庭園 7
やがて玄関で、シェダーズの声がする。
取り次の女中が後ろに彼を伴い、やって来て
「マディアン様がサティアン婦人の昼食会にいらっしゃる、お迎えにいらしたそうです」
そう告げる。
シェダーズは帽子を脱いで、庭で寛ぐ皆へと顔を、上げた途端、そこに左将軍補佐オーガスタスと、新兵ギュンターの姿を見つけ、一辺で固まる。
「…補佐殿…。
いつも忙しくていらっしゃるが、今日は…お見舞いに来られてるのですか?」
ギュンターがオーガスタスを見ると、オーガスタスは項垂れて見える程顔を下げて言った。
「いや。
左将軍に彼女が怪我をしたのは私の不手際だから、治るまでお手伝いをして彼女に不自由かけるなと。
命令されている」
ギュンターはすかさずその後を継ぐ。
「俺は彼の手伝いで駆り出された。
新兵で暇だろう。と言われて」
シェダーズは彼女達にすっかり入り込み、馴染んでる二人を、言葉無く見つめる。
オーガスタスの横。
柔らかな栗色の、ほつれ毛が優しい愛しの淑女、マディアンを目にし、シェダーズは恋い焦がれる彼女を、遠い瞳で見つめた。
途端、ギュンターが口開く。
「どう見ても彼女はオーガスタスに惚れてるから、さっさと諦めた方があんたの為だ。
俺だって、オーガスタスが恋仇だったら、悔しいが諦める」
場の皆が、一斉に金髪美貌のギュンターを注視する。
シェダーズは、彼程の美男でもそうなのか?
とギュンターを見つめ、囁く。
「君でも…その、君ですら、諦めるのか?」
言ってオーガスタスを見るが、オーガスタスは
『嘘付け』と言う表情でギュンターを見ていた。
オーガスタスと自分の顔を交互に見るシェダーズに、ギュンターは頷く。
「…俺は教練(王立騎士養成学校)でこいつとずっと一緒だったが、男らしさを比べられたが最後、もの凄く、落ち込むぞ」
ギュンターが真顔で、シェダーズは思わず、俯いた。
そしてさっ!と顔を上げ、マディアンを見る。
が、彼女を諦めなくてはならない…。
と思った途端、瞳が潤む。
ギュンターが立ち上がると、シェダーズの横に立ち
「やけ酒だったら、いつでも付き合うからそう言ってくれ。
あんたの気持ちが解るのは、俺くらいの適任者はいない。
と断言出来る」
と素晴らしい美貌の、けれど無表情で慰めていた。
マディアンが見ていると、オーガスタスは横で頬杖付いて白けていて、ギュンターを呆れて見、ぼやいた。
「…お前、そんなに俺に恥かかされてたっけ?」
オーガスタスの言葉に、ギュンターがムキになって怒鳴る。
「お前といると俺は男に見られなくて、情けなくて何度も泣きたくなったんだぞ!」
シェダーズがギュンターの横で頷きまくり、ギュンターはシェダーズと一緒に頷きまくって、オーガスタスを更に、呆れさせた。
女性達はギュンターとオーガスタスとを交互に見つめ、見比べて、呆けた。
どう見てもギュンターは綺羅綺羅していて、側に寄るとドキドキする程素晴らしい美貌だし、男らしい色香に溢れてる。
抱き寄せられたりしたら、頬が真っ赤に染まってしまうのは、間違いなくギュンターの方。
オーガスタスはとても大きくて逞しくて、やっぱり側に来られるとその男らしさにドキドキはするものの、いつも親しみやすい笑顔を浮かべていたから、ギュンターのように所在なく落ち着きを無くすような事には、成りそうに無かった。
オーガスタスは彼女達の考えを察し、ぼそり…と呟く。
「大抵の男が恋仇と睨むのは、間違いなくお前だ」
シェダーズは思わず横に立つギュンターを見たが、ギュンターは顔色も変えず言い放った。
「マディアンに惚れた男の恋仇は、間違いなくお前だ」
女性達が見ていると、ギュンターは真っ直ぐオーガスタスを見据え、そんなギュンターからさっ。
と横向き目を背けたのは、オーガスタスの方だった。




