一話
西の街、かつては夢の国があったとされる場所だ。
元々は小さな町であったのだが、宝と危険が盛りだくさんの遺跡、東京に通じる町として様々な放浪者達が訪れては金を落していくのでそこに理に敏いトレーダー達が集まり、そのトレーダー達が情報を広め、様々な人間がここに定住する事になった。
ワラシベシティなんて皮肉めいた名前がついているが、それもそのはず、最初は小さな町でしかなかったここが、ちょっとした事で千葉で最も大きく成長したのだからそう呼ばれるのも仕方がない。
しかし、大きくなったワラシベシティでは放浪者達が問題となっている。
遺跡を漁って、過去の物品を持ち込んでくれる彼らは、言うならば住所不定無職なのだ。しかも個人で高い戦闘能力を持った者も多く、様々な事件を引き起こす。
今では、遺跡を漁る放浪者はその姿形と、習性から鴉なんて呼ばれている。そして街に新たな鴉が舞い降りるのであった。
「サイハテ! 遊園地よ! ゆーえんちー!」
装甲車の天窓から顔を出したヨーコは非常に興奮した様子で、これから向かう先のワラシベシティを指差して、叫んでいる。
「ハハッ」
サイハテは甲高い声で返事をし、ナースが持ち込んだラジオの修理に戻った。
「直りそう?」
「ええ、十分直せるよ。奈央さん」
包帯頭のナース、飯塚奈央はそうとだけ言って微笑ん……だのかどうなのかはよく分からないけど、多分微笑んだ。奈央さんはカジュアルな私服に着替えていたが、顔だけは包帯だらけであった。
理由を尋ねると、
「粗野な男が勝手に梅毒持ちと勘違いしてくれるのよ」
と言っていた。
この世界で女性が身を守る為の知恵であるらしい。
「サイハテ様ーーー! あの遊園地って全裸になってもいいんですよね!?」
「ダメに決まってるでしょ!!」
運転席から叫んだハルカと、サイハテが答える前に天窓からツッコミを入れたヨーコに対して、サイハテは苦笑する。なんだか最近常識人ポジションについてしまったような気がして、サイハテも焦っているのだが……如何せん、変態っぷりを発揮できる場所がない。
「よし、直った」
「ありがとう、何故ピンクローターが付いているかは、気にしないでおくわ」
ラジオの電源を入れると、ピンクローターも振動する仕組みにしただけである。
(……ラジオ聞くのと同時に性欲も満たせるようにしたのに、なんか不満そうだな。なぜだ?)
不満そうな声を出した奈央に対して、サイハテは首を傾げて見せる。
困ったように、装甲車の上で見張りをしているヨーコに視線を向ける奈央だったが、諦めろとでも言うように首を左右に振るヨーコに、奈央はがっくりと肩を落とした。
「サイハテ、検問よ」
「どこにでもあるな。検問は」
そんなやり取りをして、検問前に装甲車を止めると、サイハテは装甲車の中から出て行く。
「やぁどうも、おつかれさん」
検問前で立っている仏頂面の兵士に、サイハテは片手を上げて挨拶をする。
「……放浪者か、どうせ貴様もろくでなしなんだろう? ハン!」
いきなりの侮蔑である、サイハテも固まってしまっている。
「ろくでなしかどうか、俺の全裸を見てから決めやがれ!」
流石のサイハテも怒ったのだろう、自分の衣服に手をかけるとそのまま脱ごうとするが……ヨーコが飛び降りてきて、サイハテの奇行を止めた。
「ちょっと、やめなさいって!」
「やっぱりロクデナシじゃないか!」
事実だけに、ヨーコも否定出来ない。
「……まぁいい、せいぜいこの街に富を齎してくれよ。薄汚い鴉が」
なぜかは分からないが、通行許可は出たようだ。
「くろう? サイハテ、苦労するの?」
「……多分、カラスって意味だろうな。なるほどな」
その一言で、サイハテは理解したらしい、ヨーコの肩を抱くと装甲車の中に入っていく、こうするとヨーコが大人しくなるのでやっているだけだ。他意はない。
「どう? 西条くんはこの街は好きになれそう?」
「ええ、中々どうして、愉快な街じゃないですか」
車内に戻ると、にやりと笑って……いるかはさっぱりわからないけど、笑っていそうな声色の奈央が声をかけてくる。
彼女からこの街が発展した理由を聞いていたサイハテは皮肉げな返答をしてみせて、これから生活の基盤となる街を見て、同じく口角を吊り上げるのだ。
新章始まりました。
そして話のストックが切れました。
しばらくは遺跡荒らしが主題になると思います。




