自動運転社会
道を行き交うたくさんの車。どの車にも、人はひとりも乗っていない。
いつだかに開発された自動運転車は光の速さで世界中に広がり、いまや人が運転する自動車を探すのは困難だろう。
自動化の波は、車だけでなく街全体に押し寄せていた。人工知能との組み合わせにより、今まで人間がおこなっていた行為のほぼすべてが自動化され、機械に取って代わられたと言っていいだろう。
そんな中、昔ながらの方法を守り続けているものも、数は非常に少ないがあった。
その男は扉の前に立つ。センサーは男を感知し、扉を自動で開く。
男はその部屋へ入った。この先、自動化されたものはなにもない。
すべてが人力で、すべてが手動だ。
男はここに来ると、とても気が休まる。
「まったく、今の社会はあまりに自動化しすぎている。
あっちに行ってもこっちに行ってもどこも機械ばかりだ。
これじゃあ人間のために機械が動いているのか、機械のために人間が動いているのかわからない。」
男はひとりでしゃべっていたが、この部屋は完全防音なので外に音が漏れることはない。
男はタバコに火をつける。
「落ち着いてタバコを吸えるのも、もうここくらいか。
どこに行っても禁煙、禁煙。隠れて吸おうものなら自動放水機で火が消されちまう。
やっぱりここは最高だ。タバコも吸い放題だしな。」
部屋には小窓がついていて、風が常に流れているので煙の匂いが充満することもない。
男は文庫本を取り出した。
「やっぱり本は紙に限るな。電子書籍にはない紙の手触り、紙の匂い。
電子書籍じゃとても味わえない。俺はこれが好きだから本を読むんだ。
それなのに部屋に本を置きっぱなしにしておくと、勝手に情報を読み取ってデータ化してしまう。
そしてかさばるからと本は勝手に処分されちまう。たまったもんじゃない。」
しばらく読んだあと、本を閉じストレッチを始めた。
「イスに座ってるだけで勝手に体をもみほぐし、さらに筋肉に電気刺激を与えられる。
運動しなくてもいい社会がまさか来るとはな。
でも俺はやっぱり体を動かしたいんだ。この部屋でなら存分に運動ができる。」
ひとしきりアナログな世界を楽しんだ男。
「さて、そろそろかな。」
と言いながらズボンを下ろし、便器に腰掛けた。




