十四話
ワンダラータウンの宿屋にて、ヨーコはぐったりと疲れていた。
ヨーコが立てた帰還後の予定では、自分はサイハテに告白してそれからほにゃららら的な関係になっていたのに、なんて都合のいいことを考えていたのではあるが現実はそんなに甘くなかった。
「缶詰ちょーうまいですねぇ」
鯖の味噌煮缶を嬉しそうに食べている、自称メイド型戦闘ロボットハルカのせいだ。
「……あんた、食事が必要なの?」
「いいえ、わたくしは核融合炉搭載ですから。五百年は動き続けますよ」
「そう……」
だったらなんで缶詰食べてるのよ。
ヨーコはそのツッコミをぐっと飲み込んだ、ハルカの思考回路は取り繕うと言う部分を持ってないだけサイハテより酷い、つっこんでも理解出来ない返しをされて更に疲れるだけだ。
「そうそう、ヨーコ様」
「なぁに、ってヨーコ様ってなによ」
缶詰を食べ終わったハルカが、両手を叩いて口を開いた。
「何ってサイハテ様の奥方様でございますよね?」
「……違うけど」
「ああ、では愛人様でございますか」
「それも違うわ」
ヨーコの機嫌は凄く悪くなった。まだそんな関係でもないのだから。
「そうですか、では肉便器様でございますね」
ハルカはそんなヨーコに気づいているのか、いないのか、可憐な顔立ちでとんでもない事を言ってのけた。
「あんたなんて事言うのよ!!」
「おや、狭い宿の一室に男女が二人、だったらもうやる事は決まっているでございましょう。狭き世界でアダムとイヴになりきるしかございませんのよ」
目をキラキラさせて語るハルカに、汚物を見るような目でハルカを見つめるヨーコ。どうやらこいつ、人間のそう言った機敏に興味津々らしい、女子かとツッコミたくなるヨーコだが、見た目は女子なのでツッコミは遠慮してやる。
「だから、私とサイハテはそう言う関係じゃないのよ……」
「あらま、己が性欲も開放できない御仁でしたか……」
最早なにも言うまい。
ヨーコはハルカを無視して汚いベッドのシーツを外し、ハルカに向かって十円玉二枚を投げる。
「それで大きな桶にお湯貰ってきて、私洗濯するから」
「おお、メイドらしい仕事でございますね。では行ってまいります」
元気よく、階下のカウンターまで走って行くハルカを見送って、ヨーコは遊びに出かけていったサイハテを思う、なるだけ早めに帰ってきて欲しいと。
そんな思いとは裏腹に、ヨーコに来客を告げる黒服の男が現れたとハルカが伝えに来るのはほぼ同時だった。
一方サイハテはそんなヨーコの思い虚しく、スタンディングバーでお酒を嗜んでいた。
まだ昼間ではあるが、この飲み屋は沢山の人が居る。サイハテは特に酒が好きと言う訳でもなく、呼び出されたからここに来ているのではあるが……なんと言うか、こういう所に来ると世界は本当に終わったんだなと再認識してしまう。
今も喧嘩から撃ち合いに発展して死人が出たと言うのに、酔っ払いはゲラゲラ笑って死体の身ぐるみを剥ぐだけだ。
「おや、お待たせしました」
終末世界の住人を嫌な目で見ていたサイハテの背後から声が掛かる。
「ああ、斎藤氏。お久しぶり」
サイハテは手に持っていたウィスキーを飲み干すと、片手を上げて挨拶を行った。呼び出した人物はここの警備隊長斎藤であった。
呼び出された経緯は非常に簡単なもので、宿に帰ったら一枚の書き置きがあり、内容は明日休みだから飲みに行きませんか、と言うものだった。
「ええ、では少し場所を替えましょうか」
「ああ、おい、マスター。ごっそさん」
前払い式のバーであったので、出て行く時に金を払わずに済む。
「よー、サイハテ! また笑い話聞かせろよなー!」
「おう!」
そして出て行く時に、仲良くなった酔っ払いがサイハテに挨拶をする。知らない場所で知らない人に話しかける事が出来るコミュニティ能力の高さ、斎藤は冷静にサイハテを見つめている。
立ち飲み屋の前に止まっていた乗用車、この終末世界ではかなり珍しい。そこそこの身分の人間がサイハテを呼び出しているのか、理解出来る。
「……酒を飲みに行くだけじゃなかったのかな?」
「はて、そんな事言いましたかな?」
斎藤はとぼけている。
「だったらこの話はなしだ、俺は宿に帰らせて……ちっ」
斎藤の拳銃がサイハテの背中に突きつけられた。
「悪いが、来てもらわなくちゃ困るんだよ。なぁ、殺人鬼」
「……お前も幸運の放浪者だったのか」
「そうだよ、ともかく君に来てもらわなくては話にならない。これは僕の復讐なんだから」
にやりと笑う斎藤はそのままサイハテを車に押し込み、運転手に車を出すように伝える。
過去からの断罪が、サイハテにやってきた。
またランク上がっとる……
おまけにPVが昨日見た時の十倍だと……
ええい、蓮舫のモビ○スーツは化け物か!(仕分け)




