いざ、大本営へその1
「ところで長官、何を買われたんですか?」と里井は山本に聞いてみた。
「あぁ、栗饅頭だよ。君も食べるかい?」と山本に勧められたので、ありがたく頂くことにした。うん、中の栗がほどよい甘さでデザートにぴったりだ。
里井は「うまい。」という言葉しかでで来なかった。
それから暫くして広島行きの特急が到着し、列車に揺られて今は広島駅で東京行きの列車を待っているところだ。そこへ「まもなく2番線に17時20分発寝台特急『東海』東京行きがまいります。なお、この列車は全席指定となっております。ご注意下さい。一号車から三号車までは・・・」と駅員が列車の到着を告げるアナウンスをはじめた。ちょうど駅員がアナウンスを終えたところへ蒸気機関車C57が甲高い汽笛を鳴らしてホームへ滑り込んで来た。この特急『東海』は広島駅が起点なのか、乗客が誰一人居なかった。そのため里井と山本は、列車が止まるとすぐ近くのドアへ行き、暖房のきいた車内へ入っていった。
それから30分後、特急『東海』は一路東へと走り出した。
『ご乗車有難うございます。この列車は寝台特急『東海』東京行きでございます。この後の停車駅は岡山、神戸、名古屋、横浜、品川、そして終点東京で御座います。東京までの所要時間は15時間、当列車の東京駅到着予定時刻は現在のところ明朝8時を予定しております。』という車掌のアナウンスが入った。今でこそ新幹線や飛行機などの交通の便が発達したため、2,3時間あれば移動できるが、この当時はこれでも速いほうなのだ。
里井は15時間もの時間をどう潰そうか考えていると、山本が、
「なぁ里井君、私はこの大本営からの出頭命令に違和感を抱いたのだが、君はどうかね?」と訪ねてきた。
これに里井は
「奇遇ですね。自分もそう思っていました。」 とこたえた。
それからは大本営へ行った後の計画を話し合った。
あら程度計画がたった辺りで里井は腹が減ってきた。着けてきた腕時計は19時を指していた。