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第十一章

まだ越えなければならないものは多いです

――イートスはがらんとした広場でゆっくりと自分が戻って来るのを感じる。

 まだだ。まだ魔物だ。

 黒が塗り潰している意識が、次第に透明になるように自分が戻って来ている。

「イートス様。全滅させましたね。これまでとはまるで……」

 手を突き出してレクシアを拒む。

「今の俺に近づくな。壊れている」

「もう合一したでしょう?」

 無防備なレクシアに不意に怒りが向く。

 かっと熱した思いを打ち消すのが遅れる。

 左手の触手がレクシアを掴んでいた。

 レクシアの顔が歪む。

 痛みは合一した後でも感じるようだった。

 魔法ではなく自分自身の一部になっているからか?

 合一の盟約を破っているのか?

「その手は特異点ね。これまでの魔法の原理とは合わないわ」

 セフィの声だった。

「何が起きている?」

「合一しようと、殴り合えば痛いのは変わりません。ガントレットはもう身体そのものなんでしょうね。魔法でありながらそうではない。『脱装』!」

 イートスの魔装が外れ、ローブだけになる。

 まだ左手のガントレットは残っていた。

「もうそれは魔装じゃない……みたいですね」

 神秘でも見たかのようなセフィの声。

「何でもいい、外せないのか」

「願望のままに動きます。どうか抑えつけて心に押し込めて。さもなければレクシアさん、光で抵抗してください。縛られた姿が気に入っているのでなければ」

「イートスに影響はないのか」

 鋭くレクシアが言う。

「怪我は負うでしょうけれど、治療の範囲です」

「……ならば。止むを得ない」

 光の爆発。イートスが目を覆ったほんの少し後にはガントレットは元の姿に戻っていた。

 イートスの左手には痛みがあった。

「火傷しているでしょうね。『治療』」

 セフィが駆け寄って左手を治す。

「これは外せないのか」

 左手をセフィの前で動かして見せた。

「それがイートスさんの新しい左手だと今は考えておいて下さい。外す方法は考えます」

 くるりと踵を返すと、セフィは広場を出て行く。

「急いで降りましょう。日が暮れます」

 その時、何もない空中から封筒が手の中に落ちた。

 イートスに一つ、レクシアに二つ。

「これは……?」

「後で説明します。急いで下さい。帰り道のゴブリンは全部蒸発させます」

 陽は西に差し掛かっていた。

 三人は広場を出る。

 離れていたレニアが合流して、広い帰り道に合流した。

 急峻な箇所に注意を払い、遠目にセフィの業火がゴブリンを灰に変えるのを見ているうちに麓に着いた。

「ふぅ」

 セフィが安堵したように吐息を吐く。

「今日は予想できない事ばかりでした」

「セフィさん、あれ……」

 レクシアが夕闇の中でも赤く光る炎らしいものを指差す。

 はるか遠く。

 炎が燃えている。

「……人家のある辺りですね。馬は使えません。走って来て下さい。私は跳びます」

 ふっ、と馬車からセフィの姿が消える。

 訳もわからないままイートス達は炎に向けて走った。

「盗賊か? 内戦の起きるような場所でもないだろう」

「かなり規模は大きいですね」

 近付いてみれば炎は大きく、高く空に立ち上がっていた。

「それなりの数……いや、力さえあればこの都市では何でも出来るだろうが……」

 辿り着いた集落は火の手に包まれて、崩れそうな建物ばかりだった。

「人が居ないな」

 靴や焦げた服の切れ端はあるが、持ち主らしい姿は無い。

「気を付けましょう。今にも崩れそうです」

 低い建物が多いが、中には二階、三階建てのものもある。

 噴き出す火の勢いで、もうすぐ全て崩れ落ちると分る。

 建物からは離れる。

「どこにでも盗賊はいるのか」

 村人を思った。

 集落の作りは冒険者の集まりではない。

 畑と近くの川、遠巻きにしている獣。

 農業と狩猟。

 優雅な暮らしではないだろうが、落ち着いたのどかな場所だった筈だ。

 イートスの出身もこんな村だった。

 貴族の子弟ばかりの軍幹部に食い込めたのはただ運が良かっただけだ。

 それも初めの頃だけだった。

 記憶を振り払う。

 故郷に居るようで落ち着かない。

「誰がこんなことを」

 声が荒くなる。声が溢れるままにする。

「無慈悲にもほどがある。恥を知れ」

 燃え盛る炎に向けて叫んだ。

 故郷を愚弄されているようにも感じる。

 涙が伝うのも構わず生存者を探していた。

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