庭園 2
朝食の席で妹達は、テーブルの塩を手渡すギュンターに、きゃあ!と声を上げ、ギュンターが動く度にきゃあ!と小声で叫ぶ。
オーガスタスが見ていると、珍しく食卓に居る父親は、娘達のはしゃぎぶりにげんなりした様子で項垂れていて、母親はにこにこ微笑んで
「こんな美男なお方って、私ですらお目にかかったことがありませんもの!」
と、娘達をたしなめる様子も無い。
ギュンターは顔を上げ
「俺の優美なのは顔だけで、中身は粗雑で乱暴者だから…」
と言うと、食卓の歓声は更に高まり
「お強いのよ!」
「とても、勇敢でいらっしゃって!」
と女性達は頬染めて叫ぶ。
ギュンターはオーガスタスの顔を、確認を取るように見つめた後
「多分付き合えば、俺の性格は顔とかけ離れてるから、うんと失望するぞ?」
と言い、女性達は
「お付き合いして下さるの?!」
と都合の悪い部分はばっさり斬って、はしゃぎまくるものだから、ギュンターも顔を下げたが、オーガスタスも、そして同席してる、父親迄もが同様に、顔を下げた。
父親は玄関を出る際、ギュンターに
「かしましい娘達で、大変すまない」
と告げて行き、娘達は父親を、大ブーイングで見送った。
朝食の後、庭で皆でテーブルを囲みお茶をたしなむ。
午前の風がたいして広くは無いけれど、きちんと手入れされた庭を吹き抜ける。
「ローフィス様は婚約者がいらっしゃるそうですけど…ギュンター様はご婚約は、まだ…?」
母親に、ティーカップの乗った皿を手渡され、ギュンターは一瞬、返答を待ち構えてる娘達の雰囲気に気圧されたように、戸惑い…けれど口開く。
「俺は…片思いの…相手がいて、振り向いて貰えない」
「まあ!」
その場はけたたましく論争が始まり、母親も娘達も、彼が片思いを止めて、別の女性に気持ちを向けないのかを口々に質問を投げかけ、探り始める。
マディアンはつい、横のオーガスタスを見る。
彼は落ち着いていて、マディアンは少し、彼が夕べの事を綺麗に忘れてしまっていないか、不安になって伺う。
「…ギュンター様。って、どこでもこんな風ですの?」
「ええ、大抵」
言って、振り向くオーガスタスは、マディアンがじっ…と見つめているのに気づいた途端、頬を染め、顔を背ける。
マディアンは彼のその反応に、ほっ。として尋ねる。
「私の事、意識していらっしゃって?」
オーガスタスは赤い頬で俯いたまま、小声で答える。
「…あいつ…ギュンターの居る場では、大抵女性は彼しか視界に入らないから…つい」
そして思い直したようにマディアンを見るが、マディアンが自分を見ていて、視線をギュンターに向ける様子が無いのに、更に狼狽えた様子で頬を、赤らめた。




