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十五話

 サイハテと斎藤は同じ車に乗り込み、ワンダラータウンを出た。

 荒野に続くアスファルトは一本の川のようで、そこを走る車は魚なのかも知れない。とサイハテはちょっとばかり詩的な事を考えて、鼻を鳴らした。


「なぁ、斎藤氏、そろそろ目的を教えてくれてもいいんじゃないか?」


「自分の胸に聞いたら如何です?」


「おい、俺の大胸筋、これは一体どう言う事なんだ? シラナイヨ おい、知らないって言ってるぞ」


 ちょっとした寸劇をしたら、斎藤はひどく顔を顰める。どうやら馬鹿にされたと感じたようだ。


「僕はあなたを破滅させる為に、過去から蘇ってきたんですよ」


「な、なんだってー」


「馬鹿にしてっ!!」


 サイハテのこめかみに、ぐりっと拳銃が突きつけられる。


「素直に驚いたのにこの仕打ち、酷いでござる」


「……っ!」


「ま、撃つなら撃てよ。抵抗はする」


「……そこは抵抗しないではないのですかな? 語るに落ちるとはこのことですね」


「お前が何を言っているのかさっぱり理解できん」


「ふん、これだから低学歴は……」


「おう、中卒だぜ。ところでこの世界で学歴とか関係あんの?」


 ぐぬぬと斎藤は黙り込んでしまった。

 どうやら彼はさして頭の出来はよろしくないらしい、それから黙り込んでしまった斎藤を一瞥すると、サイハテはぐーすかと眠り始めてしまった。

 そのサイハテと見て斎藤が顔を真っ赤にして怒り出したのは言うまでもない。

 結局サイハテは目的地に着くまで起きる事はなかった、お酒を飲んでいたのもあるし、斎藤と話していても有益な情報は出てこないと判断したからだ。


「お、目的地に着いたのか」


 車が止まると、サイハテはあっさりと目を覚ました。

 斎藤は怒り狂い過ぎて顔色が面白いように変化している、それを部下が不安そうな表情で眺めている。何はともあれ、斎藤とサイハテは車から下ろされ荒野の崖っぷちに並んで立つ。


「おい、なんでヨーコが居るんだ」


 そしてそこには困ったようなヨーコが、用意されたパイプ椅子に座って首を傾げていた。


「こういう事です」


 斎藤はサイハテの問いににやりと笑うと、ヨーコに拳銃を突きつける。


「!?」


「え、なによこの状況」


 目を見開くサイハテと、状況がよくわかってないヨーコ、それにいやらしく笑う斎藤とその部下達……サイハテは顔を動かさずに、目だけで周囲の状況から情報を収集している。

 アサルトライフルで武装した人間が十五人、更には装甲車の機銃までもがヨーコに向いている。銃口は常に弱いものに向けておく、人質を取る時の常道であった。


「お嬢さん、申し訳ないがそこの男……西条疾風がやった事をお聞き下さい」


「な、まさか……お前、あの時の生き残りか!」


 サイハテは純粋に驚いてしまう、何しろあの事件に関わった人間は全て始末したはずなのだが、まさか取り逃しが居て、運のいいことにサイハテの前に現れてくれたのだから。


「いや、僕はお前を捕まえた警察官だ!」


 と思ったら無関係の人間だった、それならば何故? とサイハテは斎藤の行動に疑問を持つ、サイハテが犯した日本史上最大の連続殺人事件は確かに凄まじい物だったが、無関係な人間が恨みを持つのはまずありえない、何しろ無関係な人間にとってどこで誰が何人死のうとそれは対岸の火事なのだから。


「聞いてくださいお嬢さん、奴は―――――――――」


「や、やめろー」


 そうして斎藤はつらつらと真実30%、虚飾70%のサイハテが起こした事件を語り、サイハテは自分に酔ったように語りだす斎藤の背後で、全力で阿波踊りをしていた。


「だから……だから僕はやつを許す訳にはいかないのです!」


 まるで演劇のひと目のように、振り返り、サイハテに人差し指を向けた斎藤はあんぐりと口を開けた。


「やべっ、バレた」


「何故貴様は踊っとるかぁー!!」


 怒り心頭の斎藤と、てへぺろと反省を見せるサイハテ、そして笑うヨーコ。三者三様の有様だ、実のところ、ヨーコはサイハテが何者かを知っていた。中学の現代史で習う事であるからだ、真実なんてひとかけらも乗っていない歴史とサイハテの性格を鑑みて、それでもヨーコはサイハテに着いて行こうと選んだのだ。


「南雲さん! 貴女はこの男に騙されているんです! 正義の為にも、あの男から離れて下さい! そして僕と一緒にあの悪をやっつけましょう!」


 そしてサイハテはなんとなく、斎藤の目的を知る事ができた。あの斎藤とか言う自称警察官は、ただ単にヨーコに一目惚れをしただけなのだ、そして自分の正義と言う自己顕示欲を満足させるため、性欲を満足させる為、サイハテが悪人である事をばらして、絶対的に有利な状況でサイハテを始末し、ヨーコがきゃーすてきーとなるのを望んでいたのだろう。


「悪いけど、私はあんたに着いていく事はないわ。だってあんたよりサイハテのが強いもの、そして優しいもの」


 ヒートアップする斎藤に対するヨーコはクールな反応を示した、この法律も糞もない終末世界で、ヨーコのような少女が生き抜いていくのは無理だ。だからヨーコは女としての判断を下した、強い男に着いて行って守って貰う、養って貰う。

 文明社会で生きていたヨーコとは思えない程原始的な発言である。


「…………だったら、僕の方が強いと証明してやる」


 そう言うや否や、斎藤はサイハテに向かって拳銃を発砲した。


「あぶねっ」


 なんなく回避する、サイハテ。


「次避けたら」


 斎藤はそんなサイハテが気に入らないのだろう、後ろの仲間に合図すると、ヨーコの頭に銃を突きつけさせた。


「……強さを証明するんじゃなかったのか?」


「人脈だって、僕の強さです」


「ああ、確かにそりゃそうだ」


 そして斎藤はサイハテの足を撃ち抜いた。

 苦悶の表情を浮かべて膝を着く、サイハテと驚愕に目を見開くヨーコ。


「卑怯よ!」


「西条疾風は卑怯者ですから、彼が卑怯な行動をする前に僕が先手を取っただけです」


 もはや支離滅裂ではあるが、斎藤の勝利は揺らがない。

 斎藤は容赦なく、サイハテの反対側の足も撃ち抜いて、サイハテを地面に倒れさせる。


「見てください、僕が正義だから勝った。僕の方が強い!」


「……だったら言うわ、私は絶対あんたなんか愛さない。あんたの女になんかなってやんない」


「そうですか、気が変わったら言って下さいね」


 歯をむき出しにして怒るヨーコの言葉をさらりと無視した斎藤は、倒れるサイハテの頭に足を乗せて、彼の背中に向かって弾丸を放った。

 飛び散る鮮血に、掠れるような苦悶の声がヨーコに届く。


「どれくらいで死ぬでしょうか?」


 そして二発目がサイハテの背に撃ち込まれる。


「わ、わかったから、わかったからやめて!」


「でしたら謝罪を、ちゃんと様を付けて土下座して下さいね」


 斎藤の言葉と共に三発目がサイハテの背に撃ち込まれる。

 ヨーコは迷う事なく、斎藤に向かって、深々と土下座をした。


「斎藤様が全て正しいです、私が全て間違ってました。本当に申し訳ありませんでした」


「気に入らない、やり直し」


 五発目の弾丸がサイハテの肉を抉った。

 結局、ヨーコの謝罪は二十五回までやり直しさせられ、サイハテの体には三十発の弾丸が叩き込まれる事となった。

 サイハテの命が助かったのは、ヨーコがサイハテを殺したらこの場で死ぬと言ったからであろう。


「ああ、僕の思いが伝わってうれしいですよ陽子。さぁ、町に帰りましょう。沢山愛してあげますからね!」


「……はい」


 斎藤はサイハテを崖下に叩き落とすと、そう言って満足そうに去っていった。サイハテが生き残れるとは思わないし、ここまで痛めつけたんもだから全部許してやろうなんてバカな事を考えていたのだ。

 斎藤は忘れていた。

 サイハテが史上最悪の復讐鬼である事を……まだ仲間が居る事を。

主人公にちょっとした苦難を与えてみました。

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