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赤い獅子と芍薬の花 オーガスタスとマディアン  作者: 心響 (しのん)『滅多に書かない男女恋愛物なろう用ペンネーム』天野音色
三章
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感激の再会





 ギュンターの馬が左将軍補佐官邸の門を潜り、邸宅前の広場へ駆け込む。


馬を止めるとギュンターは直ぐ、飛び降りて、馬上のマディアンに両腕差し出す。

マディアンが掴まると、ギュンターは優しく地上に降ろす。

「(…ギュンター様って…長身の割に、身軽なんだわ…)」


ギュンターが振り向くから、マディアンは頷いてギュンターの後に、付いて行った。


中央玄関ホールは広く、焦げ茶が基調の重々しい内装で、マディアンはその広さに思わず、きょろきょろした。


ギュンターが気づいて、手を握り引く。

ホールの左右に階段があって、右の階段へと導かれる。


高い高い天井。

大きな、飾りの少ないシャンデリア。


けれど手すりは茶色でぴかぴかで艶があって、階段も横幅が広く、焦げ茶の、金に縁取られた絨毯が敷かれている。


階段を上がって右の廊下の床もぴかぴか。

扉も飾りが彫り込まれてる。


ギュンターは気にせず扉を開ける。

丁度、オーガスタスが笑ってるところで、ディングレーが笑われて凄く不機嫌な顔をしていた。


ローフィスが、姿を現すギュンターを見、グラスを差し出して言う。

「お前も飲むか?

丁度、開けたところ…」


そこ迄言って、ギュンターは横にどく。

途端、マディアンの美しい姿を見て、オーガスタスが目を見開いて、笑い止む。


マディアンが、駆け出す。

オーガスタスは椅子から立ち上がりかけ、肩が痛んでくっ!と眉間寄せ、が、椅子の手乗せを掴み、そのまま立ち上がって両腕広げる。

マディアンが胸に倒れ込み、オーガスタスはそのまま、彼女を両腕で抱きしめた。


ローフィスはとっくに、グラスを持ってギュンターの居る戸口へと歩いていたが、惚けて見つめるディングレーに気づいて囁く。

「行くぞ!」


ディングレーはローフィスに振り向く。

ギュンターが、美貌のすまし顔で言った。

「俺達は邪魔だ」


そこまで言われてディングレーは慌てて歩き出し、椅子の脚に足先ぶつけて

がっ!

と音立ててヨロめく。


マディアンを抱きしめるオーガスタスがチラ、と視線を送るから目が合うが、慌ててローフィスとギュンター待つ、戸口へと、歩いて行った。



マディアンは懐かしい…温かい腕に包まれて、感激で言葉が出なかった。

何度も…何か言おうとしたけれど、無理だった。

オーガスタスの広い胸に抱き止められて…嬉しくて…嬉しくて。


けど…オーガスタスが、少し肩を動かした時。

何か…感じて、マディアンは顔を上げる。


オーガスタスが眉をしかめていて、マディアンは囁く。

「お怪我を…?」

オーガスタスはそれを聞いて囁く。

「大した事無い。

ローフィスが、手当てしてくれたから」


マディアンは顔を離して、オーガスタスの胸元を見回す。

オーガスタスは少し青ざめながらも微笑んでいて…。


「…肩…?」

「左肩だ。岩にぶつかって」

マディアンはそっ…と白い華奢な手を添える。


オーガスタスはその温かさに、微笑を浮かべた。

が、瞳は潤んでた。


「…やっぱり貴方の手は…癒やしの力がある。

ずっと…思い浮かべてた」

「私…私…も」


“切なかった。

ずっと会えなくて”


けれどその言葉を、マディアンは飲み込んだ。

彼の負担になるまいと。


オーガスタスの顔が、傾き寄せられると、マディアンは唇で、彼の唇を受け止める。

温かい…彼の唇の感触に、マディアンはとうとう涙を頬に、滴らせた。


唇が離れると、マディアンは掠れた声で囁く。

「お会いできて…本当に…嬉しい」


オーガスタスは頷く。

そして返答の代わりに、再び彼女に口付けた。




ギュンターとローフィスは階段を降りる。

ギュンターは背後に続く、ディングレーがまだ、慌てふためいてる様子を見る。


が。

玄関からいきなり…華やかな一群が、長身のディンダーデンを伴って現れる。


「凄い…素敵!」

「広いわ!」

「豪華よね?!」


エレイスとアンローラははしゃいでいて、ラロッタは俯き加減。

ディンダーデンはローフィスとギュンターを見上げる。


「…オーガスタスは手負いか?!」


ローフィスは顔を背け、ギュンターが呟く。

「肩を痛めたそうだ」

ローフィスが横で

「マディアンの顔を見れば、痛みはふっ飛ぶさ」

そう言った時。


ディンダーデンが手に持つ丸めた書状を、差し上げる。

「そこで使者がお前にと」

ローフィスは階段を降りて来る。


ラロッタはディンダーデンが話し始めると、いっぺんに静かになるエレイスとアンローラを見た。


ローフィスが階段を降りきる前に、ディンダーデンは書状をさっさと開けると、ローフィスに告げる。


「…ディアヴォロスから。

オーガスタスは手負いだから、あっちに戻るのを引き留めて、治療に専念させろと」


ローフィスは階段を降りきると、ディンダーデンの前に居るエレイスとアンローラに微笑んで会釈した後、ディンダーデンの手からディアヴォロスからの書状を、引ったくたった。


そして読むと、ディンダーデンに頷く。

「言った通りが書いてある」


ディンダーデンも頷く。

ローフィスは背後から来るギュンターに囁く。

「俺はまだ色々とあちこちに顔を出してくるから、お前とディンダーデンと…ディングレー、良ければお前も。

ラロッタとエレイス、アンローラの案内を頼む」


ギュンターは頷く。


ローフィスは言った途端、皆に背を向けて、階段を駆け上がって行く。


「ギュンター様!!!」

「お会いしたかったわ!」


背後でエレイスとアンローラの、歓声が上がった。



 ローフィスは部屋の前で、ノックする。

「ちょっと…いいか?

マディアンに話がある」


そう言うと、中から

「入れ」

と声がする。


ローフィスが扉を開けると、椅子にオーガスタスが座って、マディアンを抱き込んでいた。


マディアンは恥ずかしげに、オーガスタスの腕の中から、立ち上がろうとしたけど…オーガスタスの腕は彼女を抱き寄せたまま。


ローフィスは僅かに眉間寄せて言う。

「…俺はマディアンに、話があると言ってるんだぞ?」


オーガスタスは仕方なさげに、腕を解いた。

マディアンは立ち上がり、戸口にいるローフィスに寄る。

ローフィスは部屋の外へ出ると、マディアンも彼に続いた。


「…扉を閉めて」

ローフィスに言われてマディアンは頷き、扉をそっと閉めると、廊下でローフィスに向き合う。


ローフィスは低い声で囁く。

「…オーガスタスの怪我は?」

「肩を…」

ローフィスは頷く。

「…折れてる」


マディアンが、目を見開いて口を手で被う。

「…で、相談なんだが…あいつ、向こうの連中が気になって、放って置くと怪我を押しても戻りかねない。

だがそれでは怪我の完治は遅れる。

それで…出来ればあいつをここに、引き留める手伝いを、お願いできませんか?

俺も四六時中見張ってる訳には行かない。

相手はオーガスタスだ。

生半可な相手じゃ、動き出したあいつを止められない」


マディアンは、頷く。

「側で…お世話致しますわ」


ローフィスは、温かく微笑む。

「暫くは貴方を放さないでしょう。

きっととても、寂しかったから。

が、痛みが減って来たら補佐の責任感で、出立して東領地ギルムダーゼンへ、取って戻らないとも限らない。

例えディアヴォロスが“来るな”と釘を刺しても」


マディアンはローフィスを見上げる。

ローフィスはマディアンを見つめ、囁く。

「…部下が岩の下敷きになる所を…庇って自分が代わりに肩を骨折した。

つまりあいつに命を救われた男が居る。

あいつがあっちに居れば…救われる男はもっと増える。

あいつはそれを知っているから…怪我を押しても出向こうとするんです」


マディアンは感激に瞳を濡らし、ローフィスを見つめる。

けれどローフィスは言葉を続ける。

「…だがディアヴォロスが釘を刺すと言う事は…これ以上あいつが無茶すれば、あいつ自身が今度は危ないと言う事です。

だから…」


マディアンは素早く、二度頷いた。

「わたくし、見張っています!」

ローフィスは微笑む。

「お願いします」

マディアンは、しっかり頷く。


ローフィスは背を向けかけて、振り向く。

「…ラロッタと…エレイスとアンローラが来ている。

が、ギュンターが相手するので…」


マディアンは頷く。

「お願い致しますわ」


ローフィスは微笑んで頷く。

「では」


言って、背を向ける。


ローフィスを見送り、マディアンは扉を開ける。

けれど椅子に座ってるオーガスタスは、不機嫌だった。

「あいつ…何だって言ってました?」


マディアンは、椅子に座るオーガスタスにそっと寄る。

そして肘掛けに乗せたオーガスタスの腕にそっ…と触れる。


「私に…貴方を頼むって…」

オーガスタスは一瞬…目を見開いて、次に顔をくしゃっ!と歪め、俯く。

マディアンは言った。

「ええそう…。

貴方の事、とても心配していらっしゃるわ。

態度に出さなくても」


オーガスタスは涙を頬に伝わせ、口を手で被って囁く。

「…顔合わせると悪態しか言わない…」

「ええでも…」


マディアンは泣く、オーガスタスの前で腰を屈め、そっ…とオーガスタスを見つめる。

オーガスタスは泣き笑いの表情で囁く。

「…泣く…代わりに悪態をつく。

けど貴方の前だと…変だな。

涙が止まらない」


「………ローフィス様を、呼び戻しましょうか?」

マディアンが言うとオーガスタスはぎょっ!として、目を見開く。


マディアンはくすくす笑うと、言った。

「ローフィス様の目の前では…どれだけ心配されて嬉しくても、泣かないのね?」

「ローフィスの前で泣くことは滅多に無い!

あいつも湿っぽいのは苦手で、俺もだ!」


マディアンは優しい表情で頷く。

「そうやって…涙を我慢していらっしゃるのね…」

オーガスタスは困った様に微笑った。

「貴方の前だと…その我慢が効かない」

マディアンが囁く。

「嬉しいわ…」


彼女が顔を寄せて傾けるから…オーガスタスはマディアンの、薔薇の花びらのように甘く香る、その唇を唇で、受け取った。


優しい感触に夢中になり…腕を回して彼女を抱き寄せ、けれど腕に包み込む、前に肩に痛みが走って、顔を歪める。


マディアンは、くすっ。と笑う。

「私が、貴方を抱きしめるから」

オーガスタスは残念そうに囁く。

「…怪我を負ってこれ程悔しいのは…初めてです」


マディアンは、オーガスタスを見つめた。

「だって…怪我してる時、敵に囲まれたりしたら?」

オーガスタスは青ざめていたけれど…笑った。

「覚悟はいつでも出来てる。

怪我を負おうが蹴散らせなければ…俺はそこ迄の男。

死んでも…仕方無い」


今度はマディアンが辛そうに表情を歪める。

「私は違うわ…。

貴方が死んだりしたら…きっとキチガイみたいに泣き叫んで、取り乱すわ…」


オーガスタスがそれを聞いて、辛そうに顔を背ける。

マディアンはつい、本心を言ってしまった自分を、叱咤する。


「…貴方の足枷には成りたくないけど…」

囁いて、わざと大袈裟に声を上げる。

「私のいない所でお亡くなりに成ったりしたら、貴方のお葬式で思いっきり悪態ついて、私、軍のお歴々の参列者達に、大顰蹙を買いますから!」


オーガスタスは、ようやく笑う。

「貴方に恥をかかせないよう、肝に銘じておきます」


マディアンはつん!と顔を、上げて言った。

「お願い致しますわ!」


オーガスタスに笑顔が戻り、マディアンはほっとする。

そしてオーガスタスに囁いた。


「お薬は?」

「飲んだけど半端無くマズいので、口直しの酒を飲んでた」

「お台所は?

何か…美味しい、体にいいスープを作ってきますから」


けれどオーガスタスはマディアンの、腕を引く。

「お願いだ…。

弱音を言わせて貰うなら、あっちでずっと貴方の事を思い浮かべてた。

もう少し…貴方を眺めさせて下さい。

スープより…よっぽど傷に良いから」


マディアンは少し笑うと、オーガスタスの頬に両手を添え、額に額を当てて、顔を見つめ…そして再び、そっ…とオーガスタスの唇に、口付けた。


オーガスタスはうっとりと…ご褒美のような彼女の甘い唇に、浸りきった。




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