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第1話 出会い

投稿再開しました!

 神楽祭り。

俺の住む街で行われている、年に一度のお祭りはそう呼ばれていた。

押しあいへしあいする人々の熱気の中、僕は早足で歩く。

祭りが行われている最中の神社は大盛況で、普段の閑散とした様子を全く感じさせない。

まるで浅草にでもいる気分だった。


 汗ばんだ手で支えているのは大きな木箱。中には大量のスピーカー。

人のごったがえす中、これを運ぶのは中々に骨の折れる仕事だ。

時々僕に注がれる、奇異の視線。

ひょっとすると彼らは僕を物好きだとでも思っているのかもしれない。


 別に俺だって、何もやりたくてこんなことをしている訳ではない。

家でごろごろしていたら、親父から人手が足りないからと突然呼び出された。

そして現在、こうして荷物運びの手伝いをさせられているのだ。


 本当はもっと高校生らしいことをしていたい。

例えば昼寝。なんて素晴らしい響きだろうか。一種の清々しさすら感じられるね。

それを何が悲しくて荷物運びなんかに……


 そう愚痴を零しつつ、並び立つ屋台の間を抜けると一気に視界が開ける。

その中央には社殿を模した、朱色の櫓。

賑わいの中心にありながら、その場所はどこか神聖な雰囲気を醸し出していた。


 そしてその上には一際目立つ、鮮やかな紅白の衣裳。

これから神楽を舞うであろう、巫女さんだった。

誰かと話し合っている。

たぶん打ち合せをしているのだろう。


「すみませーん。 頼まれていた機材、持って来ましたー」


声を掛ける。


「はい、ありがとうございます。 そこに置いておいてもらえますか?」


 一瞬だけ目が合う。

端整な顔立ちに、世間の毒に侵されていない無垢な瞳。触れたら壊れてしまいそうな儚ささえ漂っている。

こういう人を、浮世離れしていると言うのだろうか。

僕は彼女が目を逸らした後もしばらく櫓の上から目が離せなかった……


 頼まれていた仕事も終わり、町内会の待機スペースに戻る。

ちょうど飲み物が配られている最中だったらしく、僕にもペットボトルが回ってくる。


「ほれ、哲ちゃんもどうだい、一本飲まないかい」

「あ…ありがとうございます」


 渡されたペットボトルに口をつける。

よく冷えた麦茶が力仕事で火照った体を冷やしていく。

やっぱり汗をかいた後の麦茶は最高だ。


「哲ちゃん、嬉しそうだねぇ。」

「……ええ、まあ」


 そうこうしている内に、先程の巫女さんが戻って来た。

櫓を見上げていた時には気づかなかったが、こうして見ると意外と幼い。

少なくとも、俺よりは年下だろうと思った。


「これから神楽を舞うんだろう? 若いのにすごいねえ。はい麦茶」


隣りに座っていたお婆ちゃんが話しかけている。


「ありがとうございます」


それだけ言って、お婆ちゃんから麦茶を受け取った彼女は、僕に目を留めた。


「あなたはさっき木箱を運んでいた……」

「ああ、この子は奥村さん家の哲ちゃん。さっきも重い機材運ぶの手伝ってもらってたんだよ」

「へぇ、そうなんですか……私は綾乃って言います。 よろしくお願いしますね、……哲っちゃん?」

「……よろしく」


反射的にそう答えるも、何かがひっかかる。


「……なんであんたまで哲ちゃん呼ばわりなんだ?」

「何故って、どう見てもあなたは私より年下だと思うのですが……」


ああ、そういうことか。どうやら綾乃には俺が年下に見えるらしい。


「いや、どこからどう見ても俺の方が年上だろう。 だってあんた、しゃがみ込んだら俺の身長の半分くらいしかないぞ」


そう言いつつ、自分の腰くらいで手をひらひらさせる俺。


「女性よりも男性の身長が高いのはあたりまえです! ていうか、さすがにそれ以上はあります!」


 白熱する俺達。何故か涙目の綾乃。もしかしなくても身長の話題はタブーだったか?


「まあまあ落ち着きな、お二人さん。 同い年なんだから仲よくせにゃいかんよ」 

「「……同い年!?」」


 横合いから突き出された言葉が思ってもみなかった事実を告げる。

思わず隣りを見ると、同じくこちらを向いた綾乃と目が合った。


「哲ちゃんと同い年ですか……なぜでしょう、ひどく屈辱的な気分です」

「それ、全く同じセリフ返してやろうか……」


 ふん、とお互い同時に目を逸らす。

本当になんなんだよこいつ……


 最悪な気分だった。

でも今思えば、それが俺と綾乃の最初の”出会い”だったのだろう。

 永遠の願い、その幕明け……

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