近衛宿舎の顔見知り
マディアンとラロッタは、去って行く騎士らの背を見送りながら、近衛宿舎を出ようと、長い廊下を歩き始める。
「…ローフィス様も、とっくに出陣されていたのね…」
ラロッタの、がっかりした言葉に、マディアンも頷く。
「お会いしたかった?」
ラロッタは頷きながら、沈んだ声で返答した。
「オーガスタス様がとっても忙しいから…隊長のローフィス様も同様。
って思って…新兵のギュンター様をお訪ねしたけれど」
「もう少し遅かったら、ギュンター様にも、お会いできなかったわね………。
でも…」
ラロッタは姉の俯く顔を、見る。
「オーガスタス様が…。
言っても聞かない猛者ばかりだから、いつも余程恐ろしく脅さないと。
って言っていらした意味が、凄く解ったわ………」
ラロッタも、同様俯く。
「私…いつも無表情のギュンター様が…あんなに激しく怒鳴る姿って、初めて見たわ」
二人が同時に、溜息を吐く。
途端、ラロッタが通り過ぎる近衛騎士の一人を見つける。
あちらもこっちを見て、笑顔を浮かべた。
ラロッタは寄って来る騎士に、嬉しげに言葉をかける。
「シェダーズ様!」
シェダーズはラロッタに顔を向け…横の、マディアンを切ない瞳で見た後、気を取り直して囁く。
「今日は…?
補佐殿に会いに?」
マディアンは眉を寄せて囁く。
「すれ違いでしたけど」
「会えるだけいい。
同じ近衛の俺ですら、忙しくすれ違う姿しか、見た事が無いから」
ラロッタは、やっぱり…。
と改めて溜息を、吐き出した。
シェダーズは、近衛宿舎には珍しい、二人の淑女をジロジロ見つめて通り過ぎて行く男らに気づくと、囁く。
「お送りします。
無体な事はされないでしょうが…。
ともかく男、ばかりなので」
言われて、ラロッタも顔上げて周囲を見回したが、マディアンも、こっそり伺ってる男らが彼女らに見返され、慌てて顔背ける姿をあちこちで見た。




