ちびっこ警官の引き継ぎ会:Fourth
鎧がほどけた。
変身が解け、小柄な人間が……よく見慣れたハーフリングが現れた。
やはり。
「やはり、お前かサファ」
そう、彼女だった。根拠はないが、薄々感づいていた。
「だが、なぜお前が戦えたのか……いやそんなことはどうでもいい」
問題は……、と、サファの手首にある、輝きを失った錠を奪い取った。持ってから改めて実感する。間違いなく、新田のものであると。
「お前が、なぜこれを持っている……!」
ずっとこれを探していた。
実はあの後……新田が死んだあと、この錠とチップが消えていたのだ。失くしたとかそんなことではなく、ただ、消えていた。
そのことに気が付いてからずっと今まで、死に物狂いで探していたのだ。
そしてそれはたった今、私の手の中にある。しかも、部下からはぎ取ったものであった。
「なんで、なんでいつも身近な人間が邪魔をする……!」
吐き捨てるように言う。同じ経験が何度目か。自分に近い人間の笑顔はいつも、一歩踏み出す前にぱっと取り上げられてしまう。
「それもこれも、チップなんかがあるからだ」
忌々しげにつぶやき、銃口を足元のどす黒いチップに……ゴブリン・モーブチップに向ける。
「ひとつ残らず、叩き割って……魔物なんて、この世界から消し去ってやる」
ガン!と、発砲音。
銃口から飛び出した銃弾が、まっすぐチップに飛び。
しかし、
直前で魔力の壁に阻まれた。
「は?」
その直後に、チップの後方にまっくらな穴が開き、角の生えた馬が現れた。
通常のそれよりも、明らかに黒く染まっている馬は……ユニコーンは、その肢体を、この世界に顕現させ、咆哮する。
「ユニコーン・モーブ!くそっ、タイミングの悪い!」
慌てて周囲を見渡す。倒れたサファと、泡を吹いて気絶している男性に気が付く。
「二人……!どうすれば!」
頭で考えつつも、足と手元は止めない。なるべく二人から遠く、遠く。
瞬間、敵から空を切る音!真横すれすれを、風が通り抜ける。
「考えてる暇はなさそうだな」
手元の銃のマガジンを、素早く切り替えた。
声が響き、姿が変わる!
得物は鋭くナイフに、鎧ですら、それぞれのパーツがナイフのように鋭利に!
『model……』
『T H I E F !!』
一気に、距離をとる。ユニコーンは、倒れた二人に見向きもせずこちらに突撃。
「おい、サリバール!見てるんだろ!」
『はいはい、なんですか』
問いかけた瞬間、無線で応答が返ってきた。
「うおっ、ホントに見てた……あの二人の回収を頼みたいんだが、いいか?」
『ええ、もちろん。あの時みたいな失敗はしませんよ』
頼りにしてる、と。そういい、こちらも敵に突撃する。
敵も同じく、突っ込む!
私ではなく、右手へ!
「目的はこれか」
しかし、素早く後ろに。
「貴様らが持って行ったのか?この錠」
軽く錠を左右に振る。そして鎧を再確認。
モデル、シーフ。盗賊。本質は……逃走。
「逃げ切らせてもらうぞ、貴様ごときに捉えられるかな?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「にしても、よくやるよ……目的のためとはいえ、部下をここまでぼこぼこにするなんてサ」
署の床にごろごろと転がった、二人の体を見下ろす。少女のようなハーフリングに、大学生ほどの男性。サファと……誰だろう?
「おぉい、起きろサファ君」
「……んぁ?」
ゆっくりと彼女は目を覚ます。
「おはようございましゅ、さりーじゅんしゃぶちょー……」
「顔洗ってくるかい?」
「だいじょうぶれすよ~。あ、そうだ。きいてください、へんな夢みたんですよ。桐上隊長に殴られまくっていう。おかげでほっぺたが痛いです。あいたたたーです」
たぶん、それは夢じゃないだろう……まぁ、本人も気づいているだろうが。
あいたたたーって。
「それで、なんでわたしだけ起こされたんですか」
「なかなか鋭いね、サファ君。それは僕が人見知りだからさ」
「うそ」
「あ、やっぱりわかる?誰にも通用しないんだよねえ……ま、いいや。君に知っておいてほしいことがあってね」
「?どうしたんです、急に」
「あの錠」
覚えているかい、とつなぐ。
「君がつけて。そして、ゴブリン・モーブと戦ったあの錠だ」
「?……!えっ!なんで夢の内容を知ってるんですか」
「現実だと気付いてなかったのか⁉」
「そりゃ、まあ」
「もういいや、話を続けよう」
彼女を椅子に座るよう促し、自分もまた、その正面に腰掛ける。
「話したいのは、あれの前の所持者のことだ」
新田安良汰。
その名前だけ言うと、サファの肩がピクリと動いた。
「なにか、どこかで」
「知らないなんてことは、ないだろうね……万が一覚えてなかったら、僕は君を許さない。でも君も、彼のことは詳しくは知らないだろう。時間もなさそうだから、簡単に、単純に、純粋に話そう」
途方もない、話が始まる。
「といっても、彼と知り合ったのは16年前だ。それ以前のことはよく知らないけど」
「16年前?それって戦争の」
「そうだ、その時に彼は……僕らの、異世界人の味方だった」
「え、でも彼って」
「そう、こっちの世界出身だ。でもなぜか、ずっと味方をしてくれていたのさ。こっちのことを何も知らない僕らにとって、彼ほど頼りになる存在はなかった」
「その、えっと、新田安良汰って人は、どうしてリビングメイルを?」
「戦争中に、彼が見つけた。ある意味で、あの戦争の主役さ」
話しは続く。
「そして、戦争は終わった。ある時まで敵だった早希と……ああ、隊長とそれと安良汰とで作り出したのがこの組織さ。親のコネを全力で使ってね」
話は、終局を迎えようとしている。
「でも、そう長くは続かないものだね、幸せっていうのは……ある事件で、彼は、安良田は命を落とした。その事件っていうのが……」
「も……い、す」
「ん?」
「もういいです!」
叫びました。全力で。気が付きたくないことに、それでも知らねばならないことを知ってしまったから。
「彼は……安良汰さんは、私のせいで命を落としたのでしょう?」
「正解」
正面の毛むくじゃらの魔物は、立ちあがります。
「暗い話はここまで。勇者の凱旋だよ」
背後に気配を感じ、振り返ります。
そこには。
血まみれの桐上隊長がいました。
「え?」
とっさに、サリバール巡査部長を見上げます。彼の目は信じられないといったふうに、大きく見開かれていました。
「……早希!」
崩れ落ちそうな彼女の体を、サリバール巡査部長の大きな腕が受け止めました。
「おい、おい!返事をしろ!」
「……油断した。まさか、チップを飲み込むなんて……でも」
取り返した。と彼女は血まみれの手を誇らしげに伸ばします。その手には……あの錠とチップが、しっかり握られてました。
「やった。やったぞ新田」
そういうと、力を失い手が床に打ち付けられます。
「……救急車、早く!」
「は、はい!」
今回はここまで




