十六話
無論、サイハテは生きていた。
内蔵のいくつかをダメにしながらも、サイハテは生きていた。恐らく生きていた理由は斎藤が使った拳銃が22口径の豆鉄砲だった事に加え、弾丸が体から突き抜けていったからだろう。
「がっ……ぐううう……ああ!」
激痛に苛まれる全身に活を入れて、サイハテは這いずる。
目標は突き落とされた時にバラけた荷物の中身、その中の一つである発炎筒までだ。距離にして三歩、サイハテにとっては目覚めた日にヨーコと進んだ距離よりも長く感じる、しかし急がなくてはならない。あの少女だけは、泣かすわけにはいかないのだ。
「風音……待っ…………てろ。兄ちゃ…………が助け………………るから」
腕の力だけで、肉の塊となった体を引きずる。サイハテが這いずった後には巨大な筆で描いたような鮮血の痕が残される。
「今度…………こそ……助け……て……みせるから」
そして執念の這いずりによって、サイハテ発炎筒を掴んで見せる。紐を引くと真っ赤な火が着いて、一時間以上燃えるような物だ、火薬の強い発光によって何十キロ先からも見える強力な物だ、工場探索の時に使うべきものだったのだが……サイハテは終ぞ使わなかった。
強い閃光をハルカが見つけてくれるのにかけて、サイハテは仰向けになる。
しかし、やってきた人物は目的のメイドロボではなく、意外な人物であった。
「あ、あなたは……」
サイハテはその意外な人物の顔を見て、驚愕の表情を浮かべる。
「どなた?」
全く知らないナースさんだったからだ。
斎藤はご機嫌だった。
過去の世界から蘇って数年、こんな嬉しい日はなかったのだから、それもそうだ。
斎藤は警察官だった事はない、それどころか終末前の世界ではただの中学生であった。どこまでも冴えない、クラスで友人の一人もいないぼっちであった。
そんな斎藤も憧れていた女子が一人だけ存在した、今隣に居る南雲陽子その人である。
誰に対しても優しく、それこそ、鼻つまみ者であった斎藤に笑顔で話しかけてくれた、彼女こそ自分にふさわしい女性である。斎藤はそう考えた。
「陽子さん、幸せな家庭を築きましょうね」
「………………」
ヨーコの反応は薄い。
斎藤は激怒した、恐らくあの西条疾風と言う男によっぽどひどい目に合わせられていたのだろう、だから彼女からは笑顔が消えて、こんな沈痛な表情を浮かべているのだ。
「げ、元気だして下さい、あの男はどうせ死にますし。貴女はこれから幸せになれるんです!」
ヨーコが元気ないので、斎藤は慰める事にした。
「……ありがとう、ございます」
斎藤は心の中でガッツポーズをした。
―――――――僕の行った行動は正しかったんだ!!彼女を救ったんだ!!
「陽子さんの為に、町一番のレストランを予約したんですよ。驚いて下さい、貸切ですよ!」
「それは、すごい、ですね」
「ええ、町を一望できるレストラン、昔のビルを利用した場所なんです。あの夜景は陽子さんも気に入って下さいね」
「はい、気に入ります」
斎藤は人生の頂点を極めた、そう言っても過言ではない位の今日に深く感謝をした。
ヨーコも喜んでくれているし、絶対に幸せにしてあげるぞと、斎藤は心に刻むのだ。
ギャグパートです。
感想でシリアスとあったので、注釈を入れさせて下さい。
ギャグパートのつもりです。シリアスはまだ書いた事ありません。




