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幕間:サイハテの悪夢

鬱要素をほんの少しいれてみました

 西条疾風と言う男は昔、変態ではなかった。

 父と祖父に鍛え上げられた肉体と精神を持ち、祖父からは日本男児の誇りと、父からは何かを守る喜びを受け継いだ非常に善良な人間であった。

 争いが起これば母譲りの弁舌を持って、それを解決し、友が悩めば何時間でも一緒に解決策を考えて、確かな解決策に友を導いた。そして一度不幸が起これば蓄えた力と知識を持って被害を最小限に押しとどめる事が出来る、いわば小さな英雄じみた人物である。

 もし、以前のサイハテであればヨーコが化け物に追われているとあれば助けるかどうするかで悩む事はなく、ヨーコもサイハテに対して気負う事など無かっただろう。

 サイハテを変えたのは彼が十七歳の時に起こった一つの事件であった。

 時は西暦1992年、バブルが破裂し、日本の経済がどん底に落ち込む前夜あたりの事であり、彼が時たま見る最悪の悪夢だ。



 完全無欠、文武両道、そして童貞であるサイハテには何より愛した者が一人だけ存在した。

 妹の西条風音だ。まだ中学二年生の生意気盛りの妹ではあるが三才下の妹をサイハテは溺愛していた、小さな頃はどこに行くにも一緒で風音もサイハテの後ろをとことこと着いて回った。

 そんな小さな妹も大きくなれば、


「お兄ちゃん、あたしの七メートル以内に近寄らないでくれる? 筋肉がキモいのよ」


 などと反抗期になったものだが、それでもサイハテは妹を愛していた。愛は対価を求める物ではなく無償で捧げる物だからだ。

 とにかく、反抗期だから仕方ないと、サイハテは風音が理不尽なわがままを言う度に困ったように笑っていた。生意気ばかり言う妹だが、可愛くて仕方ないのだ。その生意気も、風音が一歩ずつ大人に近づいている事だし、喜びこそするが、サイハテは怒る事はなかった。


「時間が経てば落ち着くだろう」


 あの後ろに着いてくるばかりだった風音が、自分の足で立とうとしているのだ。ならば自分は遠くから見つめるだけだと、サイハテも風音から一歩距離を置き、見守る事にした。

 これが後の不幸につながるとも知らずに。

 風音の反抗期が落ち着き始めた頃、サイハテは持ち前の優秀さで半年の留学を勝ち取る、そして運の悪い事に母は三年前に亡くなっており、父も転勤の時期となってしまう。

 風音も父の転勤に合わせて転校となるはずだったが、彼女はそれを嫌がった。

 仲のいい友人と別れたくないし、近くには父の弟、サイハテたちから見れば叔父の家が存在した。叔父は表面上は気のいい写真家で、サイハテもしっかりと好感を抱いていた。

 叔父にそのことを相談すると、彼は家に残る風音の面倒を見る事を快く承諾してくれ、海外へと留学にいくサイハテを大きな声で激励してくれた。そんな事があって、サイハテと風音は昔のように一週間程過ごし、空港で別れる事となる。


「お兄ちゃん、立派になってきてね。あたしの自慢の兄貴なんだから」


「ああ、ノーベル賞とか目指しちゃうぜ」


「高校生では流石に無理でしょ、ほら、さっさと行ってさっさと帰ってきてね」


 これが、兄妹で最後に交わした会話となってしまった。

 サイハテは妹の安否を気にしながら日本を出国し、風音はサイハテなら大丈夫と大出を振って見送ってくれた。これが最後の思い出。サイハテが決して忘れられない一幕だった。

 海外でもサイハテは様々な活躍をするのだが、サイハテ自身があまり覚えていないので割愛する。

 そして帰国した日、サイハテが今のサイハテになった記念すべき日。

 サイハテは愛しい妹に会うために、空港からタクシーを駆り真っ先に懐かしき我が家に帰宅した。そして風音を驚かせてやろうとお得意のスニーキングで自宅に侵入すると、妹の部屋まで音を立てずに忍び寄り、


「ただいまぁ!」


 勢いよくドアを開けたのだ。

 サイハテの予想では風音が驚きながらも、


「もー……帰ってくるなら連絡してよね!」


 と唇を尖らせる姿を想像していたのだが、迎えたのは一本のロープにぶら下がった妹の姿だった。

 帰れることの嬉しさに、興奮していた頭からさぁっと血が引いたのを感じた。迷うことなく風音に接近し、ロープを解いて妹の安否を気遣う。

 しかし、風音の遺体は死後一週間を経過しており、夏場なのもあって腐乱臭を放つまでになっていた。サイハテは頭が真っ白になってしまうのを抑えて、震える手で家電から父の職場へと電話を掛ける。


「……父さん」


 受付の人に取次を頼むように伝え、長いコール音の後に出た父に、サイハテは事実を伝える。


「風音が死んだ」


『な、なに!?』


 サイハテは嘘を吐く人間ではなかったので、父はすぐに信じてくれた。

 そして仕事を早退するとサイハテに伝えると、泡を食ったように電話を切った。サイハテは勢いよく切られた受話器をゆっくりと耳から話、ふらつく足取りで風音の部屋へと向かう。

 警察が荒らして何もかも持って行ってしまう前に、風音が何故死んだのかを調べなくていけないからだ、思えば、サイハテはこの辺りからおかしくなっていたのだろう。

 ベッドに寝かされた風音は可愛らしい顔立ちが台無しになっていた、そしてまき散らされた糞尿が部屋に散らばっている。サイハテはそっと妹の死体を見分するのだ。


(首にひっかき傷はない、遺書も懐にある……ほぼ自殺だ)


 遺書を机の上に置き、サイハテは風音の部屋を物色する。

 元の位置から動かさないように、それでいて、自分がこの家を出る前から増えた物を確実に見分していく、そして一冊の写真集を見つけてしまう。

 悲しそうな微笑みを浮かべた風音が裸で映っている、所謂少女ヌードだ。

 製作した写真家は聞いた事もないが、会社は有名どころであった。

 頭の中でパズルのピースが組みあがりはじめるが、まだまだ情報が足りない、遺書の中身は父やサイハテに対する謝罪と、あの世でサイハテの幸せを願っているうまが書かれているだけだ。


「………………………………」


 この日より、サイハテは奇行を行うようになった。

 猥褻物陳列罪でしょっ引かれた回数は十回を超え、数か月後には精神病院に入れられてしまう。

 しかし、サイハテの復讐はここから始まる。

 サイハテはその日の内に病院から脱走して行方を晦ませてしまう、そして脱走から丁度一週間後、サイハテは日本史上最悪の大事件を引き起こすのであった。

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