オーガスタスの介抱 3
夕食が終わり、オーガスタスがマディアンを寝室に運ぼう。
と抱き上げた時、彼女の母は、オーガスタスに笑顔で近寄る。
「頂き物の高級酒がございますの。
この後、飲んで行かれません事?」
オーガスタスは少し、困った顔をし
「いや、俺は…」
そう、断ろうとする。
マディアンは母が、彼の身分が近衛の左将軍補佐だと知って、愛想を振りまいてる。
と解り、母に、オーガスタスに代わって告げた。
「彼は忙しい身なのに、こうしてお世話して下さるんだから、無理は言っちゃ駄目よ。お母様」
母は、そうね。
と意見を引っ込め、食卓の席に残る近衛の隊長ローフィスに、残り四人の娘の名を次々と上げ、勧めていた。
ローフィスは
「婚約者が居るので」
と、丁寧な断りを入れ、テーブルの母と娘達を、がっかりさせていた。
寝台に、マディアンを乗せて身を起こすオーガスタスに、彼女はそっと謝罪する。
「母はその…娘が五人も居るものですから…皆嫁がせないと。
と必死なんです」
「貴方がたを、とても愛していらっしゃる」
「ええ。
幸福を願ってますわ」
オーガスタスが暗がりの中、胸痛む表情を見せ、マディアンはもう少しで…身体の痛みも忘れ、彼に駆け寄りそうになった。
少し…動いたところで背中と腿に痛みが走り…それで、呟く。
「…天国に居るご両親もきっと…天国に居るからこそ、余計に…貴方が幸福に成ることを、願っていらっしゃると思うわ」
オーガスタスはそれを聞いて俯き…そして…ぼそり。と言った。
「俺の中で二人は未だ、青い顔をし、目を瞑って、冷たい石の床の上に横たわっている」
マディアンはそれを聞いて、激しく泣き出しそうに成った。
だけど彼が、女の涙が辛いのだと思い直し、必死で…告げる。
「それは…肉体だわ。
魂はきっと…ずっと貴方を見つめているわ」
オーガスタスはそっ…と顔を上げて、掠れた声で囁く。
「そうかもしれない。
俺は…かなり、運がいい。
それを思うと…二人が俺を必死で…悪運から、引き上げようとしている。
とは…感じている」
マディアンは、ほっ。として、囁き返した。
「きっと…そうだわ」
そう言った時、子供の頃のオーガスタスが、両親に心から愛されて育った…その様子が、目に見えるようで、マディアンは涙が滴った。
そんなにも愛してる幼い息子を、この世にたった一人残し、逝かなくてはならなくて、どれ程辛かったでしょう…。
そう思うと、マディアンは扉が閉まり、オーガスタスの足音が遠ざかるのを聞きながら、涙で頬を、濡らし続けた。




