庭園 1
次の日、マディアンは階下の妹達の叫声に、何が起こったのか。
と、壁を伝いながら部屋を出る。
あまり派手に動くと痛むけれど、そっとならもう、歩けるようになって、階段の手すりに掴まり、下を見下ろす。
ゆっくり三段程降りると、階下のオーガスタスがはっ!と顔を上げ、直ぐ手助けする為に階段を駆け上がって来る。
腕を支えられ、腰に腕を回されるとマディアンは、なぜかその大きな手の平の感触に、真っ赤に成った。
オーガスタスはそれを見て狼狽え
「大丈夫ですか?」
と屈んで顔を、覗き込む。
夕べ…室内で暗かったけど、その間近で見る顔の、その唇に…。
“確か、私の方から口づけたんだわ”
そう意識した途端、マディアンはもっと真っ赤になって、オーガスタスは仕方なさげに少し顔を離し、そっと寄り添って階下に促す。
マディアンは横のオーガスタスを見上げるが、彼は差し障りの無いようにマディアンの腰に手を添え、倒れないように支えながら、横を一緒に一段ずつ、降りて行く。
「(まあ…!
ちゃんと紳士的に、振る舞えるお方なんだわ)」
階下を見ると、ラロッタがオーガスタスの紳士ぶりにうっとり見惚れ、そして…金髪の背の高い男性が見え、その周囲を妹達が取り巻いていた。
「…今日はギュンター様が、ご一緒なの?」
そう振り向いて尋ねると、オーガスタスは少し困ったような表情で、小声で答える。
「ローフィスはあれで隊長をしていて…今日は隊務があるので、どうしてもその予定が外せなかったんです」
近づきつつある階下を見つめると、妹達はギュンターの、男らしい、けれど優美な美貌に見惚れ、彼の周囲で呆けている。
ギュンターは顔を上げ、階段を、マディアンを支え降りて来るオーガスタスに、視線を送る。
横のマディアンに気づくと、ギュンターは少しすまなさげに顔を、下げる。
「俺でも荷物持ち程度は務まるが…ローフィスのように、巧い口は聞けない。
今日は俺で、悪かったな」
その素っ気無い謝罪に、マディアンはつい、オーガスタスを見る。
オーガスタスは気づいたようにマディアンに振り向く。
「顔はあの通り、そこら辺でお目にかかれない美男だが、中身は普通の男だ」
マディアンはギュンターを見た。
けれど…とても素直そうなお方だわ。
そう思って。
階段を降りきると、マディアンはギュンターが、オーガスタスよりは低いけれど、普通からしたらとても長身なのに気づく。
ローフィスですら、二人きりで立って並ぶと、かなり背が高く感じるのに。
ギュンターはオーガスタスを見ると
「俺が馬鹿な事言ったら、叱ってくれて結構だ」
と告げる。
オーガスタスは少し彼に屈むと、小声で囁く。
「左将軍に、何か言われたのか?」
ギュンターは項垂れる。
「女性だらけだから、直接話法は控え、行儀良く接しろ。と」
マディアンが見ていると、長身のギュンターが項垂れる様を、オーガスタスは弟がしょげてるのを見るように、くすくす微笑って見つめていた。
オーガスタスはその様子を呆然。と見ている妹達に
「こんなデカい男がしょげてるのは、珍しいか?」
と笑顔で尋ねる。
が、アンローラは両手胸の前で組んで
「いいえ!」
と叫び、次女エレイスも
「とても新鮮ですわ!」
とやっぱり、叫んだ。




