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赤い獅子と芍薬の花 オーガスタスとマディアン  作者: 心響 (しのん)『滅多に書かない男女恋愛物なろう用ペンネーム』天野音色
二章
37/144

庭園 7



 やがて玄関で、シェダーズの声がする。

取り次の女中が後ろに彼を伴い、やって来て

「マディアン様がサティアン婦人の昼食会にいらっしゃる、お迎えにいらしたそうです」

そう告げる。


挿絵(By みてみん)


シェダーズは帽子を脱いで、庭で(くつろ)ぐ皆へと顔を、上げた途端、そこに左将軍補佐オーガスタスと、新兵ギュンターの姿を見つけ、一辺で固まる。


「…補佐殿…。

いつも忙しくていらっしゃるが、今日は…お見舞いに来られてるのですか?」


ギュンターがオーガスタスを見ると、オーガスタスは項垂れて見える程顔を下げて言った。


「いや。

左将軍に彼女が怪我をしたのは私の不手際だから、治るまでお手伝いをして彼女に不自由かけるなと。

命令されている」


ギュンターはすかさずその後を継ぐ。

「俺は彼の手伝いで駆り出された。

新兵で暇だろう。と言われて」


シェダーズは彼女達にすっかり入り込み、馴染んでる二人を、言葉無く見つめる。


オーガスタスの横。

柔らかな栗色の、ほつれ毛が優しい愛しの淑女、マディアンを目にし、シェダーズは恋い焦がれる彼女を、遠い瞳で見つめた。


途端、ギュンターが口開く。

「どう見ても彼女はオーガスタスに惚れてるから、さっさと(あきら)めた方があんたの為だ。

俺だって、オーガスタスが恋仇だったら、悔しいが諦める」


場の皆が、一斉に金髪美貌のギュンターを注視する。

シェダーズは、彼程の美男でもそうなのか?

とギュンターを見つめ、囁く。


「君でも…その、君ですら、諦めるのか?」

言ってオーガスタスを見るが、オーガスタスは

『嘘付け』と言う表情でギュンターを見ていた。


オーガスタスと自分の顔を交互に見るシェダーズに、ギュンターは頷く。


「…俺は教練(王立騎士養成学校)でこいつとずっと一緒だったが、男らしさを比べられたが最後、もの凄く、落ち込むぞ」


ギュンターが真顔で、シェダーズは思わず、俯いた。

そしてさっ!と顔を上げ、マディアンを見る。


が、彼女を諦めなくてはならない…。

と思った途端、瞳が(うる)む。


ギュンターが立ち上がると、シェダーズの横に立ち

「やけ酒だったら、いつでも付き合うからそう言ってくれ。

あんたの気持ちが解るのは、俺くらいの適任者はいない。

と断言出来る」

と素晴らしい美貌の、けれど無表情で慰めていた。


マディアンが見ていると、オーガスタスは横で頬杖(ほおづえ)付いて(しら)けていて、ギュンターを(あき)れて見、ぼやいた。


「…お前、そんなに俺に恥かかされてたっけ?」


オーガスタスの言葉に、ギュンターがムキになって怒鳴る。

「お前といると俺は男に見られなくて、情けなくて何度も泣きたくなったんだぞ!」


シェダーズがギュンターの横で頷きまくり、ギュンターはシェダーズと一緒に頷きまくって、オーガスタスを更に、呆れさせた。


女性達はギュンターとオーガスタスとを交互に見つめ、見比べて、呆けた。


どう見てもギュンターは綺羅綺羅していて、側に寄るとドキドキする程素晴らしい美貌だし、男らしい色香に溢れてる。

抱き寄せられたりしたら、頬が真っ赤に染まってしまうのは、間違いなくギュンターの方。


オーガスタスはとても大きくて逞しくて、やっぱり側に来られるとその男らしさにドキドキはするものの、いつも親しみやすい笑顔を浮かべていたから、ギュンターのように所在なく落ち着きを無くすような事には、成りそうに無かった。


オーガスタスは彼女達の考えを察し、ぼそり…と呟く。

「大抵の男が恋仇と(にら)むのは、間違いなくお前だ」


シェダーズは思わず横に立つギュンターを見たが、ギュンターは顔色も変えず言い放った。

「マディアンに惚れた男の恋仇は、間違いなくお前だ」


女性達が見ていると、ギュンターは真っ直ぐオーガスタスを見据()え、そんなギュンターからさっ。

と横向き目を背けたのは、オーガスタスの方だった。




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