ギュンターへの質問
ギュンターは二人の淑女を見つめ、態度を和らげて尋ねる。
「…どうした?
オーガスタスとは…会えなかったのか?」
ラロッタが口を開きかけたが、マディアンが言った。
「門で。
騎乗して出かけられる、ほんの数分の間」
ギュンターは気の毒げに、頷く。
「敵が侵攻しようと、道を作りまくってる。
こっちは片っ端から防ぎにかかってる。
オーガスタスはその、総指揮を任されてるから…」
「…お忙しいのね…」
マディアンの言葉に、ギュンターは哀しげに頷く。
突然、ラロッタがマディアンの背後から、会話に割って入る。
「…お聞きしたいのは、エリングレンって人の事なんだけど」
が、ギュンターはその名を聞いた途端、眉間を深く寄せた。
「…エリングレン…?
右将軍直属の、射手の名前だ。
俺は新兵だから、詳しくない」
ラロッタが、ほっ。と吐息吐き、顔を深く下げた。
その残念げな様子を目に、ギュンターが言葉を和らげて尋ねる。
「…何で、聞きたい?
あんたの…想い人か?」
尋ねられたラロッタは、光が零れ落ちそうな雰囲気の、けれど男らしさを漂わせた金髪美貌の男に一瞬、見惚れたが、言葉の内容に憮然。と表情を曇らせた。
「マディアンお姉様の、初恋の相手よ!
門で偶然再会したの!」
「…………………」
ギュンターは少し顔を傾け、沈黙する。
が、顔上げる。
「…つまり現状を知りたい。って事か?
…まだそいつが好きなのか?」
ギュンターに真っ直ぐ見つめられて聞かれ、マディアンはびっくりして目を、見開く。
「…………………」
ラロッタが横で、返答出来ず、固まるマディアンに遠慮がちに囁く。
「あの………。
お姉様…?」
「あ…え…そう…ね。
昔の彼はとても好きだったけれど、今の彼を、私は知らないから」
そして、じっ。と見つめるギュンターに、言葉を足して伝える。
「…オーガスタス様程、恋しくは考えられないわ」
「ヤツに、迫られた?」
ギュンターの直ぐ返す問いに、マディアンは二度、びっくりして目を、見開く。
「いいえ。
それは無いけど…突然姿を消して教練に入ってしまったから…」
ラロッタが横から、助け船を出す。
「あちらはお姉様の事、美しい思い出みたいに思ってて、まだ好きみたいだけど。
でもどんな風に人が変わったのか、解らないじゃない?
今はどんな人なのか、周囲に聞けば解ると思って」
それを聞いてギュンターは俯く。
マディアンは、そっ…と囁く。
「同郷の方だから…次に会っても無下には出来ないけれど…人が変わっていて怖い人なら、避けようと思ってますわ」
途端、ギュンターは顔を上げるとにっこり笑う。
「…待ってろ。年上の男なら多分知ってる」
言って、さっ!と扉を開ける。
廊下で部屋に背を向け立っていた、ディングレーが振り向く。
ギュンターは素早く呟く。
「すまん。
もうちょっと時間くれ」
言って、つかつかと部屋を出ると、廊下を挟んだ向かいの部屋の、扉を叩く。
「居るか?!
ディンダーデン!」
ラロッタとマディアンも部屋を出ると、廊下で立って待っている、黒髪の王族、ディングレーを見上げる。
「(流石王族だけあって、威厳溢れ、厳しい雰囲気の騎士だわ…)」
マディアンはそう、思った。
が、隣に立つラロッタは、果敢に尋ねる。
「貴方はご存知じゃ無い?
エリングレンの事」
年若い、気の強そうな女にそう聞かれ、ディングレーは内心ちょっと怯んだものの、王族の威風を崩さぬまま、呟く。
「…右将軍の専属お抱え射手か?
…俺はギュンターと同年で新兵だから、詳しくない」
ラロッタがまた、がっくり。
と首垂れる。
つい、ディングレーも顔を傾けて、首落とすラロッタを見下ろした。




