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十話

 小さな体躯の化け物、彼らは自分たちをブッチャーと呼称していた。

 昔ばら蒔かれたウイルスによって、変異した子供達の成れの果てだ。簡単な人語を理解し、小さなコミュニティまで築く、終末世界で最もポピュラーな化け物だった。

 老婆のような醜い顔をし、小さな体躯を持って荒野にコミュニティを作り上げる彼らは言わば荒野の山賊だ、銃器を使うだけの知能はあるので奪った武器で武装し、街から街へと流離うトレーダーなどを襲撃する事で、彼らは生計を立てていた。

 元々が人間なので、彼らは人間に酷似した習慣を持っている、それは弱いものを嬲り殺して遊ぶという習慣である、子供の悪意を煮詰めたような性格とでも言えばいいのだろう。

 粗食に耐えられ、強い繁殖力を持ち、人間の利点の一つである銃器で武装が出来る。終末世界で人が大きく数を減らしたのは彼らブッチャーが猛威を振るったからだろう。ただ、この世界では狩る者が狩られる者に様変わりするのは、さして珍しい事でもない。


「ブギッ……!」


 サイハテの腕の中でブッチャーが呻く。

 背後にコッソリ回り込んだサイハテが彼らの気道を締め上げたのである、サイハテはそのままナイフをブッチャーの胸へと突き立てた。

 驚く程簡単に突き進む刃が、ブッチャーの心臓を貫き、彼の行動を止める。


「おやすみ……」


 ブッチャーの死体を適当な物陰に隠して、サイハテは前へと進んでいく。耳を澄ませ、目を皿のようにして細心の注意を払いながらの前進だ。

 ブッチャーが持つ銃器は奪う気になれない、録な整備がされておらず、使ったら弾が詰まって暴発しそうな程に危うい、だが彼らはそれでいいのだろうと、サイハテは胸中で呟く。工場の第一区画を進んだだけで始末したブッチャーの数は十三匹にも及ぶ。

 そして目の前ので十四匹目だ。

 サイハテは這い蹲るように身を屈めると、目標に向かって跳躍する。

 全身のバネを使った跳躍はまるで獲物を仕留める豹のようで、迷いなく素早い。薄暗い工場内で一瞬だけ煌めいた白刃がブッチャーの喉を切断し、彼は喉を抑えながら倒れこむ。

 その背中に容赦なくナイフを突き立てたサイハテは、刃に着いた血をブッチャーが纏う汚い布で拭うと、疲れたかのように溜め息を吐いた。


(ヨーコは無事だろうか……こういう時に通信機がないのは痛いな、適当な電子部品を拾ったし自作してみよう)


 無駄にハイスペックな変態、それがサイハテである。

 それに、もし探索中にサイハテが死ぬような事があればヨーコはあそこで待ちぼうけを喰らう羽目になってしまう、夜になれば荒野は危険だし、ヨーコの見た目ならば、それこそよだれが出るぐらい欲しがる人間が居るはずだ。

 町中ではそんなことはなかったが、人の目がない荒野だったらどうだろうか……。

 そんな事を考えながら、サイハテは一つの扉を開ける。


「お」


 工作機械やベルトコンベアが並んだ場所ではなく、割れた石畳が敷き詰められた廊下に出た。工場区画は抜けたと言っても過言ではないだろう。

 十字の廊下にはいくつもの扉と奥には階段が見える。あの階段を抜ければ、目標がある完品検査場まで後少しだろう。

 サイハテは背負っていたアサルトライフルを構えると、慎重に前に進むのだ。

さて、探索の釣果はどうしよう

そんな事よりPVが四千を超えました、皆様ありがとうございます

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