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十八話

 腰を下ろしたサイハテの真横に座ったヨーコを見て、ハルカはわざわざサイハテの背後でメイドらしく立っていた。

 サイハテがここに至る経緯を話そうと口を開いた時、ここのオーナーであり、シェフでもある堂島さんが姿を現した。


「お酒でもいかがですかな?」


 堂島さんは人が良さそうな笑みを浮かべると、いくつものワインを差し出してくる。


「い、いいんですか? 私たち、ここを散々荒らしてしまいましたよ」


 ワインを嬉しそうに受け取るサイハテとは対照的に、ヨーコは立ち上がっては頭を下げて、そんな事を言っている。


「ええ、今月中には店を畳むつもりだったんです。そこに西条さんが現れて、この店を買い取って下さいました。これはちょっとしたおまけですよ」


 堂島さんは、店をたたんで平和に暮らしたかったと言う、確かにかなりお年を召している方だし、緩やかな余生を過ごしたいと言うのはなんとなく解る。


「ま、それ含めて話そうと思ってるんだ」


「わかったわ……ほら、お酌して上げるから早く話して」


 ワイングラスにワインを注ごうとしていたサイハテから瓶を奪うと、ヨーコはそう急かす。

 二人の背後では堂島さんが、


「若いっていいですねぇ」


 といい、


「でしょぉ?」


 とハルカが同意していた。

 サイハテは背後の二人の会話を恥ずかしく思うと、注がれたワインを飲み干して喉を湿らせると、今まで起こった事をゆっくりと話し始めるのだ。




 サイハテを助けたナースは顔に包帯を巻いた変わった方だった。

 彼女は体重80キロを誇るサイハテを軽々と担ぐとジープの荷台に叩き込む。


「あなたは……何者だ?」


「あたしは看護婦さんよ、白衣の天使さま、敬いなさい」


 サイハテは直感で彼女を同類だと見抜いたと言う、その白衣の天使はサイハテをドラム缶の中に問答無用で突っ込んだのだ。

 ドラム缶の中はあの時、ヨーコが持ってきてくれたケフィアで満たされており、サイハテの傷は瞬く間に治ってしまう、幸運だったとサイハテは語る。


「それで、あんたはなんであんな所で倒れていたのかしら? 返答によっては協力してあげてもいいわよ」


 黄ばんだ白衣を纏う天使は、サイハテが治療されると開口一番にそんな事を言ってくれた。

 これ幸いと、サイハテは黄ばんだ白衣の天使に今までの経緯をセクシーに説明すると、彼女は腕を組んで何かを考え始めた。


「斎藤のやつ、まだそんな事してるのね。わかった、協力してあげてもいいわ。あたしのお願い聞いてくれたらね」


「……内容によるけど、その願いってなんだ」


「後で話すわ。そんな難しいことじゃないから安心して」


 ともかく、何かしらの願いを後で聞かなくてはならないらしいが、それよりも大事なのはヨーコだ。斎藤には任せられない。あれはストーカー気質の人間で世界が全て自分の思い通りになると思っているタイプだ。


「わかった、すぐにワンダラータウンに戻ってくれ。礼は必ずする」


「礼をするのは当然よ、この世は所詮ギブアンドテイクなのよ、資本主義万歳なのよ」


 変な人だな、とサイハテは思ったらしい。

 お前が言うなと、話を聞いているヨーコは思ったらしい。

 それはさておき、サイハテと黄ばんだ白衣の天使は直様ワンダラータウンに向かう事にした、検問で見つかる可能性があったので、サイハテは途中で降りて、壁をよじ登って入ったのだと言う。

 その際に何人かの警備兵を始末した為に、明日には死体が見つかるだろうとの事だ。

 中に侵入したサイハテは、真っ先に宿へと向かう。どうせハルカの事だ、主人のピンチも気がつかずにぐーたらしていたのだろう。


「と、思ってたんだけどなぁ」


 宿の中でハルカはぴたりと停止していた。

 とりあえず体を分解(バラ)して見てみるとEMPを食らったような痕跡があり、変な液体が蠢いてハルカを一生懸命直していた。サイハテは直様、ハルカを組み立て直した。

 ちょっと申し訳ない気持ちがあった。

 ハルカの再起動を待つ間、サイハテは武器屋に走る。

 そこで一言、


「巡航ミサイルありませんか?」


「お前頭沸いとるんか」


 武器屋のおっちゃんが放った言葉は至極常識的であった。


「だが、あるぞ。お嬢ちゃんの為に使うんじゃろ?」


「よくわかったな」


「斎藤のやつとお嬢ちゃんが歩いていたのを見たわ、あんな悲しい顔をした少女をよく連れ回せるもんだ。負けといてやる、買ってけ」


 斎藤はいろんな意味で有名だったらしい。

 ともかく、購入した物を宿に届けて貰う約束をしたサイハテは斎藤とヨーコをストーキングする。その場で助けなさいよと言うヨーコの言葉に、あんな状況で斎藤を始末したら今頃蜂の巣だでよとサイハテは真っ当な言い訳をする。

 事実、あの時は沢山の部下が斎藤の周りに存在し、サイハテが奇襲をかけても斎藤がヨーコに銃を向ければ同じ事になってしまう。そして次はないだろう。

 しかし、本当の理由は違う。巡航ミサイルを買った事から、サイハテは斎藤を空に飛ばす気満々だったのである。そうしなければいけない気がしたのだ。

 何はともあれ、自慢げに語る斎藤の口ぶりから、ワンダラータウンの北東にある巨大なビルに行くことは予想が出来た。ならばとサイハテはそのビルに向かい、堂島さんと話をつけて買収する。

 これで装甲車一台分の電子部品と、サイハテが乗っていたバイクを売った金はゼロになった。ちょっとした財産ではあったのだが、ヨーコの為なら惜しくはないとデデーンと支払った。










「で、後はお前の知る通りに奴はお星様の仲間入りをして、俺はヨーコを奪い返したと言う訳だ。かなり端折ったがこんなもんだ」


「……それで、これからどうするの?」


 サイハテが空けた杯に、再びワインを注いでやり、サイハテはそれを飲む。


「ナースさんの頼みを聞いて西のでかい街へと行ってみる、そっちには海もあって新鮮な魚が取れるんだってさ」


「……その海って泳げるの?」


「ああ、お嬢さん、それはやめて置きなさい。肉食魚がうようよしていて、足を噛みちぎられてしまいますよ」


 水着を見せるチャンスと意気込んでいたヨーコに、堂島さんがやんわりと警告してくれる。


「そう、ありがとうございます。堂島さん」


「いえいえ、頑張って下さいね」


 ともかく、これからの方針は決まった。

 明日は装甲車で西の検問を突破しないといけないのだ、今日はゆっくり休んで英気を養うべきであろう。


「堂島さん、店、ありがとうございました」


 サイハテは最後にそう言って、堂島さんに頭を下げる。


良い狩りを(グッドハンティング)放浪者よ(ワンダラー)


 それに対して、堂島さんはおしゃれに返事をして見せるのだった。

今日中に放浪者の章を終わりにしようと思います

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