大本営にて
それから里井と山本は食堂車で夕食を食べ、食後のコーヒーを飲んでいた。
「ところで、里井君、君ともう一人この世界へ来た少年がいたが、今は何をしているのだ?」と山本に聞かれた里井はこう答えた。
「えぇ、奴は、田辺は陸軍で特殊参謀をやってるそうです。」
「そうか・・・もしかしたら会えるかもしれんな。」
山本は、コーヒーを飲み終えると、車窓に目をやっていた。
それから暫く二人は食堂車でコーヒーを飲んだり、デザートを食べ、時間を潰し、部屋に戻ると直ぐに眠りについた。
時刻は23:00を少し過ぎた辺りだった。
翌朝、山本と里井は06:00に起き、食堂車で朝食をとった。メニューはサラダとパンとジャム、オレンジジュースといった洋風のものだった。
それから部屋の荷物を片付けていたら、大日本帝国の首都東京へつこうとしていた。
『皆様、長時間の御乗車有り難う御座いました。この列車はまもなく終点東京駅へ到着いたします。どなた様もお忘れもののございませんようご注意下さい。』と車掌のアナウンスが入った。
列車は定刻より10分遅い8時10分に東京駅に到着した。
そこからは海軍の車に乗って大本営へ向かった。大本営は海軍の軍令部、陸軍の参謀本部に別れており、海軍軍人の里井と山本は軍令部に呼び出されたのだ。
軍令部に着き、出頭命令を受けて来たのを受付のようなところで申告すると、
「軍令部総長がお待ちです。どうぞこちらへ」と超事務的な口調で受付係が案内してくれた。
彼はドアをノックし、「閣下、おみえになりました。」と受付係が中の人物へ言うと、
「入りたまえ」と渋い声が促した。
里井と山本はその部屋へと入っていった。
そこにいた男は、海軍大臣嶋田繁太郎大将と軍令部総長永野修身大将が椅子に腰かけていた。
「遠いとこからすまないねぇ」と嶋田が言ったが、その言い方というのが、なかなかのウザさだった。
いえいえ、と山本が答えたが、少々イラついたご様子だ。
「今回君たちを呼び出したのは『アレ』についてだ。」『アレ』とは先日の南雲機動部隊の事件だろうと里井は思った。
それから、二人は嶋田が口にした次の言葉に一怒りを覚えた。
「『アレ』については海軍軍令部は発表をしない。つまりなかったこととする。」と山本と里井に告げた。
里井は理由を問いただそうとしたが、察して口にはしなかった。
「用はそれだけだ。」と嶋田が短く言い、山本と里井に退出を促した。二人はこれに従い、大本営を後にした。