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赤い獅子と芍薬の花 オーガスタスとマディアン  作者: 心響 (しのん)『滅多に書かない男女恋愛物なろう用ペンネーム』天野音色
二章
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花祭り 8



 帰り際、見送る奥方と娘達に、オーガスタスは振り向いて告げる。

「…私に失恋したなどと、マディアン様は錯覚(さっかく)しておられる様子だ」


その言葉に、ラロッタも末っ子アンリースも、母親も、色めき立って長身のオーガスタスを、揃って見上げる。


「…彼女のような淑女に、私のような乱暴者は似合わないと…彼女は気づいていない」


次の言葉に、ラロッタもアンリースも…母迄もが項垂れる。


ラロッタが、いとまを告げて背を向ける、オーガスタスに怒鳴る。


「女心がちっとも、お分かりにならないのね!」


オーガスタスはチラと振り向くが、ローフィスと連れだって玄関を、離れた。


ローフィスの視線がずっと注がれ続け、とうとうオーガスタスは

「何だ!」

と怒鳴る。


ローフィスは肩竦めると

「俺の言いたいことは(すで)に、ラロッタがお前に怒鳴った」

と言い、さっ。とオーガスタスから顔を(そむ)けるもんだから、オーガスタスを更に、睨み顔にした。




挿絵(By みてみん)


 その夜、ローフィスは左将軍ディアヴォロスに呼び出され、左将軍官舎に足を運ぶ。

私室のソファでガウンを着て寛ぐディアヴォロスは、ローフィスが召使いに部屋に通されて姿を見せると、ソファから立ち上がり、うっとりするような綺麗な微笑を見せた。


挿絵(By みてみん)


「流石の君でも、手こずってる様子だ」


ローフィスは肩を竦める。

「相手の女性を見て、どうするかは俺が決めて良い。

とあんたは言った。

…実際マディアン嬢の様子を見てると…」


「オーガスタスよりも、彼女の味方に付きたくなるんだな?」

長椅子の背から顔を突き出してそう告げるギュンターを、ローフィスは見る。


挿絵(By みてみん)


「呼んだのか?」

尋ねると、目前のディアヴォロスは微笑む。


「君を明日公務から外そうと思ったんだが…。

隊長会議にどうしても、顔を出せと言われてね。

君の所の副隊長は、君の代理が出来ない」


「…悪かったな!」


ギュンターの横に座るディングレーも、長椅子の背から顔を出して、振り向いて唸る。


挿絵(By みてみん)


ローフィスは一つ、溜息を吐く。


「…はっきり言うと、あいつ(オーガスタス)…端から押さないと、態度は柔らかだが彼女にたいそう、つれないぜ?」


ディアヴォロスはローフィスを、ソファに導く。

ローフィスは連れだって歩き出し、ソファの前でディアヴォロスから、グラスを受け取り注がれた酒を見る。


ディアヴォロスはにっこり笑う。

ローフィスはグラスをディアヴォロスに差し上げ、呟く。

「労ってくれて嬉しい…。

が、今俺が抜けると…」

そして、長椅子にグラス片手に座るギュンターとディングレーを見ながら、一人掛けのソファに腰掛ける。

「…俺の代理に…ギュンター?」


ディアヴォロスは頷きながら、横のソファに座る。

そして、ローフィスに促すような視線を送る。

ローフィスは気づくと、ギュンターに顔を向けて喋り出そうとし…。

が先に、ギュンターが素早く告げる。


「あんたみたいに俺にやれと言われても、出来ない」


ローフィスは頷く。

「俺も、やれとは言わないから安心しろ」


ディングレーが、横に座るギュンターを見る。

「どっちみち、妹が四人もいるんだろう?

どうせお前は妹に取り巻かれて、オーガスタスを取り持つどころじゃないと思うな」


ギュンターが、横のディングレーをじっ。と見る。

「…あんたが副隊長の職務を全うし、ローフィスの代理で隊長会議に、一人で、出かけられたら、俺の出番は無かった」


ディングレーの、眉が寄る。

「お前らしくない、回りくどい言い回しだな。

…何が言いたい」


ディアヴォロスはくすくす笑う。

「君が有能だから。

ローフィス。

あちこちで君が必要で、困るな」


ディングレーは溜息を吐く。

「…だって隊長会議って、敵対勢力のいけすかない奴らが雁首揃えてるんだぜ?

俺が一人で出て…どうせ奴ら、年上だとかで横柄な態度で見下してくる。

…乱闘になってもいい。

と言うんなら、俺一人で出るが」


ディアヴォロスとローフィスが、即座に揃って素っ気無く言う。

「駄目だ」

「…困る」


年上の敬愛する二人に言われて、ディングレーはギュンターに肩竦めて見せる。


ギュンターは高級酒が入ったグラスを口元で傾け、呟く。

「…で、俺の出番?」


ディアヴォロス、ローフィス、ディングレーの三人が、頷く。


ローフィスが、即座に言った。

「父親は仕事で居ず、女性ばかりだから絶対!

暴力沙汰は御法度!

態度も控えろ!

猛獣ぶりはなるべく、淑女達の前では見せるな!

凄く、怖がられるからな!」


ギュンターは、しょげて言った。

「…だって、オーガスタスが一緒だろう?

俺が暴力沙汰したらどうせ止めるし…あいつがいれば、俺が牙剥く必要も無い」


ディアヴォロスは頷くと、にっこり微笑って言った。

「…後は務めて…直接話法は控えて、上品にね」


ディングレーが、ギュンターにとっての無理難題に思わず横を向き、ギュンターは

『それが一番苦手だ』

と言うように、項垂れきって、溜息を吐いた。



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