リーラスの決意
シェダーズは直ぐ、駆け寄ってくると、オーガスタスの背後のリーラスに、丸めた羊皮紙を手渡す。
ディアヴォロスの背後からもう数人の騎士らがその洞窟からぞろぞろと出て来たが、オーガスタスはまだその位置から、ディアヴォロスを見つめたまま。
シェダーズは屈むリーラスに、そっと囁く。
「敵が道を作る予定の地図だ。
どれを作り、上がって来るかは不明だが…。
推測の、役には立つはずだ」
オーガスタスが、弾かれたように馬に拍車かけようと、両足跳ね上げた時、ディアヴォロスが坂を、駆け上って来る。
馬の横に付き、手を翳す。
「…!」
オーガスタスは咄嗟、ディアヴォロスのその手を握り込んで振り下げた。
屈み、小声で囁く。
「…ワーキュラス(光竜)の力で俺を癒やさなくていい…!
昨夜…寝てないんだろう?
…あんたが倒れたら…近衛は片羽根もがれたも同然だ…!」
だが、ディアヴォロスは身の内にいる光竜ワーキュラスの光を、握り込んだ腕からオーガスタへと、伝わせる。
オーガスタスの、眉根が切なげに寄る。
「…頼む…!俺は倒れても代わりが居る!!!」
だがディアヴォロスは、手を放そうとしたオーガスタスの腕をしっかと握り返し、その腕を伝う光で、オーガスタスを包む。
「…今直ぐ、引かせてやりたい。
だが他は今日、出陣を控えている。
それ迄…君の指揮で、何とか持ち応えて貰いたい。
私もダーディアンも…一晩動き回り、敵に斬り込む時迄に、体を休めておきたいから」
「!出陣…?
決まったのか?!」
ディアヴォロスは身の内から輝きを放ち始める、光竜の光に包まれながら…その光でオーガスタスをもすっぽりと包み込み、零れるように微笑む。
「ここでずっと、攻防戦を繰り返す訳にはいかないからな」
そして、小声で囁く。
「大砲は潰した。
次、敵が使う時、それはふっ飛ぶ。
がその前に、敵は新たな道を作り始める。
リーラスがシェダーズから受け取った地図に、記入された道のいずれかは…上まで続き、敵が、君の護るこの崖のどこかに姿を現す」
オーガスタスはディアヴォロスの腕から伝い来る光の放射で、体中の緊張が溶け、眠気が襲うのを感じた。
「…少し休め。
敵が道を上まで作り上げる、ほんの半点鐘ほど」
言って、リーラスに顔を振る。
リーラスは気づいて馬上から降りて来る。
「オーガスタスを頼む。
休ませてやってくれ。
敵が崖上に姿を見せた時、味方を指揮出来るように」
リーラスは、頷く。
言おうかとも、思った。
その瞬間、ディアヴォロスは少し、悲しげに眉寄せる。
「手当てがいいから、そのまま固定すれば大事は無い。
援軍が来たら、オーガスタスは引かせる。
約束する」
リーラスは正直、泣きそうに成った。
巨石を落とし、味方を庇い…怪我した痛みを抱えながらも、崖上を一晩見回り…眠ったのは三点鐘ほど。
直ぐ起きて立ち上がる、オーガスタスの顔色は青い。
フラつきながらそれでも…朝の見回りをしていた。
“正直…奴がこれ程、憔悴した姿は初めて見た”
心の中で呟く、その声が、ディアヴォロスに聞こえたように…左将軍は俯く。
が、その面を上げた時…。
リーラスの、決意溢れる瞳に、気圧される。
「…それ迄俺が…オーガスタスを護る」
ディアヴォロスに、しっかり頷かれ、真っ直ぐディアヴォロスを見据えて、リーラスは頷き返した。




