オーガスタスの介抱 1
翌日、マディアンは階下で妹達の歓声が響くのを聞いた。
「ギュンター様は?
ご一緒じゃないの?!」
暫くして、ノックが聞こえ
「どうぞ」と言うと、扉が開いて…オーガスタスが、花を持って入って来る。
赤い、薔薇の花束。
「…左将軍に注意されたが…もっとその…優しい色の花がいいと。
だが他に無くて…」
マディアンはその大きな男が、困ったように言い訳するのに、くすくすと笑う。
「それに…あんたに嫌われるようにする。
と約束したから…」
「赤い薔薇も、大好きよ?」
オーガスタスは、失敗した。と言うように項垂れて室内に入り、花束を差し出した後、手紙を手渡す。
マディアンは花束を受け取り、差し出された丸めた羊皮紙を手に取ると、蝋印の付いた紐を解いて、広げる。
左将軍ディアヴォロスからの書状で、中には丁寧に不手際についての詫びが書かれていて、その後
“オーガスタスの不手際なので、彼を貴方のお体が回復する迄、私の職務から外し、貴方の専属に配置致しました。
ご不自由かと存じますが、その男に何なりとご命令され、回復に努めて下さい”
と書かれてあって、マディアンは室内で突っ立つ、オーガスタスを見つめる。
オーガスタスは俯くと、ぼそり。と言った。
「左将軍から、君が動き回れるようになる迄、君の側を離れず面倒を見るように。
と言い渡されてきた」
「書状にも、そう書かれているわ」
オーガスタスはそれを聞いて、俯き加減に顔を下げる。
マディアンはオーガスタスの、少ししょげた様子に、不安になって尋ねる。
「あの…ご命令されて無理に嫌な事をしていらっしゃるなら、私の方から左将軍様に…」
「この男は貴方に気があって、深入りするとマズい。
と思ってるから、困ってる」
ふいに戸口からの声で、マディアンもオーガスタスも、室内に許可も取らず入って来た男を見つめる。
「…ローフィス…」
オーガスタスの呻く声で、彼は知人なのだと、マディアンに解った。
金に近い明るい栗毛の、青い瞳が印象的な爽やかな青年。
軽やかに微笑むと、寝台のマディアンに視線を投げる。
「この男はこの通り、力があるので貴方をご希望の場所に運びます。
私は、貴方が必要な物を調達する係」
そう言われて、マディアンはオーガスタスからしたら小柄な、けれど男性としては長身な、ローフィスと呼ばれた青年を見つめる。
「貴方も…左将軍の部下でいらっしゃるの?」
ローフィスは軽やかに微笑む。
「ああ失礼。自己紹介がまだでしたね。
近衛で隊長をしている、ローフィスと申します。
この男とは級友で。
左将軍はそれを知っていて、この男の不手際の後始末の手伝いを、私に依頼しました。
ご覧の通り…」
言って、ローフィスはオーガスタスの横に来ると、うんと上にあるオーガスタスの肩に手を乗せ、オーガスタスを見つめる。
「非常に男らしいんですが、ご婦人の事には気が回らない」
「…私に気があると、世話をするのに困られるんですか?」
マディアンがローフィスに尋ねた途端、オーガスタスは顔を、俯ける。
ローフィスはそれを見ながら、朗らかに笑う。
「この男は戦場では滅法強く、大層勇敢ですがその…女性の涙に、致命的に弱くて。
近衛の男が命を亡くすと、残された妻や家族が涙に濡れるのを、幾度も見ているので。
それで真剣に女性と付き合う事を、怖がっているんです」
「怖がって、いらっしゃるんですか?」
オーガスタスが睨む中、ローフィスはそれでも大きく頷き
「ましてや貴方は淑女の中の淑女。
更にとても心の暖かい、お優しいお方に見える。
そんな女性は、この男で無くとも悲しませたく無いと思うものです。
現に、私だって
“命の危険大きい、近衛の騎士等選ばず、他の連隊騎士を選ぶべきだ”
…そう思うくらいですから、女性の涙に死ぬ程弱いこの男が、私以上に思うのも、無理無い事だと思われませんか?」
そう、微笑む。
「…まあ…!
私…そんなにこの方の、弱味を突いてしまったのかしら?」
ローフィスは大きく頷く。
「ご自身か近衛か。
彼は選ぶ日が来る。
と、貴方を避けている。
つまりそれ程…」
「ローフィス。いい加減口閉じろ!」
オーガスタスの叱咤にも、ローフィスは悪びれなく肩を竦める。
「真実だから、怒ってる」
オーガスタスはもう、頭を抱えていて、それでもにこにこ笑うローフィスに、マディアンは微笑み返す。
「では私、それ程までに彼に好かれてる。
と思って、いいのかしら」
ローフィスは、答える必要があるのか?
とオーガスタスの、頭を抱える様を指差して、肩竦めて見せる。
マディアンが一辺に笑顔になり、ローフィスはますます笑い、オーガスタスは頭を抱えたまま、顔を上げられなかった。




