4話:薄暮に佇む霊感幼女“ハルカ”の懇願
間違ってプロットがそのまま投稿されていました(しかも数日気づいていなかった)。お恥ずかしい真似を……。ご覧になった方は見なかったことにして続きをお楽しみください。ライブ感で書いてるのでプロット通りにいかないと思いますし。
暴翔族として夜空を暴れまわったギギは、自分のアジトに戻ってきていた。
そこは海上都市の下層区画の一つで、せまっ苦しくて、おおよそ人が住むのに最低限の……あるいはそれ以下の基準しか満たしていないような部屋だった。
スピード狂で海上都市の治安機構にケンカを売るような犯罪者にふさわしい部屋と言えば、そうなのかもしれない。
「ん。これじゃあ戦利品も広げられねえな」
ギギは――今は夜空を飛びまわっていた全裸できんきらきんの恰好ではなく、野暮ったい作業着に身を包んでいた。髪の色も幾分とくすんだ感じで、落ち着いたものだ。ただ、相変わらず性別は不詳だが。
そのギギがパチン、と手を弾くと、一瞬だけ鮮烈な黄色のオーラが体を覆い――、次の瞬間には世界が切り替わっていた。
狭い非人道的な居室とも呼べないような空間は、いまや、だだっ広い伽藍のような、あるいは巨大な倉庫のような空間に拡張されていた。
「これなら置けるだろ。おーい、戦利品ちゃんやーい、でてこーい」
気の抜けるような声とともに、ギギが再び指を鳴らす。
すると、まるで現実を編集したかのように、一瞬で、大きな檻が現れた。
人を一人入れても余裕があるようなその檻は、いまは何かクッションのようなものでパンパンになっていた。
「ほい、緩衝材は邪魔ーっと」
ぱちんと指を鳴らすのをもう一度。
すると、緊急時に見つけやすくするためのドギツイ色の緩衝材は、きれいさっぱり消え去った。
「きゃん!?」
「あ、起きたー? おはよぉ」
中から出てきて檻の中の床に落下したのは、まだ二桁の年齢にも達していないくらいの、幼い少女だった。落ちたときに尻を打ったのか、涙目でそこをさすっている。
無地のTシャツに短パン。伸ばしっぱなしの黒い髪。整った顔をしているが、疲労によるものか、目の下の深いクマと、怯えた表情がそれを台無しにしている。
薄暮、という言葉が頭をよぎるような、そんな幼女だ。
「んーと、君の名前は、どれだい? “アキラ”? “ハルカ”? “レオナ”? それとも――」
「ハルカ、です」
「……ハルカ、ね。実はアキラだったりしない?」
「…ハルカです」
残念、外れだったか~。などと言って頭を掻くギギに対して、檻の中の幼女――ハルカはこう切り出した。
「き……いえ、ギギ、さん。お願いが、あります」
「んー? 俺、名乗ったっけー? まあ言うだけ言ってみなよ、聞くだけ聞いてあげるからさ」
「拾ったのなら、責任もって、保護してください」
真剣な表情をして、しかし震えて怯えて両手を胸の前で握るハルカに対して、ギギは一瞥すら寄越さない。
いつの間にか取り出した端末に表示させたリストを読み、“アキラ”の項目の情報を読み返している。密輸潜水艇の積み荷リストだろうか。
「いやいや、そっちの事情とか知ったこっちゃねーから。お目当てのアキラちゃんじゃなかったなら、ハルカちゃんに用はねーから。ま、適当な、あ、これはある程度適度に真っ当なって意味ね。で、適当な施設かどっかに預けるつもりだから、また売られるよーな心配は……」
「……このまま放り出されたら、呪われます、よ?」
「お?」
そこで初めて、ギギは、檻の中のハルカをはっきりと見た。
「私の異能、オーバードとしての、力。ご存じ、ですよね?」
「あー、アストラル系の、上位能力?」
ギギは手元の端末のハルカの項目を呼び出しながら、そう答えた。
そして、適当に端末を放り投げ――投げられた端末は途中で虚空に消えた――、ハルカの入っている檻を蹴りつけた。
「ナニ、君さ、俺を脅そうっての?」
「いいえ。お願いを、しています。懇願、しています」
――どうか、私にあなたを、呪わせないでください。
「ハッ」
ギギはそれを鼻で笑った。
「関係ねーな。呪いってのは、俺より速いのか? アストラル系の君に興味がないのは、もうそっち方面のアプローチは終わってるからだよ。たとえ目に見えない呪いでも、俺を捕まえることはできねえ」
「そう、だと、いいです、ね」
「チッ。どーせ自分の能力の限界も制御の方法も分からねえってクチだろう。ハッタリも大概にしとくんだな」
ギギが後ろに身を投げ出す。
するとそこには、いつの間にかソファが現れていた。
「で?」
「……」
「続きは? もっと他にねーのかよ、君の手札は」
ソファに腰かけ、手元にドリンクを取り出し、ギギは見下すように尋ねた。
「交渉を、打ち切るつもり、だったのでは?」
「……それを決めるのは、君じゃなくて俺だ。それとも打ち切った方が良かったか?」
「いいえ」
ハルカは、少し思案し、最終的に洗いざらいぶちまけることにした。
「私は、過去視ができます。だから、貴女の過去も――」
「ストップ、オーケー、わかった。交渉成立だ。だから黙ろうか?」
「――貴女の過去を――」
「わぁった、わぁった! 面倒見るよ! 畜生が、君、全部こっちの手札読み切ってたな!?」
焦った様子のギギが無理やり話を切り上げた。
対するハルカは、昏い瞳にわずかに得意げな色を上らせていた。
「さ、あ。どうでしょう、ね。でも、私は、きっと、役に立ちます、よ?」
「はいはい。全くこれだからアストラル系の異能は厄介なんだ! 死んでからが本番みたいなところがあるから、ガン決まってて何言っても脅しになりゃしねえ!」
「――拷問術を、修めてるわけでも、ありませんもの、ね?」
「当たり前だろ! 拷問とかいちいちそんな遅いことやってられるか!? しかもガキ相手に!? やるわけねーだろ! 俺はこれでも堅気なんだぞ!?」
やってらんねー、とギギはソファの上で身を投げ出した。
「あと……」
「なんだよ」
「レオナちゃんと、アキラちゃんは、私の友達なので、見つけて、助けたい、です」
震えを決意で塗りつぶして手を握りしめたハルカに、ギギは檻越しの笑顔を向けた。
そして指をぱちんと一鳴らし。
檻が消えて、ハルカが一瞬でギギの横のソファの上に現れた。
「きゃっ!?」
「それを早く言えよ。まったくスッとろいんだからよ」
■『アストラル系の異能』
ゴーストとかそういう類。発現にあたっても、非実体、半実体、精神体などいろいろなバリエーションがある。
ただ、これらの能力の存在が、天国や地獄などのあの世の存在を保証するものではない。