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赤い獅子と芍薬の花 オーガスタスとマディアン  作者: 心響 (しのん)『滅多に書かない男女恋愛物なろう用ペンネーム』天野音色
二章
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園遊会 6




「…では…女性は…?

恋人は…いらっしゃらないの?」


やっと笑いが途切れ…マディアンにそう聞かれ…オーガスタスが、目を見開く。


そしてマディアンに顔を上げ、見つめられて、オーガスタスは咄嗟横を向くと、こほん。と口に拳当てて咳払う。


「残念ながらその…一晩程度のお付き合い出来る女性は…結構います」

「では真面目にお付き合いされているお方は?」


オーガスタスはまた、目をまん丸にした。

そしてマディアンに屈むと囁く。

「…私は、近衛では“赤い獅子”と異名を取ってる。

飼い慣らすことの出来ない、野性の野獣。

と言う意味です」


「だからご結婚を、考えた事はいらっしゃらないと?」


オーガスタスは途端、悲しそうな瞳をした。

「…結婚する前に、戦って戦場で死ねたら名誉だと…そう考えてるので」


マディアンは悲しさを通り越して、腹が立った。

「それが…お望みなの?!

家庭や結婚よりも?!」


オーガスタスは怒ってる貴婦人に屈むと、困ったように告げる。

「近衛に進む以上…その覚悟は必要です。

婦人と真面目に付き合うと…未亡人にするのが気の毒で…。

その、未亡人に、成っても平気な女性とは…結婚を、考える気もありませんから」


すっ…と背を伸ばす、長身の立派な体格の若者に、マディアンはつい、喰ってかかってしまった。

「そんなお覚悟は最低だわ!

命を粗末にされるなんて!!!


妻で無くても…その他にもそれはたくさん…貴方の訃報(ふほう)を聞いて、心を痛めるお方は大勢、いらっしゃる筈だわ!!!

絶対!!!」


マディアンは頬に涙が…再び伝うのを感じた。

彼はしまったハンケチを再び…無言で差し出し、マディアンはそれを受け取り涙を拭いながら、すっ…とオーガスタスに、背を向けた。


オーガスタスは…マディアンの予想道理、背を向けた肩に、手を置いて振り向かせたりせず…音を殺しその場から、背を向けてそっと、立ち去って行った。


微かな足音が通り過ぎると、マディアンはオーガスタスのハンケチを握りしめ、頬に涙が伝うに任せた。


“初めてマトモにお喋りしたばかりのお方なのに…!”


言い訳は、無駄だった。

マディアンはもう、認めるしか無かった。


その、ほぼ初対面の相手の、命が失われることが耐えられないくらい、彼に、焦がれてしまってることを…。





 帰りの馬車の中で、口を聞かない長女、マディアンを、次女、三女そして四女の妹達は無言で見つめた。


「…どうしたの?

お姉様…」


四女アンローラが小声で尋ねる。

次女エレイスが囁き返す。


「シェダーズ様に、愛想を尽かされたとか?」


三女ラロッタは却下する。



「お姉様がお帰りになる。

と聞いた時のシェダーズ様のがっかりされた顔からして、それは無いわ」


“じゃあ、何で?”


三人姉妹はそっ…と、窓辺で通り過ぎる景色を見つめる、長女マディアンを揃って伺った。


“…もう…あのお方は二度と…私に心を開かれないばかりか、関心すら持たれないわ…”


マディアンは自覚すら無く恋に落ち、一瞬で恋が終わったことをぼんやり感じながら、放心した。


こんな事って無いわ。

いつかは恋に落ちる。

そうは思ってた。


けど、こんなのって無いわ。


マディアンはまだ、脳裏に背の高い…誰よりも立派な体格の…チャーミングにすら見える、屈託の無い笑顔を浮かべ、赤毛で整った小顔の男の姿が脳裏から消えず、心の中で呟き続けた。


“きっととても情のお分かりになるお方だから…私が心配する。

そう思って…きっと距離を取られるに違いないわ…。

ああ私も、ヨーンくらい無神経にぶしつけに、ずかずかと私を避けるオーガスタス様に、突っ込んで行けたら…”


そう、考えるけど、それは出来ない。

と解っていたから…。


目が合い、悲しげに顔を(そむ)けられたりしたらきっと、心が凍り付いて一歩も歩けない。


それに思い当たると、また涙が滴るのを感じた。

「お姉様…!」

「どうなすったの?!」


マディアンは手を差し伸べる妹達に、とうとう我慢出来ずに叫んだ。

「失恋したの!!!」


妹達は呆然(ぼうぜん)。と顔を見合わせる。

「だって…シェダーズ様は?」

「まさか…ギュンター様?!」

「ごめんなさい姉様!

例え姉様でも、ギュンター様は譲れないわ!」


慌てる妹達の質問には答えず、マディアンはそのまま、身を折って泣き続けた。



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