表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/49

十二話

 ヨーコは工場に入るなり、思い切り顔を顰めていた。


「……最悪、血生臭い」


 それだけではない、こぼれた腸から汚物が漏れているし、脳みそポロリも珍しくない。

 ちなみに警備システムは地下の発電機が本格的にブッ壊れたのか完全に停止してしまっている、撃ち漏らしがいなければいいなとサイハテは思っている。


「俺はヨーコの匂い嗅いでいるから平気」


「ちょ、やめてよ! 今汗臭いから!」


 ―――――――――今じゃなければいいのかよ。

 サイハテは奇妙な事を言うヨーコに、戦慄を覚える。しかし、今はそんな事を問いただしている暇はない。何しろここに居た怪物共に、他の仲間がいない保証はないのだから。


「ま、血生臭いのは我慢我慢。明日のご飯の為に、一生懸命ゴミ漁りしようぜ」


「ご、ゴミ漁りって表現はやめない? 宝探しとか……」


「どう考えてもここにあるのは大量生産品だろ」


「……ゴミ漁りでいいわ」


 ヨーコが意気消沈してしまう、まさかこう言うのにちょっと憧れていたのだろうか? それならば悪い事をしてしまったような気がする。少女の夢をぶち壊すのって背徳感満載で申し訳なるなぁとサイハテは内心興奮している。

 何はともかく、いつまでもふざけているわけにもいかないので、サイハテは袖を握るヨーコを連れて工場内へと潜っていくのだ。


「……工場の中は石油臭いのね」


「ああ、石油のタンクに穴が空いたのは最近みたいでな。今もがっぽがっぽ漏れてる、腐ってて火がつかないのが幸いだよ」


 よくよく考えたら警備システムを作動させた時点で大爆発を引き起こしていても不思議ではなかったのだが、無駄に幸運に恵まれているのが変態である、憎まれっ子世に憚るとはこのことか。

 迷路のように配置された工作機械郡を飛び越えながら進んでいる為、サイハテが隠れながら進むよりは大分スムーズだ。

 第一工業区画を抜けて、完品検査場に入った時にヨーコが突如口を開いた。


「ねぇサイハテ、あれを見て」


 ヨーコの指差す先には、サイハテが入っていたような棺桶が一台、安置されている。

 何故こんなところにとは思うが、何かしら理由があったのだろうと自分を納得させる。しかし検査場中央に安置されている新品の装甲車ではなく、片隅に置かれた棺桶に目をやるとは……ヨーコは物を探す目に優れているのかもしれない。


「棺桶だな、俺らと同じ幸運の放浪者(ラッキーワンダラー)か?」


「………………」


 何か物言いたげな表情で、ヨーコはサイハテを見つめる。助けて欲しいけどサイハテには迷惑かけているし、これ以上わがまま言いたくない、サイハテの重荷になりたくない……そんな表情をしている。


「……わかったよ、助ければいいんだろ」


 結局、サイハテはこのヨーコと言う少女に甘いのだ。

 妹に似ているから、所詮守れなかったと言う罪悪感から逃れる為の代わりでしかない、サイハテは自分に反吐が出そうになった。

 棺桶は蓋部分がガラス製で中身がよく見える、白骨死体が入ってなければいいなぁとか思いながら、サイハテは棺桶の中を覗くのだ。


「大変だヨーコ」


「え、もしかして死んじゃってる?」


「いや、全裸のお姉ちゃんが入ってる。これって俺へのご褒美ですよね?」


「そんな訳ないでしょ! 早く助けてあげなさい!」


「へーい……」


 怒髪天を突くが如くのヨーコに対し、サイハテは不満そうに返事をして、棺桶―――冷凍睡眠の装置を統括するコンパネを弄る。

 タッチパネルには、


《解凍しますか?》


 と選択しが出現しており、スタイルがいい女性をもうちょっと眺めたい気持ちを抑えつつ、サイハテははいを選択するのだ。

 そして棺桶から聞き覚えのある音がする、この音を的確に表現するならば……そう、電子レンジ。あのぶーんって音が棺桶から聞こえてきている。


チーン♪


 解凍終了の音も電子レンジだった。


「……俺たちは冷凍食品か」


 流石のサイハテも複雑な気持ちなのか、微妙な表情を浮かべている。それはヨーコも同じであった。


「……似たようなものでしょ、未来に向けての保存出来る技術なんだから」


「それもそうだな、やーい。冷凍食品女ー」


「あんたもでしょ」


 ちょっと前までからかえば顔を真っ赤にして反論してくれたのに、今のヨーコは腕を組み、クールに流してしまう。サイハテ、ちょっと寂しい。


「下の毛うすーい」


「…………見る?」


「あの、急にそういうのやめて下さい」


 頬を朱に染めて、ズボンに手をかけたヨーコからサイハテは距離を取る。

 変態と言えど美学はあるのだ、これは美学その二十七に相当する。女の子が自ら服を脱ぐのは美学に反するのだ、サイハテは脱がしたいのである。


「ふん、一昨日来なさい」


「わかった、明後日行くぜ」


 その間、数日間。

 なんてやり取りをしている間に、裸のお姉さんが棺桶からゆっくりと歩み出てきた。


「戦闘用メイドロボ、R-34。マスター、よろしくおねがいしますにゃん♪」


 裸のお姉さんはいきなりそんな事を、猫のポーズ付きで宣った。唖然とするサイハテの横でヨーコがぽつりと一言。


「メイド要素どこにもないじゃない……」

メイド要素ゼロのメイドロボが出ました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ