七話
最悪の気分だ。
サイハテは目覚めて素直にそう思った。
サイハテがあの冷凍睡眠刑に処される事となった原因、妹のヌードに関わった人間全ての抹殺……無論購入者も含めてだ、被害者は十六万人にもおよび、サイハテは死刑より重い刑罰を執行される事となった、所謂懲役数百年である。
妹が自殺した理由は至極単純であった、あの写真集が堂々と売られ、なまじ学校一の美少女であり性格がきつかった風音は筆舌にし難い虐めを受けたのだ。サイハテがいなかった事が大きい、無論いじめっ子もサイハテが思いつく限りの残虐な方法で殺害した、これに関してはいじめっ子たちの自業自得であり、サイハテが反省する必要はないが……流石に購入者にまで手をかけるのはやり過ぎであった。
おそらく、現代史の教科書に乗る位は有名になったと思う。
「……くそったれ」
最悪の気分で目覚めたサイハテは、ヨーコが持ってきたお湯……今はすっかり冷めて水になっている上に蒸発したのか大分量が減ってしまっている……の桶を手に取って顔を洗う。
ともかく頭を切り替えていかないとこの世界では死んでしまう、人殺しなのだから死んでも誰も文句は言わないが、そうなるとヨーコの結末が自分が一番嫌ったものに……
「…………………今更言い訳かよ、はっ。都合のいい頭してやがるぜ。俺はよ」
がりがりと頭を掻き毟ると、サイハテは思考を切り替える為に宿の主人から湯を買って、頭や体を洗うのだ。室内で、ヨーコを起こさないように気を使いながら、サイハテはゆっくり体を洗う。
思い出しても腸が煮えくり返るだけだ。
「んん……あれ、サイハテもう起きてたの? そしてなんで全裸なの?」
背後でそんな声が聞こえた。
声の主は間違いなくヨーコであり、サイハテは再び変態に戻るのだ。シリアスって似合わないしね。
「おいおい、人間は生まれた時は皆全裸なんだぜ? 何を恥じる必要があるんだ」
「そうね、貴方ならアダムとイヴが追放された楽園へ戻る事が可能だと私は思うわ、創造主に一回お説教されてくればいいのよ」
「お前、ユダヤ教徒だったのか……」
「真言宗よ」
きっぱりと宣言したヨーコに、サイハテは苦笑いを見せる。
ああ、このはきはきした性格が風音に似てるのだ。大きいが気が強そうに見える目に、整った鼻筋、への字に引き結んだ唇も、確かに風音っぽかった。
再びサイハテは笑う。
「……? どうしたの? 急に笑って」
「ああ、いや。人類が皆平和にならないかなって思ってさ」
「それで笑う意味が解らないわ……」
律儀に突っ込みを入れてくれるヨーコに感激しながら、サイハテは何度も頷く。
自分が救いようもない屑だって事が再確認出来ただけで、サイハテは嬉しいのだろう。
「それで、今日からどうするの? いつまでものんびりしている訳にはいかないんでしょ?」
ヨーコはそんな事を言いながら、仕草でサイハテに背を向けるように、ついでに服を着るように頼む。背を向けるのは大歓迎だが、服を着るのはしぶしぶと言った表情のサイハテに、ヨーコは溜息を吐いた。普通逆だろうと。
「んー、とりあえず遺跡漁りかな。ここの近場でいくつか遺跡が残ってそうな部分に目をつけているんだ。運が良ければ、大儲けできる上に戦車が手に入るかも知れない」
「せ、戦車?」
「ああ、三菱の軍需工場が近くにあったのを思い出してな。俺が氷漬けになってからも文明は進歩してたみたいだし……何かしらあるのは間違いないと思う」
「ちょちょちょ、ちょっと待って。思い出したって、貴方ここどこかわかるの?」
サイハテの発言を切ってまで、ヨーコはそんな事を聞いてきた。
観察能力が足りないな、と思ったが口には出さず、町の中を走る道路、その上にある看板を指差してやる。そこには千葉市まで三十キロメートルと書かれている。ほかの部分は錆びついていて読めやしないが、これだけわかればサイハテには十分なのだろう。
「日本の地図は大体頭の中に入っているからな、これくらい造作もないさ」
「……あんたって無駄にハイスペックよね」
「変態だからな」
「変態は関係ないと思うわ」
ヨーコのツッコミに、サイハテは鼻を鳴らして見せる。するとヨーコの白い脚がサイハテのモモを強襲し、ヨーコは脛を抑えて部屋の中を飛び回る羽目になった。
「かった……! あんたの体凄く固いじゃない!」
「ふっ、ここも固いぜ?」
足を抑えて飛び回るヨーコに得意げな表情を見せ、サイハテは自分の息子を指差してそんな事を宣う。
目を半眼にしたヨーコが、
「……じゃあ蹴っ飛ばしてあげるわ」
と、言い。
「やめてください、しんでしまいます」
サイハテは萎縮した、二つの意味で。
「ま、冗談はさておき、ヨーコも戦えるようになってもらうから覚悟しとけよ」
「ええ、頑張るわ」
「そんじゃ、飯にしようか。レトルトのカレーとパック飯があったはずだ」
「……朝からカレーはきついわよ」
「何、すぐに慣れるさ」




