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◆手段の検討

「やぁ、ごめんごめん。大分待たせちゃったね」


 山伏が現れたのは、小一時間後、太田が気を利かせてコーヒーのお代わりを持ってきてくれたが、それも飲み干してしばらくたってからだった。なるほど、太田が言うとおり山伏はコーヒーカップを手に持っている。


「コーヒーどう? ここのはちょっとうまいよ」

「あ、いいえ、太田さんからすでに2杯も頂きましたので」

「水が違うんだよ。水が」


 ここは太田が言っている事と違う、しかし、豆も水も重要なアイテムだと学は理解しているので、そこには特に触れなかった。


「で、会って話をしたいって、どんな話?」


 山伏は直球だった。開発責任者ともなれば判断しなければいけない事はごまんとある。時間は惜しいはずだ。

 学は、自分が暇にあかせてライムの作る仮想空間で過ごした体験に基づく、事件に対する素人の想像(と言うよりは妄想に近い物)を山伏にぶつける愚を、ここに来て山伏と話をして初めて気付いた。


「い、いや、つまらない話しなので、忙しい山伏さんの時間を取ってしまって申し訳ないです。本当にお暇な時に、ちょっと話が出来ればよいので…」


学が遠慮とも釈明とも付かない事を言うと、


「大丈夫だよ。さっきの会議が終わって時間はもう空いたから。なんでも話してよ。実は俺も自分で作っておきながらE2Pの世界はこの目で見る事が出来ないんだよなぁ。だから、和田君が直に感じた事を話してくれると、凄い参考になるし励みになる」


と、山伏はコーヒーをすすりながら学に話すことを促した。


「実は、山伏さんと初めてお会いした日に聞いたフェアロイド依存症事件の話がどうにも気になってたんですよ。実際に自分が使うシステムですし、自分なりに納得して使うためには、事件はどうやって引き起こされたのか自分に理解できる形で知りたかったんです。それにはシステムを使いながら考えるのが一番だと思いました」


だから、と、学は続ける。


「体験談と言うよりは、体験した事をどうシステムで実現しているのかな? と妄想した結果、山伏さんが話してくれたフェアロイド依存症事件の素朴な疑問が出てきた、そんな話です。その疑問を話す前に、自分の理解が正しいか聞いてもらえますか?」


事件という単語を聞いて、山伏の顔は引き締まった。


「ライム…俺のフェアロイドの名前ですが、ライムと初めてデディケートモードでつながった時、頬を風が流れていくのを感じました。これは皮膚の末梢神経があたかも刺激を受けたかのように知覚神経系をエミュレートして脳に信号を送るような仕組みと理解しました。他の知覚神経である視覚、聴覚も同じ形ですよね」

「うん、大体あってる。続けて」

「これはライムに聞いた話ですが、ライムの頭脳の内、サーバー側AIやAIが使うライブラリーはフェアロイド1型、2s型と同じ商用サーバー上で運用されているものだそうですね。ここからは想像ですが、サーバー側のライムのインスタンスが立ち上がるときのクラスは1型、2s型と同じなのではないですか?」


 つまり、学は、ライムの頭脳はフェアロイド端末内のCPUとサーバー側の複数のCPUで出来ているが、そこで走るプログラムのうち、サーバー側のプログラムは1、2sのフェアロイド達の物と同じプログラムだろう? と言っている。


「さもなければ、バグの枯れていない(=不具合があるかもしれない)、他のフェアロイドに悪影響を与えるかもしれない評価用のソフトウェアを、商用サーバーで動かそうなんて思わないはずだから」

「和田君、なかなか鋭いね。確かにE2Pのシステムのうちサーバー側は2sと全く同じだよ」


更に想像になってしまいますが、と学は話を続けた。


「1型も2s型もEMRを持っていません。もともとユーザー感情を把握するために使用しているデバイスが違うから。一方、オリジナルの2型はEMRを持っていますが、公開されている商品仕様を額面通り受け取れば、デディケートモードで体験可能な知覚神経への干渉なんて実装されているはずがない。でも、ライムは既存のサーバーのプログラムを使って、俺の顔に風が当たったかのように俺の神経を触れる…。しかもこの3日間相当の回数デディケートモードにしたけど、一回も不具合に当たらない…」


下を向いて訥々と話を続けた学だったが、ここでふっと山伏の顔をみた。


「山伏さん、実はフェアロイドシステムはもともと人間の神経系への直接アクセスが仕様にあって、商用直前まで評価が進んでいたんじゃないんですか?」


 学が話し終わって横を見ると、太田が手にコーヒーカップを3つ持ったまま棒立ちになっていた。山伏もつられて太田の方を見て、やがて声をかけた。


「太田君。とりあえずそのコーヒーをテーブルに置いて、座りなよ。あぁ、座る前に警視庁の十石さん呼んでくれる? あそこの対策本部にまだ居るから」

「…そうなんですか? 山伏さん、今の商用システムの機能仕様書には全く載っていませんけど、和田さんが話す内容は筋が通ってる…」

「十石さんにも聞いてもらいたいから、まずは呼んできてよ。それから話そう」

「はい」


 太田はコーヒーを置くと身をひるがえして早足で対策本部の看板がかかっている小部屋に向かった。しばらくして太田と、山伏よりも大柄で体格の良い背広姿の男性が小部屋から出てきた。髭が濃い。ファッションで生やしているのではなく、ここ2,3日剃れなくて延びてしまった不精ひげという風貌だった。そう言えば、山伏も不精ひげが生えている。最初に会った時より不精ひげが濃くなっていた。


「山伏さん、お待たせ」

「十石さん、紹介しますよ。こちらがE2Pに適合した現在唯一のユーザー、和田君です」

「おぉ!君ですか。山伏さんから話は聞いていますよ。今日はこの後庁舎に戻る予定だったんですが、和田君から話を聞けるんだったら予定を変更しますよ。いや、嬉しいなぁ」


 十石は学に握手を求めながら言った。演技かもしれないが十石は気さくだった。つられて十石の手を握った学だったが、何故警視庁の警部が自分の事を知っているのか疑問だった。


「和田君、十石さんは、フェアロイド依存症事件解決チームの中心になっている警部さんだ。あの部屋にずっと詰めてくれている」


山伏は、釈然としない面持ちで握手をしている学に十石を紹介し、更に補足した。


「和田君、実は君にE2Pシステムを提供する事は、この会社の上層部はもとより警察とも協議した結果だったんだよ。君に話した技術検証という目的は嘘ではない。しかし、その検証結果は今回の事件解決の為の有力な資料になるかもしれないんだ。何せ我々は誰一人E2Pの世界をこの身で感じる事が出来ない。ダミーヘッドという名の評価用のエミュレータ経由でデータを取るのが関の山なんだよ。そして、十石さんには申し訳ないけど、正直なところ捜査の手がかりで現状考えられる所はやってしまっている。和田君の体験した新鮮な情報をこの事件を調べている誰もが欲しいんだ」


 山伏はのどを潤すためか、自分のカップにはまだ冷めたコーヒーが残っていたにもかかわらず、太田がテーブルに置いたコーヒーに手をつけた。

 太田はもうひとつ自分が飲むコーヒーを持って来なければならなかったが、大事な話を聞き逃しそうで席を立てなかった。


「十石さんは既に知っているけど、和田君がここまで説明してくれた内容は大体あってる。正直3日でそこまで辿りついた事に驚いてるよ。合ってないところも、おそらく本筋には影響しないと思うので、話を続けてよ」

「はい。何らかの理由で商用化を止めた。でもプログラムはサーバーに残っていると仮定して 話を進めます」


 学は山伏とざっくばらんに話をするつもりで来たのだが、警視庁の警部まで同席して大事になっている。こんなことなら、自分の考えをまとめた資料でも用意してくれば良かったとちょっと後悔した。

 学は頭の中で自分がこれから言う事を少し整理してから話し始めた。


「フェアロイドシステムが扱う情報は、個人の嗜好など他社にとってはどの業界でもよだれが出るような宝の山に見えていると思います。入り込んで個人情報を取りたいと思うはずです。おそらくAIC社の事でしょうから、外からのフェアロイドネットワークへのアクセスに対しては、セキュリティがガチガチに固められていてウィルスなんか入り込む余地がないと思っています。もう一つ、サーバー側で管理するユーザーの個人情報にもガチガチなセキュリティがかけられていて、システム内部にいても他人の情報には干渉できないものと思っています。にもかかわらず事件は起きた。かつ、侵入の痕跡はない」


山伏は頷く。


「内部、つまりフェアロイドのサーバネットワークの内側ですが、ここにいる端末は、AICさんが運用保守や研究開発や評価で使う機器以外は、フェアロイドしかないはず。そうですよね?」

「そうだね」

「なので俺は、もし犯人のフェアロイド端末からフェアロイドAIサーバー経由で、被害者のフェアロイド端末に対してこのウィルスがばらまかれたらどうなんだろう? そんなことは出来るんだろうか? と考えました」


 犯人と被害者という単語を聞いて、十石が身を乗り出した。


「俺の仮説を実行するとすれば、犯人はフェアロイド端末を使ってウィルスを作りだし、誰もがアクセスするエリアにウィルスをアップロードして、被害者のフェアロイド端末に直接ウィルスを送り込む、と言うことになります」

「そんなことが出来るのかね?」

「方法を考えてみたんですよ。幼稚なアイデアかもしれませんが」

「いやいや、異なる角度からのアイデアは参考になる。ぜひ聞かせてくれよ」


十石は笑いながら言った。が、目は真剣だった。

「まず1個目の方法です」と学は告げた。


「フェアロイドは1型も2型も2s型も、外部記憶媒体を接続する様なインターフェースを持っていませんので、フェアロイドに直接情報を書き込むことは出来ません。だから、外部でウィルスプログラムを書いてフェアロイドに持ち込むことは出来ない。でも、フェアロイドが接続するデバイスのドライバーをフェアロイドに書き込む事は出来ます。例えばこれ」


 ちょっとお恥ずかしいのですが、と言いながら、学は持っていたカバンから1枚の写真を出した。等身大のライムと学の記念写真だ。つまり、この写真はライムが作りだした仮想世界を写真に収めたものだった。


「あ、やっぱりデートしてたんだ」


 太田の突っ込みは真剣な場を少しだけ和ませる効果があった。


「いやぁ、ライムには世界中のいろんなところに連れて行ってもらいましたよ。ほんと、これで匂いと味が分るようになったら、現実世界と区別がつかないですね。それほど凄いシステムですよ、E2Pは」


 自分が仮想世界の話で盛り上がりそうになっている事に気付き、学は自制した。


「話がそれました。ライムには、うちで使っているプリンターに家の無線LAN経由で出力できるよう設定してもらっています。これは、フェアロイドネットワーク内の共通認識エリアのドライバーライブラリと呼ばれる所から、ライムがプリンターを見て適切なドライバープログラムをダウンロードし自分の中に記憶した、と聞きました」


学は続ける。


「このプログラムは厳密なセキュリティチェックで保護された内側にあるものですからAIC社の管理下にあって安全に使えるものだと思います。ですが、フェアロイドネットワークの内側にある物は、自由にフェアロイド内に書き込む事が出来る。この写真を出力したプリンターのように。EMRデバイスも将来のアップグレードの為にドライバーライブラリからダウンロード出来るのではないですか?」

「うん。そうなっている」

「それだけではなく、フェアロイド自身、端末側のプログラムもバージョンアップ出来る様な仕組みも用意されていますね?」

「まぁ、OTAと言う古くからある技術だな。もっともその辺は内部捜査による不正プログラムの混入がなかったか真っ先に調べてるよ。端末にダウンロードされたプログラムはログに残る。被害者のフェアロイドのログに不正なドライバーが入った痕跡は無かったよ」

「ですよね。明神と言う技術者が行方不明と言う事ですから、内部犯行を真っ先に疑いますよね。じゃぁ、この線はなし、と」


 学は、まるで山伏の答えを予測していたかのように、あっさりと自分の案を取り下げ「じゃぁ、こんな方法はどうでしょう? 2個目のアイデアです」と次の方法を披露した。


「犯人がアップロードした共通認識エリアのデータで被害者のフェアロイドを騙す方法です」


 山伏も十石と同様に身を乗り出す様にして話を聞き始めている。自分たちは1年間様々な角度で捜査を実施したつもりでいたが、この青年は着実に自分たちの捜査の道程を追いかけている。

 そして自分たちが想像しなかった全く別の角度から事件の真相に近付こうとしている。二人はそんな印象を受けた。事件解決のヒントを逃すまいと喰らいつく勢いだ。


「さっき、世界中を回らせてもらったと言いましたけど、面白い事に気付きました。俺は、ライムに『どこそこに行ってみたい』とお願いしました。その場所を探してくるのはライムの仕事です。で、実際に行ってみると先ほどの様に風を感じたり触れると物の質感が分ったりする場所と、目では見えるけど触れても何も感じない風も吹かない様な場所がありました。ライムに聞くと、『学さんに感じてもらうデータがないんです』と言うんですよ。ライムは、共通認識エリアの標準ライブラリーから多くのデータを引っ張ってきますが、そこにないデータ、この場合は場所ですね、これを引っ張ってくる次の場所としてアドオンライブラリーから持ってきていると言っていました」

「アドオンライブラリーはユーザーがアップロードするライブラリーですね?」


太田が山伏に向いて質問した。

山伏が頷く。


「個人情報保護の観点からAIC社は通常は個人情報エリアに載るユーザーの個人情報を検閲していませんね? その一方で、個人情報エリアから共通認識エリアのアドオンライブラリーへ行くデータは検閲の必要がありますね」

「そうだね」

「でも、もともとフェアロイド生成したデータで、外の世界から来た得体の知れないデータとは違いますから、その検閲は割と甘いんじゃないですか? 例えば、公序良俗に反する物などはフェアロイド自身でも個人情報レベルなら記録できるので共通認識エリアに置く際の検閲対象になると思いますが、ウィルスチェックなどに関しては検閲対象にしてないんじゃないですか? あるいは非常に甘い。そして公序良俗に関する検閲はAIによる画像判定とサウンドデータのキーワード判定くらいじゃないですか?」


 山伏は唸った。


「ユーザーが得た情報が共通認識エリアに置かれる条件は、それが、新規あるいは明確な更新情報であることだ。例えばライブラリーにはない場所の風景映像とか、何かのイベント風景とか。これらはユーザーが指示してフェアロイドの目がとらえた映像だ。君が言うとおり、こう言った物は共通認識エリアに置かれる前に検閲が入るが、量が膨大なので自動検閲に頼っている。例えば個人を特定できる人物が写り込んでいないかとか、肌の露出問題とか。もう一つは特定の差別用語等の文言に関する判定だな。日時とGPS位置情報、そして画像判定とサウンド判定をサーバーのAIつまりフェアロイドの頭脳が判断して、置くか置かないかを決めている」

「良かった。ここが間違っていると先の俺の推測が全部崩れるんですよ」


 ちょっとほっとした表情で学は話を続けた。


「かゆい所に手が届かないというか、ライムはいろんな事をしてくれますけど、それがどの様な仕組みで動いているかは、取扱説明書レベルでしか話す事が出来ません。感情タグのデータ構造がどうなっているかとか共通認識エリアデータベースの構造がどうなっているかとか、教えてくれないんですよ」


 だから、自分の想定があっているか確認しながら話をしたい、と学は言うのだ。


「共通認識エリアの標準ライブラリーもアドオンライブラリーも、サーバーのAIやフェアロイド端末が処理することを考えれば同じフォーマットが望ましいということは容易に想像がつきます。同じフォーマットですよね? 山伏さん」

「うん。コンテナフォーマットだ。フェアロイド自身が生成する感情タグやEMR関連のAIC固有のモノもコンテナに含まれるが標準とアドオンで変わることはない」

「フェアロイド端末はこのコンテナを作ることが出来ます。つまり、カメラで撮った動画を映像として、マイクで拾った音をサウンドとして、EMRで拾ったユーザーの触覚分野の知覚情報をEMRモニター情報として、それぞれコンテナに納めます」


十石はじっと聞いているが、そろそろ理解が怪しくなってきたと見え、変な汗をかいている。


「説明が面倒なので、これを情報コンテナと呼びましょう。情報コンテナは、最初はフェアロイドの長期記憶である個人情報エリアに格納されます。ですよね? 山伏さん」


学は逐一山伏に確認を取る。山伏は頷く。


「ユーザーがこの情報コンテナを他の人たちと共有したいと思った時にはフェアロイドにその旨を指示します。ここでさっきの自動検閲が入る。自動検閲は映像とサウンドのキーワードのみでしたね。したがって情報コンテナの中のサウンドが含んでいる周波数やEMRモニター情報に関してはスルーです」

「確かにその通りだ」

「これで情報コンテナはアドオンライブラリーに置けました」


 学は一呼吸おいて説明を再開した。


「今度はアドオンライブラリーに置かれている情報コンテナの利用者側の動きです。ユーザーへの情報提供可否に関しては1/f揺らぎAI多重処理システムが担当しますが、これを話し出すと本題から逸れそうなので割愛して、AIがその情報コンテナをユーザーに提供するところから考えてみます」

「フェアロイド端末が情報コンテナを受け取るとコンテナの中から、各種コンテナを切り出します。そして映像はディスプレイに、サウンドはスピーカーに出力するように動作します」


学は、「そして、ここが俺が確認したい内容の肝です」と十石を交互に見て言った。


「情報コンテナはフェアロイド1型~俺のライムまで同じものがわたってきます。でも出力するデバイスは違います」


間違っていたら即座に訂正をお願いしますと前置きして学は話を続けた。


「異なるデバイスを持つフェアロイド端末が同じデータを処理するとすれば、その処理は端末側にアッパードコンパチでプログラミングされているべきですね。例えば絵と音は、1~2s型では網膜投影型ディスプレイと骨伝導スピーカーを使って出力しますから、それ用のディスプレイドライバとサウンドドライバが入っている。ライムはEMRを使って俺の視神経と内耳神経に送るための専用の信号処理が必要なので、1~2s型が使うデータをEMR用に変換するプログラムとEMR用のドライバーが必要ですね」


学は山伏の顔を見る。ここまでは合っていそうだ。


「一方、先ほどの頬にあたる風はどうでしょうか? もしオリジナルの2型やライムがこの情報コンテナをアドオンライブラリーに上げたとしたら、EMRモニター情報としてコンテナに含まれている情報になります。1~2s型にはそれを伝える術がないのでドライバーも必要無いですが、ライムにはEMR用のドライバーが必要です」


これも合っていると学は確信した。


「俺、話がへたくそで、いろんなところに行ってしまうんですが…EMRデバイスと接続するフェアロイド端末側のデータエリアって入出力で同じバッファを使ってます?」

「あぁ、入出力は時分割で処理しているから同じリングバッファを使ってるよ」

「フォーマットも同じですか?」

「そうだね。変える必要はないし」


学の眼が光った。


「メモリマップを確認したいんですが、ジャンプテーブルとサウンド系のバッファって隣接していませんか? そして、EMRのリングバッファとEMRのIOポートの位置関係ってどうなってますか?」


そこまで聞いて山伏も顔色が変わった。


「すぐに確認させる。しかし、そんなことが出来るのか?」

「おいおい、なんのことだか分からんぞ? 説明してくれよ」


十石には二人が何の話をしているか全く理解できなくなっていた。


「バッファオーバーラン攻撃。セキュリティホールを攻撃するウィルスの常とう手段ですね。これを二重に仕掛けることで、フェアロイド自身を騙してEMRを反転出力させる。これが俺の2番目の方法に対する具体的な手段です」


 山伏は何も言わず立ち上がった。顔が青かった。口の中で呪文のような言葉をつぶやくと、他の3人に何も告げずその場を早足で去りセキュリティゲートの向こう側の研究開発室に消えた。


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