユニコーンなんてもう通り過ぎ、その後ろで盛大にずっこけた。
ここが人通りのない河川敷であったことが幸いし、人的被害はなかったものの、土煙で何も見えない状況が作り出される。
「あれぇ?おっかしいなぁ、あの時は戦えたのに……ってうわぁ!」
気が付くとそこには、槍……いや、剣のようなユニコーンの角が迫っていた。慌てて手で受け止め、籠手から火花が飛び散る。
加勢しようか?
「だっ大丈夫、なはず。ていうか、さっきから何?誰なの?わっ!」
角がすり抜け、頭を躱したそのすぐ横に突き立つ
。
……だめだ、こんなとこで死なれたらシャレにならない。
ユニコーンの腹を蹴り、後方へ一回転、飛び起きる。
「やった、戦えるようになりました!」
はぁ、楽観しすぎだろうに……サリーに笑われる。
ザン・フルム・カレスって唱えてみな。
「ザン・フルム・カレスド?……きゃっ」
莫大な魔力の角が削られ、鋼の剣が生成される。ざり、と両者ともに身構えた。
「ナクル・スオラ・カレスド!」
突撃!
相手も、こちらも同時に突っ込んだ。
ユニコーンの角が掠って肩のアーマーが吹き飛び、逆にユニコーンの黒い肌が裂け、ドロッとした体液と、黒いチップが飛び出した。亜人の絵が描かれたそのチップは……ゴブリン・モーブチップ!
そういえば、ユニコーンがチップを取り込んだと言っていたことを思い出した。それがあれか!
「おっとっとっと」
そんな間の抜け止ことを言い、チップを受け止める。
「おろ?」
そうすると、ぼろぼろと、チップの黒が落ち、白いチップへと変貌した。
モーブじゃない……ゴブリンチップ!
使えるかもしれない。チップ、差し替えてみろ。
「は、はい」
『frame change!ready……』
「……set?」
『GO!model……』
『G O B L I N !!!』
鎧が変わる。
そう、まるで……ゴブリンのような、それに!
「す、すごいです」
ううん、たかがゴブリンごときでこの反応か。先が思いやられるが、今はいい。確か、ゴブリンの性質は、その集団での残虐性。もしくは狡猾さだったか?で、あれば。
と宿主はそのとき、一本の橋に目を付けた。少し奥の、銃弾や魔法攻撃の跡が残る、古い橋。
「あれがよさそうです。えっと、チェーンを出すには……」
シェネ……だけどどうして?
「そうそう、シェネ。シェネ・カレス!」
がき、と橋にチェーンがつながる。
「ナクル・カレス!」
……え、まさか。
ユニコーンも、こいつのやりたいことに気が付いたのか、慌てて加速するが……。
「ぃよいしょーっ!」
大きな音を立てて、瓦礫の波が押し寄せる!
ユニコーンが飲み込まれ、再び体液を空中に飛ばすが、問題はそこじゃなく……あたしも飲み込まれるぞ!
「大丈夫ですよ」
波は止まらない!
瓦礫の一つが、真横を通り過ぎいよいよ終わったと思ったが……すべて、すりぬけた。
「大丈夫って言ったでしょう?ここにいたら当たりませんよ」
……こいつはとんでもない力に目覚めてしまったようだ。
息をつく間もなく、瓦礫の山に走っていく。
血まみれになり、鎧をはがされながらも瓦礫の山からユニコーンが起き上がり、吠える。正面から突撃すれば、くし刺しにされるぞ!
「そのためのこの鎧でしょう」
身に着けていた鎧が、あたりに飛び散る!
生身となった宿主は、そのまま突撃し……なんということだろうか!鎧が宿主の形を作っていくではないか!
「わたしが二人いれば……こんなこともできるんです!」
手にある鉄剣をまた握り直し、鎧でできた宿主もまた剣を生成する。
「やぁっ!」
「………!」
一人が振られた角を抑え、もう一人、本物のそれは剣を突き立てる。一気に引き抜き、あふれだした体液の中に手を突っ込む。たぶんきっと、このなかにゴーレムチップが!
「……あった!」
手を抜くとそこには、黒いチップが手の中に!
角の形が変貌し、剣から陳腐な三角形へと。
「クぁあぁぁァァァァァァァぁあああ!」
ユニコーンがおかしな咆哮を上げ、その角を思いっきり振り下ろすと、あの鎧が砕け散る。ついでに、チップもろとも砕け散った。
「え、まさかの使い捨てなんですか、あのチップ」
いや、お前の使い方が下手すぎるせいだと思うが。
『model……G O L E M !!!』
再びゴーレムの鎧にに姿を変える。
「いいです、もう一枚ありますから」
はぁっとため息をつき、再び剣を構える。
「早く終わらせないと、寝ちゃいそう。えっとさっきのがスパットダッシュだとして、あの橋のやつがギリギリヒッパリで……決めた!」
空高くジャンプし、ユニコーンの頭上をとる。
「ザックリギロチン!」
真っ二つに胴からユニコーンが分断され、生き別れとなった上半身と下半身から出たユニコーンのチップが空を舞う!
ぱっとキャッチし、黒い膜が洗い流された。
「よっし、回収かんりょ……」
……え、宿主?
最後の意識は、膝から崩れ落ちる宿主を見たところで終わる。
……大丈夫?サファ君。
どんな状況であっても助けるから、だから。
少しだけ我慢しろ、僕……!
黒い穴から、血まみれで毛むくじゃらの手が伸ばされた。
今回はここまで
とりあえず次回で一区切り




