八話
カナタの背中流しは見事な物だった、絶妙な力加減に丁寧な洗い方……恐らくカナタは終末世界一の常識人、いや常識犬である。
そんな事より、サイハテはちょっとしたお仕事に来ていた、ワラシベタウンから車で一時間の所にある小さな町だ。ワラシベタウンから追放認定を食らった奴が作り上げた町らしく、治安は最悪、住民はみんなヒャッハーさんと言った具合の世紀末っぷりだ。
ここに、ハルカとカナタを連れてやって来たのがサイハテと言う変態である。
「おい待ちな、ここがどこだか知って来たんだろうなぁ?」
世界が崩壊しても、チンピラと言う職業は無くなってないらしく、サイハテはホッとする。
「ああ、知ってる。知ってなきゃこねぇよ」
チンピラは何故チンピラか、理由は馬鹿だからチンピラなのである、これ以外に出来る事がないからチンピラなのだ。
「へぇ、お前も奴隷が欲しいのか」
「ああ、娼館でも経営しようかと思ってな。適当に熟れたのを買いに来たんだ。入れてくれるか? 割引券やるから」
適当な紙に書いた割引券もどきを渡してやると、チンピラは喜んで道を開けてくれた。
「へへへっ、ありがとよ。娼館開いたら教えてくれよ、俺さま、行きつけになっちゃうぜ」
そして意外といいやつが多いのである、馬鹿だから。
チンピラが開けた扉を、サイハテは一機と一匹を連れて抜けていく、サイハテは知っている。奴隷をゲットするのは流行りだと言う事を。
ちなみにハルカとカナタにも武器を持たせている、ハルカには車載機銃を取り外した物を、カナタには犬用の機関銃をだ。ワラシベタウンの武器屋で普通に売ってたのである、サイハテもびっくり。
「サイハテ様、もしかしてわたくし売られちゃう系ですかー?」
背後のハルカは不安そうである。
「そんな訳ないだろうが、今日は奴隷を買いに来ただけだ」
サイハテは直様否定し、ハルカはホッと息を吐いた。
「お前売るなら電源切って、ちゃんとした電化製品のお店に売るよ。そっちのが高く売れる」
ハルカは半眼になってサイハテを見つめている。
なにはともあれ、サイハテはスレイブヤードと呼ばれる町を闊歩していく。治安は悪いがサイハテに絡んでくる奴は少ない。
少ないながらも居る、一撃で始末したが。
「サイハテ様、死んでます」
「大丈夫、肥やしになるから」
ここは本当に治安が悪い。サイハテも警戒してあちこちに何かペタペタと貼り付けている位だ。
何はともあれ、奴隷商人がいる場所に辿りついたサイハテは笑顔で片手を上げるのだ。相手はここを統括する奴隷商人、すっごいお金持ち。
「これはこれは、よくぞ来て下さいました。本日の入用は?」
「戦いが出来る奴隷が欲しい、なるだけ戦力になるやつだ」
「戦いが出来る奴隷ですか……そうですねぇ、彼なんて如何です」
そう言って連れてこられたのは、斎藤だった。
「……西条疾風」
「斎藤氏、お前なにやってんの?」
「……捕まってしまったんですよ。貴方に空を飛ばされた後でね」
それよりも凄まじい生命力である、ミサイルで空を飛んで、奴隷商人に捕まって、まだ生きているのだ。ツケは払わせたし、サイハテが斎藤に思う所はないし、斎藤もサイハテに積極的に関わろうとは思ってないみたいだ。
サイハテは彼の首に付いているスタンリングを外してやる。
「おや、外してもよかったのですか? 殺されてしまっても、文句は言えませんよ」
「知り合いだ。それでいくらだ?」
「ワンダラータウンの警備隊長だった男です、そうですなぁ……三千円で、いかがでしょうか」
「よし、交渉成立だ」
そう言ってサイハテは持っているアサルトライフルを斎藤に渡してやると、懐に手を突っ込んであるものを引っ張り出した。ブローニングハイパワーである、所謂拳銃だ。
「三千円分の弾丸、ここでぶっぱなして行く事にするよ」
「ちょっ」
響き渡る、乾いた音。それに反応してハルカとカナタが戦闘行動に移る。斎藤もあっけに取られていたが戦闘行動に移ってくれた。
僅か一瞬の出来事だった、弾丸を撒き散らして護衛を制圧するハルカとカナタ、ワンショットワンキルで仕留めていく斎藤。二十五人が一瞬で荒野の肥やしと成り果てた。
「西条疾風! 君は一体全体何を考えているのかね!」
入口を塞いだ斎藤が怒鳴る。
「え、人間売ってお金儲けているふてえ奴がいるって話だから上前を跳ねに来ただけだけど」
キョトンとしたサイハテはケツポケットから起爆装置を取り出して、あっさりと押した。街のあちこちで上がる爆発の炎に、渦巻く阿鼻叫喚、悪党の町は一瞬で地獄の釜に変化する。
「さーて、奴隷を解放して町の制圧に移ろうか。ハルカ、武器を拾ってこい、カナタは斎藤氏と共に防衛戦を構築、俺は奴隷商人の遺産を集めてくる」
「君は……まぁ、いい。僕もやろうとしてた事だ。今回ばかりは君の判断に従おう」
突撃してきたヒャッハーに目もくれず、撃ち殺す彼の腕前は完璧であった。
これなら任せても大丈夫だろうと判断したサイハテは、楽しい楽しい家探しタイムに移るのだ。正義なんてない、楽に儲ける為にここに来てやったのだから文句言われる筋合いもない。
地下室への階段を歩きながら、サイハテは微笑む。多分たんまりお金を溜め込んでいるのだろう、運が良ければワラシベシティに家を買えるだろう。
「あこがれのマイホーム! ヒャッホー!!」
心は痛まないし、名は売れるし、お金は儲かる。一石二鳥どころか三鳥の名案であった。実行できれば。




