1話:最速を目指す少年“ギギ”の独白
世界が変わったあの日。
魔力や魔法則が誕生し、発見されたあの日。
俺はまだ母様の胎の中でたゆたっていて、浮き世に赤ん坊として生まれてすらいなかった。
それでも。
目もはっきり形になってなんかいなかったけど――だけど確かに見たんだ。
脳みそだってつんつるてんだったけど――だけど確かに覚えているんだ。
身体じゃなくて、魂の奥の奥のそのまた奥底に刻まれたんだ。
あの空の彼方のもっと向こうで。
星の海よりも遠い場所で駆けた、まばゆい光。
何よりも速い、その存在を、俺の魂は覚えている。
そして憧れている。
焦がれている。
ああ、恋焦がれているんだ。
あの時見た存在に。
あの何よりも速い風の神に。
あの時から俺は、かの神に魅せられた。
生まれたその瞬間から。
いや、魂がこの体に宿ったその瞬間から。
だから、かくありたいと思い定めて生きてきた。
誰よりも速く!
何よりも速く!
光よりも速く!
そしてやがては、あの神よりも速く!
最速を目指して、俺は生きる。
そう決めたんだ。
それこそが存在意義だって、そう信じているんだ。
――最速を目指す少年“ギギ”の独白。
■少年
年若いものを指す。特に男子を示す場合が多いが、語義としては女子も含める。