一話
ワンダラータウン、住む場所を失った放浪者達が荒野にあるオアシスに勝手に住み着いたのが始まりとされる町だ。
生き汚い彼らは頑強な体を利用し、旧文明が残した遺跡から資材を集めて、この町を作り上げたと言う。人口は六千八百人、主な特産品は近くの遺跡から取れる缶詰や冷凍食品などの食料だ、遠くの町からもトレーダーがやってきてはこの町で食料を仕入れて旅立っていく。
東西の大きな街にとってワンダラータウンは必要不可欠な場所であった。
無論、そんな大事な町だ。常駐警備員は多いし、大口径の機関砲が荒野から来る敵を常に探し続けている。
北側にはまだ探索の手が入っていない遺跡群、サイハテ達が目覚めたビル群が存在している。あそこから時たまやってくる幸運と不幸を見張るため、北側の警備は特に厚い仕上がりとなっていた。
「おい、バイクが一台こっちに向かってくるぞ。男と女の二人組だ」
見張り台の上で双眼鏡を覗いていた警備員から報告が飛んでくる。
北側の警備責任者、斎藤秀樹はへぇと感心したような声を上げた。
「恐らく幸運の放浪者だ。手でも振ってやれ」
紙巻煙草に火をつけながら、斎藤は返答してやる。
幸運の放浪者、サイハテ達のような冷凍睡眠から目覚めた人間の事をそう呼称する。何故幸運と呼ばれるかと言うと、過去から来た彼らはテクノロジーの扱い方や修理方法を伝えてくれるからだ、文明が崩壊した時点で、そう言った知識は非常に貴重となる。
それを伝えて、人類の生存に役立ってくれるから、それと唐突にふらりと現れるから彼らは幸運の放浪者と呼ばれるのだ。
「サイハテ! 町よ! 町が見えたわよ!」
疾走する電気バイク。
その後ろでヨーコはとても元気である、バイクに乗り換えてから一日とちょっと、走り通しでお尻が痛くなってきた頃にようやく見えて来た町だ。安心して休めると分かって、嬉しいのだろう。
「おう、そーだな」
それよりサイハテの疲労が凄まじい、女の子の手前であるから意地を張って、平気そうな表情を見せているサイハテではあるが……流石に痛みを快楽に変換するのも限界が来たのだろう。
街らしき場所を囲む壁、その上で数人の男達が手を振っている。
「おーい!」
そしてサイハテの後ろでもはしゃいでいるヨーコが嬉しそうに手を振り返す。
思わず苦笑してしまう、少々大人ぶっている所があるヨーコだが、こうなれば年相応の少女だろう。その可愛らしさにサイハテのムスコが元気を取り戻してくる。
町へと続く門に近寄るに連れ、サイハテはバイクのスピードをゆっくりと緩めていく。
「ヨーコ、町に着いたら何をしたい?」
「そうね……まず、水浴びでもしたいわ。凄く臭いもの」
強烈なメスの香りとでも言えばいいのか。
ヨーコからは確かに甘ったるい匂いがする、やはり女の子だなとサイハテは笑い。門の前でバイクを一端停車させるのだ。