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赤い獅子と芍薬の花 オーガスタスとマディアン  作者: 心響 (しのん)『滅多に書かない男女恋愛物なろう用ペンネーム』天野音色
二章
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オーガスタスの介抱 1





 翌日、マディアンは階下で妹達の歓声が響くのを聞いた。

「ギュンター様は?

ご一緒じゃないの?!」


暫くして、ノックが聞こえ

「どうぞ」と言うと、扉が開いて…オーガスタスが、花を持って入って来る。


挿絵(By みてみん)


赤い、薔薇の花束。

「…左将軍に注意されたが…もっとその…優しい色の花がいいと。

だが他に無くて…」


マディアンはその大きな男が、困ったように言い訳するのに、くすくすと笑う。


「それに…あんたに嫌われるようにする。

と約束したから…」

「赤い薔薇も、大好きよ?」


オーガスタスは、失敗した。と言うように項垂(うなだ)れて室内に入り、花束を差し出した後、手紙を手渡す。


マディアンは花束を受け取り、差し出された丸めた羊皮紙を手に取ると、蝋印(いんろう)の付いた紐を解いて、広げる。


挿絵(By みてみん)


左将軍ディアヴォロスからの書状で、中には丁寧に不手際(ふてぎわ)についての()びが書かれていて、その(のち)


“オーガスタスの不手際なので、彼を貴方のお体が回復する迄、私の職務から外し、貴方の専属に配置致しました。

ご不自由かと存じますが、その男に何なりとご命令され、回復に努めて下さい”


と書かれてあって、マディアンは室内で突っ立つ、オーガスタスを見つめる。


オーガスタスは俯くと、ぼそり。と言った。


「左将軍から、君が動き回れるようになる迄、君の側を離れず面倒を見るように。

と言い渡されてきた」

「書状にも、そう書かれているわ」


オーガスタスはそれを聞いて、俯き加減に顔を下げる。


マディアンはオーガスタスの、少ししょげた様子に、不安になって尋ねる。

「あの…ご命令されて無理に嫌な事をしていらっしゃるなら、私の方から左将軍様に…」


「この男は貴方に気があって、深入りするとマズい。

と思ってるから、困ってる」


挿絵(By みてみん)


ふいに戸口からの声で、マディアンもオーガスタスも、室内に許可も取らず入って来た男を見つめる。


「…ローフィス…」

オーガスタスの呻く声で、彼は知人なのだと、マディアンに解った。


金に近い明るい栗毛の、青い瞳が印象的な爽やかな青年。

軽やかに微笑むと、寝台のマディアンに視線を投げる。


「この男はこの通り、力があるので貴方をご希望の場所に運びます。

私は、貴方が必要な物を調達する係」


そう言われて、マディアンはオーガスタスからしたら小柄な、けれど男性としては長身な、ローフィスと呼ばれた青年を見つめる。


「貴方も…左将軍の部下でいらっしゃるの?」

ローフィスは軽やかに微笑む。


「ああ失礼。自己紹介がまだでしたね。

近衛で隊長をしている、ローフィスと申します。

この男とは級友で。

左将軍はそれを知っていて、この男の不手際の後始末の手伝いを、私に依頼しました。

ご覧の通り…」


言って、ローフィスはオーガスタスの横に来ると、うんと上にあるオーガスタスの肩に手を乗せ、オーガスタスを見つめる。

「非常に男らしいんですが、ご婦人の事には気が回らない」


「…私に気があると、世話をするのに困られるんですか?」

マディアンがローフィスに尋ねた途端、オーガスタスは顔を、俯ける。


ローフィスはそれを見ながら、(ほが)らかに笑う。


「この男は戦場では滅法強く、大層勇敢ですがその…女性の涙に、致命的(ちめいてき)に弱くて。

近衛の男が命を亡くすと、残された妻や家族が涙に()れるのを、幾度も見ているので。

それで真剣に女性と付き合う事を、怖がっているんです」


「怖がって、いらっしゃるんですか?」

オーガスタスが(にら)む中、ローフィスはそれでも大きく(うなず)

「ましてや貴方は淑女の中の淑女。

更にとても心の暖かい、お優しいお方に見える。

そんな女性は、この男で無くとも悲しませたく無いと思うものです。

現に、私だって

“命の危険大きい、近衛の騎士等選ばず、他の連隊騎士を選ぶべきだ”

…そう思うくらいですから、女性の涙に死ぬ程弱いこの男が、私以上に思うのも、無理無い事だと思われませんか?」

そう、微笑む。


「…まあ…!

私…そんなにこの方の、弱味を突いてしまったのかしら?」

ローフィスは大きく頷く。

「ご自身か近衛か。

彼は選ぶ日が来る。

と、貴方を避けている。

つまりそれ程…」


「ローフィス。いい加減口閉じろ!」

オーガスタスの叱咤(しった)にも、ローフィスは悪びれなく肩を(すく)める。


「真実だから、怒ってる」


オーガスタスはもう、頭を抱えていて、それでもにこにこ笑うローフィスに、マディアンは微笑み返す。

「では私、それ程までに彼に好かれてる。

と思って、いいのかしら」


ローフィスは、答える必要があるのか?

とオーガスタスの、頭を抱える様を指差して、肩竦めて見せる。


マディアンが一辺に笑顔になり、ローフィスはますます笑い、オーガスタスは頭を抱えたまま、顔を上げられなかった。



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