ヨーンの襲撃 6
馬車に乗せられ、自宅に着いても馬車から抱いて降ろされ、マディアンはオーガスタスに抱き上げられたまま、玄関を潜る。
母は飛んで来て、立派なオーガスタスを見上げ、娘の部屋を指し示し、後でお茶を。
と言って、医者を呼びに行く。
オーガスタスはマディアンの部屋を見た。
薄いピンク色の優しい壁紙。
クリーム色の柱。
綺麗な飾り付きの、銀色の美しい櫛の置かれた、銀の縁飾りのある鏡台。
薄いピンク色のレースが、ふんだんに使われた枕や天蓋のカーテン。
彼女を寝台にそっと降ろすと、オーガスタスは所在なく見えた。
開け放たれた窓からは爽やかな風が吹き込み、レースのカーテンを揺らしている。
マディアンは彼の温もりから放されて、かなりがっかりした。
とても、安心だった。
男として見たら、きっと手綱が取れない。
以外の事で、彼程素晴らしい男性は、居ないに違いない。
“…だからきっと、左将軍補佐とか、していらっしゃるのね”
母が来て、医者はもう暫くしたら来る。と告げ、お茶を女中が運んで来て、マディアンは寝台にもたれながらカップを持ち上げ、横のソファで大人しくお茶を口に運ぶ、オーガスタスに視線を注ぎ続けた。
「…まだ私に、怒っていらっしゃる?」
マディアンが小声でそう尋ねると、オーガスタスは少し後悔したような表情を見せ、言葉を詰まらせる。
「…怒ってらしたのは、貴方だ。
だがそれも無理は無い…。
俺の怒りは…」
言って、顔を上げる。
ヨーンを殴った時黄金に輝くように見えた瞳は、今は悲しみを湛えた鳶色に見えた。
「…貴方の痛みが消えれば、消え去る」
「私の事で、責任を感じていらっしゃるのね?」
オーガスタスはさっ!と、首振って横向く。
「ギュンターを止めたのは俺だ!
あの時奴に殴らせておけば、今貴方は寝台に等居なかった!
…いや…。
尾行などせず、もっと早くに殴っておけば…」
マディアンは、顔を下げるその勇猛な“赤い獅子”にそっ…と尋ねる。
「近しいお方が、私の様な目に、合われた事があるのね?」
だが今度はオーガスタスが、顔を上げて低く通る声音できっぱり、告げる。
「貴方の事を心配している!
お怪我までされたから!」
マディアンは真っ直ぐ見つめられ、怒鳴るようにそう言われた途端、顔が赤く成った。
けれど顔を上げると、オーガスタスその人も、頬を赤らめ、所在ないように狼狽えて首を横に、振っていた。
「(私の事、意識していらっしゃる…?)」
マディアンは途端、心がうきうきしてしまって、痛みが綺麗に消えて行きそうで、思い止まった。
怪我をしてるからこそ、彼はここにこうして付き添っていてくれるんだし…実際手当ても受けて無くて、きっと彼が自分から関心が消え去ったら、派手に痛む。
と予想出来たから。
間もなく医者が来て、オーガスタスは部屋を、出て行ってしまった。
腿の裏は紫色に腫れ上がり、背にも幾つか痣が出来ている。
と医者は診断し、湿布を貼られてマディアンはほっとした。
けれど医者は
「暫くは、無理をして体を動かさないように」
と告げて行く。
医者が出て行き、入れ替わりに室内に入ってきた人物に、マディアンは瞳を輝かせた。
が、入って来たのはシェダーズだった。
「大丈夫でしたか?!
そこに左将軍補佐が…」
「…帰ってしまわれた?」
小声だったが、シェダーズがそれで…マディアンの、彼への恋心を察したように…項垂れて告げる。
「いえ…まだ。
貴方にご挨拶がしたいと。
そうおっしゃっていらした」
「お通しして」
シェダーズは…暫く顔を下げたまま、それでもゆっくり、顔を上げる。
青ざめ、憔悴した面持ちで。
「…ええ…そうしましょう」
そして…肩を落とし顔を下げ、室内を出て行く。
すれ違い入って来た横の大男、オーガスタスを見上げ、苦しげに顔を下げて…。




