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赤い獅子と芍薬の花 オーガスタスとマディアン  作者: 心響 (しのん)『滅多に書かない男女恋愛物なろう用ペンネーム』天野音色
二章
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園遊会 4


「あの…。

私も、そちらの男に困っております。

私だけで無く、妹が三人もこの場に来ていて、女性ばかりなのでつきまとわれると本当に困るんです」


ヨーンはそれを聞いて、真っ赤な顔をして怒鳴った。

「つ、つきまとってなど…!」


遅れてやっと、その一群に辿(たど)り着いた三女ラロッタが、咄嗟(とっさ)叫ぶ。


「自宅までいらした上、ここに来る私達の馬車の後を、ずっと付いて来たわ!」


オーガスタスがヨーンを、無言で睨み付ける。

ヨーンは必死で、言い訳をつぶやく。

「別に道筋が同じだし、その………」

「他の女性からも、苦情を聞いてるが?」

「そ…その女は何か勘違かんちがいしてるんだ!」

「女性達。と言うべきだったか?

苦情を言いに来た女性は一人じゃない」


ヨーンは歯ぎしりした。

オーガスタスは入隊二年目で自分より年下とはいえ、左将軍補佐。なんて高位にいて、左将軍を“ディアヴォロス”と平気で呼び捨てするような男。


更にその抜きんでた上背と年に似合わぬ余裕で、近衛の中でも目立ちまくり、喧嘩自慢がかかって行っても、()されて終わる程、喧嘩も強い。

実際あの体格で目前を防がれると、恐怖すら覚える。


女にモテる為に、戦いが大嫌いだったけど、大公家のコネを使って戦闘免除で近衛に居続けたのに、甲斐(かい)も無く女も釣れない。

流石の大公家のコネも、ギュンターのような身分低い新兵なら簡単に処分出来るだろうが、左将軍補佐なんて高位の身分のオーガスタスには、手も出せない。


歯ぎしりしながら思案してるヨーンを見、金髪美貌のギュンターが、とうとうまどろっこしくなって(うめ)く。


「…だからさっさと俺が殴り倒し当分起き上がれないようにすれば、この男だって自分の無礼さ加減を少しは思い知るだろう?」


オーガスタスは言った連れのギュンターを、ジロリ。と見る。


「だからそれをしたらお前が処分されるから!

俺に付いて行けとディアヴォロス(左将軍)は命令したんだ!」


マディアンは横にシェダーズが付いて、顔を傾け見つめ

“自分が何とかするから”

と覗き込むのを見た。


が、オーガスタスに(ささや)く。

「…何とか、して頂ける?」


マディアンのその言葉に、オーガスタスは視線を彼女に向けると、にっこり。と微笑(わら)った。


マディアンはその、屈託(くったく)の無い大らかな笑顔に見惚れた。


オーガスタスは女性をかき分け、ヨーンに近づくと言った。

「ちょっと、俺と話をつけようか」


シェダーズが、マディアンの横に並びそれを見つめる。

自分のする筈だった役割を、左将軍補佐に取られ、その表情は悲しげに(ゆが)んでいた。


オーガスタスがヨーンを連行し、その場から背を向け遠ざかり、ギュンターに振り向き、頷く。


金髪美貌の近衛騎士ギュンターは頷き返し、周囲の呆然ぼうぜんとしてる女性達に言った。

「俺に、きっと幻滅(げんめつ)したと思うから…」

「お顔がお綺麗なだけで無く、喧嘩もお強いのね?!」


一人の女性が叫ぶと、他の女性達もはっ!と気づき、再び思い返したように競争相手を少しでも出し抜いてギュンターの側へ寄ろうと、争奪戦を再開させた。



その騒動の横で、マディアンは…遠ざかるとても背の高い…赤毛の男を見ていた。

いつ迄も。


頼もしげな広い背。

長い足。

しなやかなその足運び。


そして記憶に残る、向けられた優しい、大らかな笑顔…………。


先日の園遊会で、初めて彼を見た時の事がぼんやり、思い起こされる。

最初はあんまり背が高くて、誰よりも長身の彼から、暫く目が離せなかった。


その背の高い人は陽に照らされた赤い髪を揺らし、ゆったりと歩を運んで、挨拶(あいさつ)に来る人々に笑顔を見せ…。

その笑顔が、遠目からでも素敵だと…そう、思った。


こんなに間近で見つめられて微笑まれると…もっともっと素敵で、マディアンは彼の笑顔が心に残り続けて消えないのを感じていた。


シェダーズが覗き込むように顔を見てるのに、マディアンは気づき、振り向いて咄嗟(とっさ)に口開く。

「やっぱり…左将軍補佐となられる御方だけあって、お姿だけで無く(うつわ)がそれは…大きいのね?きっと」

「でも、大して年上ではありませんよ?

近衛二年目で私より…うんと、後輩だ」


マディアンは、横で必死でそう言う、シェダーズをびっくりして見た。

「そんなに、お若いの?」


そういえば…お顔はとても、若々しかった…。


「入隊したての1年目で既に…左将軍が彼を補佐に据えた時、どれだけ凄い反発があった事か…。

隊の者で無い貴方にはおわかりにならないでしょうが…」


「まあ…!

じゃあ…そんなにお若いのに周囲に認められなくて、随分(ずいぶん)ご苦労されていたのね?」


そんな…苦労は微塵(みじん)も無い、屈託(くったく)の無い笑顔だった………。


思い返すマディアンに、シェダーズは尚も顔を寄せ、覗き込むと必死に告げる。

「噂では、南領地ノンアクタルの元、奴隷だったとか…。

つまり荒っぽい事には慣れている。

だからと言って隊長ならともかく、将軍補佐にはとても向かないと…。

左将軍は彼を贔屓ひいきしている。

と方々で散々、言われています」

「それであの…お方は?」


シェダーズはそこで、肩竦(すく)めた。

「あの…体格をご覧になったでしょう?

何言われても、動じる様子がありません」


「堂々と…していらっしゃいますものね…。

そんな…大変な過去をお持ちなのに」

「…っ」


シェダーズは、次の言葉を言いそびれた。

つまりオーガスタスは人の気持ちに、体格同様、愚鈍ぐどんだ。

と言ったつもりだったのに。


マディアンは彼の事をとても…とても好意的に、受け取っている。

シェダーズは自分こそが彼女から、嫌な男ヨーンを遠ざけ、彼女の関心を引きたかった。

そうがっかりして、二度、深い溜息を吐き出した。




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