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五話

 結局、サイハテの危機感知能力によって、ヤバイ危険とは出会う事はなかった。

 奈央に指定された部屋……外科治療の研究室に、目的の物はあった。製造データと言うか成分表と言うか、増やすための培養器がセットで置いてあった。大分古くはなっているが、部品を交換すればしっかりと使えそうな雰囲気を醸し出している。

 しかし、目的は製造データなのでいつもの如く左手でハッキングし、パスを抜いて、ハードディスクの中身を確認すると電源を落してハードディスクをぶっこ抜いた。サイハテがデータを移す為のメモリースティックを奈央の家に忘れて来ちゃったのである。


「さぁ、回収したのなら帰りましょうか」


 ハードディスクを布で巻いて、背嚢に突っ込んだサイハテに、ヨーコがそう声をかけてくる。


「ああ、帰る前にお前のお腹が膨らんで、もぞもぞ動いているのを説明してもらおうか」


「……できちゃった」


 ぽっと頬を朱に染めて、とんでもない事を宣うヨーコ。


「誰の子だ? ちょっとその男の子呼んで来なさい。お父さんちょっとお話するから」


「えっと……」


 ヨーコが視線を巡らせた隙に、その膨らんだ腹に手を突っ込んで中身を引っ張り出す。手触りは何というか、毛むくじゃらであった。


「…………子犬?」


 サイハテが首根っこを引っ掴んで、ぶら下げている毛むくじゃらの正体、それは子犬だった。首根っこを掴まれて大人しく揺られている子犬はどうやら秋田犬の血統書付きで、生暖かくて顔をキョロキョロと不安そうに動かしている事から生きている事が解る。


「さ、サイハテ、ちゃんとお世話するから……」


 不安そうなヨーコを尻目に、サイハテは研究室内を見回してみる。片隅にサイハテやヨーコ、またはハルカが入っていた棺桶のちっこいバージョンが置いてあった。恐らく、目ざとく見つけたヨーコがガラス蓋を覗きこむと子犬が居た、あまりにも可愛いので作業をしているサイハテの目を盗んで開けてみた。勝手にこんな事したらサイハテに怒られると思って服の中に隠して持って帰ろうとした。

 ……涙目で震えてるヨーコを見る限り、正解だろう。


「ちゃんと世話しろよ」


 子犬にしては大きい子犬をヨーコに押し付けると、サイハテはめぼしいものをかき集めて背嚢につっこみ始める。


「うん、大事にするね! 名前は……そうね、サイハテにあやかってカナタ!」


「オン!」


 秋田犬の子犬、カナタは与えられた名前が気に入ったのだろう、小さな声で鳴いた。

 二人揃ってサイハテカナタ、最果ての彼方。なんだかどっか行っちゃいそうな名前である、これは暗にどっかいっちまえと言われているのではないだろうか、とサイハテは不安になってしまう。


「さて、撤退するぞ。敵の気配も遠い、今なら走って向かえば病院を抜けられる」


「ええ、装甲車の中でいいからそのナース服は脱いでよね」


「嫌だ。それ、走るぞ!」


 サイハテはきっぱりと断ると、ハイヒールを鳴らして走って行ってしまう。


「あ、ちょっと待ってよー!」


 ガスマスクを被って、ピチピチのミニスカナース服を纏った網タイツハイヒールのマッチョマンの背後を野戦服を纏った少女が追いかける。

 凄まじくシュールな光景である。

 結局、サイハテナースの言った通りに、その危険と出会う事はなかった。病院から出てすぐそばに止まった装甲車の中に飛び込むと、サイハテナースはホッと息を吐いた。

 あの危険な感じがこちらを見つけたように接近していたのだ、ジョークのように囃し立てて走る事にしていたが走っていなかったらと思うと、いや、イフの話はやめよう。

 銃座について、ハルカに車を出すように言う。気の抜けた返事と共に、ガソリンエンジンが回転する音が響き、装甲車は前に進んでいく。その瞬間、凄まじい悪寒を感じたサイハテナースは思わず背後を振り返る。

 病院の入口に居たのは、出会ったときのヨーコと同じような手術着を着た青白い肌の少女であった。物欲しそうな目で指を咥えて、こちらを見ている。

 少女の手にはぬいぐるみのように引きずられた放浪者の男が一人、ちぎられたのか下半身がなく、男は既に絶命している事が解る。

 よくよく見ると少女の背後に男の下半身らしきものが落ちている。サイハテナースを生かし続けた生存本能がこれ以上ない位の警笛を鳴らした。


「ハルカァァァァァァァァァァァァァァァ!! 全速力で飛ばせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 少女を見た瞬間から、冷や汗が滝のように流れ始め、サイハテは金切り声で叫ぶ。


「は、はい!!」


 サイハテの様子からよほどのことではないとハルカも分かってくれたのだろう、アクセルをベタ踏みして装甲車を飛ばす。

 追ってこれないように少女に向けて、銃座の50口径をばらまいてやる。

 少女の姿が見えなくなっても、跳ね上がったサイハテナースの心臓は早鐘のように鼓動を打っていた。








 見えなくなった装甲車に向かって少女が口を開いた。


「美味しそうだったのに……」


 とてもとても残念そうに呟いた少女は、ペタペタと素足を鳴らして病院の中に戻っていく、途中で捨てた下半身を拾って、それをかじるのだ。

いやー、ヒロインが出てきましたね。

あ、新ヒロインは犬の方です、カナタはメスです。

手術着の少女は今で言う大食らいキャラです。ご飯一杯食べます。

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