放浪者の章 終話
サイハテはベッドの中で目を開けた。
昨日、ヨーコに救出劇のいきさつを語り終わった頃から記憶がない。この頭の中で銅鑼が鳴っているような痛みと、胸の奥に重油でも溜まっているのではないかと思うほどの気持ち悪さから見るに、二日酔いと言うやつなのだろう。
込み上がる気持ち悪さと、四肢の重さに辟易しつつ、サイハテはゆっくりと身を起こす。
「……なして俺は全裸なん?」
思わず自分自身に突っ込んでしまう程、見事な全裸だった、おまけに陰毛がガビガビしている……これはドリーマーをやってしまったかと気恥ずかしくなりながら、布団をめくった。
白い背中が見えた、小さな肩を見る限り、黄色人種の少女の背中であろうことはなんとなく理解した。
「……ヨーコ、何してるの?」
少女は一人しかいないし、ハルカの肌は白人種だ。
「…………その、痛かったわ」
「は、ははは、まさか」
ヨーコの言葉にサイハテはごまかすように笑う。
そんなサイハテに現実を突きつけるように、ヨーコはベッドにある赤いシミを指差して見せる。小さな赤いシミ、恐らくあれ。
「うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
エピソードⅤのルークの如く叫んだサイハテは、全裸のまま走り出したところで、ハルカに足払いをかけられ、すっ転んだ。
「……は、ハルカ、否定してくれ。俺はロリコンじゃないって…………あいつらとは違うって!」
すっ転んだまま、ハルカの足にすがりつくサイハテ、ハルカはあいつら? と首を傾げるものの、自分の欲求を優先した。
「サイハテ様は無理矢理がお好みのようで」
「やべぇ! 俺でも知らなかった性癖が大暴露!!」
「では詳細に語りましょう、酔っ払ったサイハテ様は、肩を貸してこの部屋に辿りついたヨーコ様を自慢の筋力で押し倒すと、無理矢理服を剥ぎ取り」
ハルカが指差した先には破かれたであろう、衣服が転がっている。
「あまつさえ、泣き叫ぶヨーコ様を腕力で黙らせ」
衣服から動いたハルカの指先は、青あざを作ったヨーコの顔に向けられている。
「驚く事に事前行動もなく。ドッキングなされました」
「よし、荒縄をくれ。ちょっと死んで詫びる」
「と、言う事があれば面白かったでしょうね、昨晩は普通にお休みなさいましたよ?」
「…………………………………………………………………………パードゥン?」
「ですから、普通にぐっすりと眠りましたよ。ヨーコ様も、サイハテ様も」
「……じゃあこのガビガビの股間は?」
「それは普通に夢精しておりました」
「……………………」
ヨーコの方を見ると、彼女は胸を左手で隠しながら、右手でドッキリ大成功の看板を持ってにっこり笑っていた。よく見ると青あざは化粧だ、乙女の技術をフル活用した結果だったらしい。血も、トマト缶辺りを利用した物だろう、冷静なサイハテならば気がついた物だった。
「あ、おうち帰って宿題しなきゃ!」
サイハテは恥ずかしさのあまり、全裸のまま走り出そうとし、ハルカに押さえつけられていた。
「離してー! 変態行動させてー! 現実を忘れさせてー!」
「サイハテ様、紳士淑女道は現実逃避の為に行う事ではありませんよ。メイビー」
ハルカに嗜められるサイハテを見て、ヨーコは一言だけはっきりと言う。
「そもそも、私はサイハテに求められたら嫌がらないし、泣き叫ばないわよ。あんたの女になるって言ったじゃない」
「なってもいいとは言ってたけど、なるとは言われてない! セーフ!」
「じゃあ今言うわ、あんたの女になる」
「俺、アウトー!! うっ、きもちわるおぼろろろろろろろろろろろろろろろろろ!」
「いやー! サイハテがゲロ吐いたーーーーーーー!!」
「わたくしにかかったであります、ご褒美ですわ」
結局、サイハテが落ち着くまで数分間かかり、部屋の外で待機していた包帯ナースさんが痺れを切らせて入ってきてしまった。
そしてそのまま、西門突破準備にかかる。
ナース曰く、街の警備隊が厳戒態勢に入っており、ナースが紹介したこの宿でなければサイハテは捕まっていた可能性が高いとの事だ、ヨーコはサイハテに深酒させてしまった事を深く反省する。
準備と言っても、サイハテとヨーコの荷物は多くない。
少しばかりのお金と、手持ちの着替え等が少々だ。結局家財道具を持っていたナースの荷物を装甲車に積み込む時間となってしまう。
歩兵運搬用の装甲車は大きな荷物を詰めて、サイハテのようなワンダラーには重宝される存在らしい。
上に付いている機銃も、生き物相手には絶大な威力を発揮し、日本の技術を詰め込まれた装甲車はリッター六十七キロメートル。搭載燃料は八十リットル、凄まじい性能であった。
「さて、作戦があるんだ。とは言っても覚える必要はない。一応聴かせるだけだ」
荷物の積み込みが終わった所で、サイハテは突破作戦……作戦とは言えない単純な物を説明し始めた。
西門では厳戒態勢が敷かれていた、外からの侵入者より、内からの脱走者を警戒しているようで、見張り塔の兵士も双眼鏡で、町を覗いていた。
その中、見張り塔の兵士から頭おかしくなったんじゃないかと言う報告が、通信機を通して伝わってくる。
『隊長、おっぱい丸出しの女が装甲車の上で仁王立ちしています』
「後で精神病院紹介してやる、お前は今日休め……」
西門警備隊の隊長は部下思いだった、決して激務などさせなかったが……見張り塔の兵士は頑張りすぎたのだろう、後で病院に連れて行ってやろうと隊長は思う。
『た、隊長! おっぱいが……おっぱいがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
「だから休めと言うとろーに!!」
「発射されましたぁぁぁぁぁぁぁ!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? こっち来るーーーーーーーーーーーー!!」
隊長が部下を一喝しようと通信機を掴んだ瞬間、西門は大爆発に見舞われ、部下思いの隊長は爆風に煽られて、詰所の外……とは言っても、爆発で消し飛んでしまった詰所ではあるが……に吹き飛ばされる。
地面に倒れ付した隊長が見たのは、瓦礫となった西門の上を悠々と走る装甲車と、その装甲車の上でにょきにょきとおっぱいを生やす全裸の女だった。
「訳……わからん……」
隊長は夢だと思って意識を手放した。
新たな旅立ちはいいですよね。




