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四話

 奈央に指定されたのは大学病院であった、ナノペーストの研究データならあるのも理解出来るが、製造データが本当に大学病院なんかにあるのだろうか、とサイハテは不思議になってしまう。

 そんな疑いを持ってしまうが、奈央がサイハテを担ぐ理由もないし、不確定情報からの出処でそれを確かめる為にサイハテを派遣したとなれば……まぁ、納得出来なくはない。サイハテは住所不定無職の居候なのだから。

 それならば、経験の為にとヨーコを連れてきたのは早計であったな。

 と、サイハテは少々後悔するのだ。今回の遺跡漁りはヨーコの強い要望もあって、彼女を内部に連れて行く事になっている。


「ふう……」


 サイハテはあまりの気の重さに溜め息を吐いた、ここは病院内だがヨーコは今別の所を見回っている。薬剤室で使えそうな物を探してくると言っていたが……大丈夫だろうか?

 なんて心配しながらサイハテは、更衣室でナース服に着替える。

 鍛え上げられた筋肉がナース服と網タイツを押上て、ピッチピチにしている。そこに背嚢を背負ってガスマスクをかぶればサイハテの完成だ。最早見た目は放浪者(ワンダラー)と言うより怪物(クリーチャー)の部類である。


「サイハテー、血清とか、抗生物質とか見つけたん…だけ……ど……」


 ヨーコの声に反応して振り向くと、問答無用でアサルトライフルを突きつけられた。


「俺だよサイハテだよ」


「……あんたはまたとんでもない格好して」


 ヨーコに呆れられてしまった。

 下の毛剃るぞ。

 なんてアホな事をやってないで、サイハテはショットガンを構えて前に進み始める、ナース服のまま。


「油断するなよヨーコ、奈央さんの話だと警備用のロボットが見回っているらしい」


「……うん」


 ヨーコはどこか、元気がない。

 数キロの距離とは言え、装備を担いだ行軍はヨーコの体には堪えたのだろう、連続した緊張感に見たこともない化け物から与えられた恐怖感が少女の体を蝕んだ、と思っておこう。


「ロボットは俺に任せろ。この左腕があれば仲間に出来るかも知れない」


「……まぁ、無理しないようにね」


 信じてくれなかった。

 何はともあれ、ヨーコをカバーに付けて、サイハテは病院の中を進んでいく。

 まるで今でも誰かが掃除しているような綺麗な廊下に、ヨーコは怯えていたが先程からあちこちでルンバのようなロボットが壁や床を自由に走り回って掃除しているのを見て、サイハテは特に不思議には思わなかった、ただ……。


「……俺たち以外の侵入者が居ても、気がつくのは無理だな」


 ぼそりと、恐ろしい可能性をサイハテは呟いた。

 ルンバのような掃除ロボットが一生懸命掃除している為に、追跡のプロであるサイハテでも痕跡を見つける事が困難になってしまっている。ここは自己発電システムを完備しているようだし、監視カメラを乗っ取られていたら……恐らく待ち伏せされているだろう。

 サイハテはものは試しと、ポケットに入っていた空薬莢をルンバのような物に投げてみる。

 するとルンバのような物は空薬莢を吸い込むと何事もなかったかのように、何処かへと行ってしまった。ごみ捨てにでも行ったのだろう、日本製は頑丈とは言え何百年も動き続けるとは……改めて日本と言う国のおかしさを感じてしまう。

 だが、これで分かった。

 侵入者が先に居て、警備ロボットが破壊されていても、あのルンバのような物が残骸を片付けてしまい、それどころか漏れたオイルやら何やらも綺麗に掃除しているので、痕跡が欠片も残ってないのだ。


「ヨーコ、待ち伏せされてる。気を引き締めろ」


 結論を出したサイハテは、ショットガンにシェルを込め始める。

 相手がボディアーマーを着ていても良いように焼夷弾を装填し、引いたポンプを元に戻す。


「……それはサイハテの直感かしら?」


「そうだ、生存本能が『さっさとしっぽ捲くって逃げやがれ』って騒いでる。かなりヤバイ相手かも知れない」


 それを聞いて、ヨーコも焦ったようにアサルトライフルのコッキングレバーを引いていた。

 首の後ろが薄ら寒い、熱いではなく、水が垂れてきたような冷たさを感じている。サイハテがこんな感覚を感じたのは久方ぶりであった。

 二度と感じる事はないと思った恐怖、この感覚は絶対強者が先に居る。その予感であった。これを無視して進んだロッキー山脈では子連れのハイイログマが縄張り争いをしており、巨大な親グマ三頭、そこそこでかい小熊六頭に追いかけられて死にかけた。運良く地元の猟師に出会わなければ死んでいただろう。


「サイハテ、汗。すごいわよ」


 恐怖のあまり、冷や汗を流すサイハテに、ヨーコは汗を拭いてあげようとポケットから手ぬぐいを出してよって来るが、サイハテはその手を払い除けた。


「いいから、俺が先行するから5メートル離れてついてこい、俺がやられたら生きていようがいまいが全力で逃げるんだぞ」


「ちょ、それってサイハテを見捨てる事に……」


「いいなっ!」


 珍しく声を荒げたサイハテに、ヨーコは渋々と従って、サイハテから離れた。

 怒鳴られた事で驚いているヨーコを、今は気遣ってやる事が出来ない。サイハテが感じている危険の気配は常に病院内を動き回っているからだ。精神を集中して、感覚を針のように研ぎ澄ませてレーダー替わりにし、危険を回避して進むしかない。

 サイハテはぶら下げている通信機をひっつかみ、回収班のハルカへと通信を入れる。


「ポイントD-66-37Aに移動しろ」


『……はいはーい』


 少しばかり押し黙ったハルカだが、何事もなかったかのように返事をしてくれた。背後ではヨーコが首を傾げている。


「急ぐぞヨーコ」


「……うん」


 サイハテが先行して、ヨーコがあと詰めを務める。

 敵が近くなれば、どこかに隠れてやり過ごし、再び歩を進める。ハルカが指定した場所に到達するまで三十分はある、焦る必要はないのだ。

次回、新たなヒロイン登場です。

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