序章「MISSION ONLY LIFE」第一章「選ばれし少年」
「ミッション・オンリーライフ~一万人に課せられた使命~」
序章 「MISSION ONLY LIFE」
「えーっと、これはどうすればいいんだぁ……?」
ある日突然、一通の手紙が届いた。そこにはこう記されていた。
曰く、「この手紙は、日本に籍を置く国民の中から、無作為に選ばれた一万人に送られている。そんな一万人の中に含まれた諸君には、これからこちらが指示したことを行ってもらう。
内容はいたって簡単、『一日に一度、午前七時に指示されるミッションを遂行せよ』これだけでよい。ミッションについては様々なものがあるが、その内容、制限時間等の情報に関しては当局の指示があるまで待機するように。
なお、当局が出したミッションにより、やむを得ず学校、会社、バイトなどを休まなければならなくなった場合、手紙に同封してある特別許可証を提示すること。
説明は以上である。諸君の健闘を祈る」と。
第一章 「選ばれし少年」
僕の名前は闇野風舞。いたって普通に生活している高校二年生、だった。だったというのには深い事情がある。
西暦二一六七年 五月一八日 その日僕は、いつもと変わらない日常生活を送っていた。ちなみに言うと、僕の誕生日は五月一五日なので、一七歳を迎えたばかりである。
そんな中、家に帰ると一通の手紙。表にはヤミノ フウマ様宛と記されていて、裏には何も書かれていなかった。誰から届いたのだろうか。とりあえず開けてみると、中には紙一枚とプラスチック状の板が一枚入っていた。手紙には
一、調査対象の一万人の中の一人に選ばれたので、当局の指示に従うこと。
二、指示内容は追って連絡するので待機すること。
三、(自分の場合)学校をやむを得ず休まなければならなくなった場合、同封してある特別許可証を学校側に提示した後、ミッションを行うこと。
以上のような内容が書かれていた。誰から届いたのかは不明。たぶん誰かのいたずらだろうと思い、あまり気にしないことにした。しかし、頭の中からあの手紙が離れなかった。そこで、同じクラスの友達である水守鉄矢に相談することにした。とりあえずポケットから携帯を取り出し、鉄矢に電話をかける。すると、数回の呼び出し音の後、鉄矢から反応があった。
『おぉ、ナイスタイミング! 俺もちょうど風舞に用があったんだよ。ちなみにそっちの要件は?』
「あぁ……実はな――」
少しだけ言葉を濁した後、僕は手紙のことを簡潔に説明する。一万人にしか送られていないから、身近な人間に相談したところで何かが変わるとは思えない。それでも、僕は相談せずにはいられなかった。何となく、嫌な予感がしたから。
説明を終えると、終始黙って聞いていた鉄矢は静かに口を開く。
『……奇遇だな。その一万人に俺も含まれてるって言ったら、どうする?』
「…………はぁ!?」
風舞は驚きを隠せなかった。それもそのはず、たったの一万人なのだ。その中に同じクラスの友達が含まれているなんて、驚くのも無理はないだろう。
『とりあえず、一回落ち着いてからもう一度話し合おう。いいな?』
「わかった。じゃあ今夜九時から話し合いを開始しよう。じゃ、またあとで」
それから約四時間後、話し合いの時間になった。
『風舞、落ち着いたか?』
「うん、大丈夫。それよりも、鉄矢のところにも手紙が届いたっていうのは本当なのか?」
『あぁ、本当だ。学校から帰ったら家のポストに入ってたんだ。それで――』
鉄矢から話を聞くと、どうやら彼も自分と同じ状況だったようだ。驚きはまだ残ってはいるが、話し合える相手が見つかっただけでもよかったと、安心する風舞であった。しかし、あまりにも情報量が少なすぎて、なにかしようにも動くことができない。そのため、とりあえず明日の午前七時にミッションを受け取り次第、連絡を取り合うことにした。
こうして、選ばれた一万人の人生が大きく動き出すこととなる……。
五月一九日 午前七時
昨日の手紙に書いてあったとおり、メッセージカードが届いた。
「選ばれし一万人の諸君、おはよう。早速だが、今日のミッションを指示する。
『同じ参加者を見つけ出し、五月二十日 午前〇時までに四人グループを組むこと』以上だ。
このミッションは、いわばチュートリアルと考えてくれれば良い。今回で組んだグループは、今後のミッションにおいての行動を共にする仲間となるので、慎重に考えて組むがよい。また、日本の地域ごとに人数はほぼ均等に、ある程度固まった地域に参加者が居るようにしてあるので、よほどのことがなければ組むことは可能である。また、このミッションにおいてグループが組めなかった場合、人数不足のまま今後のミッションに挑んでもらうことになる。
説明は以上。諸君の健闘を祈る」
「最初のミッションはグループ決めか。ということは、ほかの参加者も、今回は全員一緒の動きをすることになりそうだなぁ。そうするとたぶん、まずは鉄矢と組むことになるだろうから、残りは二人か。今後のミッションにも関わってくるって書いてあったし、四人で組むのは必須条件だと思うから、まずは人探しから始めるとするか」
その後、鉄矢と連絡を取って、まずは二人グループからの開始となった。初回から特別許可証を使って学校の外を調べようかとも考えたが、手紙には『ある程度の参加者が近くにいる状況になっているはず』と書いてあったので、自分たちの学校にほか数人がいても不思議ではない。そのため、まずは自分たちの学校を調べることにした。
学校に到着。まずは、自分たちのクラスから調べることにした。よく考えると、いつも学校に来る時間よりも、全然早い時間に来てしまったようだ。時刻は午前七時四五分。まだ朝部をしている最中の時間である。いつもなら、午前八時三〇分くらいに学校に着くのが普通なので、この光景を見るのは一年生の終わり以来である。そのため、教室にはまだ自分たちを含めても数人しか居なかった。これでは参加者がこのクラスに居るか、確認するのは難しいだろう。でも、何もしないでただ待っているのもどうかと思ったので、とりあえず今いる数人に声をかけてみることにした。
「あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな? 実は――」
男子三人に聞いてはみたが、参加者ではなかった。そんなに簡単に見つけ出せたら苦労はしない。残るは、一人ぽつんと教室の角で読書をしていた女子。なのだが……。
「僕、女の子に話しかけるの苦手なんだよね。鉄矢、悪いけどお願いしてもいいかな?」
『おう、わかった。まかせておけって!』
ということで、僕、闇野風舞は女の子に免疫がない。話しかけようとしたり、話しかけられたとなれば、一瞬にして顔が真っ赤になる。なので、よほどのことがない限り、基本的には女の子と接触するのは避けるようにしている。たまに、それで相手が嫌われているんじゃないかと勘違いしてしまうほどに。それに、このクラスになってまだ一ヶ月しか経っていないわけで、つまりは知らない女子ばかりなのである。なので、このクラスになってから鉄矢には何回かお世話になっている。鉄矢が居なかったら、今頃どうなっていたのか想像に難くない。ふぅ。
『ねぇキミ、ちょっと話を聞いてもらってもいいかい?』
すると女の子は、軽く頷いて席をたった。身長は自分よりすこし低いくらい。髪は茶色がかった黒で、セミロングだ。水玉模様の赤いメガネをかけている。普通に可愛い。
【なんでしょうか? 私、いまちょっと考え事をしてるので、できれば手短におねがいしますね】
考え事? まさか……。風舞の直感は告げていた。この人も参加者だと。
『わかった。実はな――』
話し終えると、彼女はホッとしたような顔をしていた。
【そうですか。じゃあ話は早いです。私をグループに入れてはもらえないでしょうか? ちょうどその事について考えていたところだったんです……】
ということで、断る理由もないので三人目としてグループに入ってもらった。何というか、とても運が良すぎて逆に怖かった。うまく進みすぎているのだ。とりあえず、これでメンバーは三人になった。大きな前進と言っていいだろう。と、ここで鉄矢が
『そういえば、自己紹介がまだだったね。俺の名前は水守鉄矢。んでこっちが……』
え……。いきなり振られた。話さないわけにもいかなかったので、顔を赤くしながら、とりあえず自己紹介をした。
「ぼ、僕は闇野風舞って……いいます。えっと……よろしく」
すると彼女は、僕の顔をみてクスクス笑った。恥ずかしかった。
【じゃあ私も。私の名前は水鳥川火鎌といいます。これから一緒に頑張っていきましょうね?】
こうして、自己紹介を終えた三人は、とりあえず今後について話した。そこで、まず今日中にやることをいくつか決めた
一、昼放課に、学校の中にほかの参加者がいないか確認をとる。
二、見つかったら、グループに勧誘する。
三、見つからなかったら、放課後に街で参加者探し。
『とりあえずはこんな感じでいいか? 風舞』
「うん。いいと思うよ。えーっと、水鳥川さんは?(あれ? 意外と緊張しない。なんでだろう……)」
【火鎌でいいですよ? ええ。いいと思います。この作戦でいってみましょうか】
こんな感じで朝の時間はあっという間に過ぎ去っていった。とても充実した話が出来て、何だか自信がみなぎってきた。この三人ないしは、もう一人増えれば四人。このグループだったらなんでもできる気がする。そんな気がした。
そして昼休み。一つ目のミッションを開始するべく、さっそく集合。それから、三人ともバラバラになって学校中を聞いて回った。しかし収穫はゼロ。そりゃそうだ。むしろこの学校に三人もいたことが、奇跡に近いと言っても過言ではないだろう。こんな状況なので、二つ目はパス。そのまま三つ目のミッションに移行することにした。
放課後。正門の前で三人は考え込んでいた。どうやったら、街の人々の中から参加者を見つけ出すことが可能なのか。方法はいくつか提案があったが、チラシなどを作ったりする時間はとてももったいないと判断。結局、それっぽい人に声をかけることにした。
それから約二時間ほど経過。辺りは暗くなり始めたが、探さないわけにもいかないのでそのまま人探しを続行。いままでは学校帰りの学生を中心に声をかけていたが、この時間になると大人の姿がほとんどだ。このままでは、人数不足で今後が危うくなりそうだ。そのため
「よし。大人にも聞いてみよう。もうそれしかないと思う……」
風舞がそういうと、続いて
「そうだな。人数不足だけは避けておきたいからな。」
と、鉄矢が言い
「そうね。参加者はなにも学生だけとは決まってないものね。それに、大人が居てくれれば移動するときとか、知識が必要なときに頼れそうね」
と、火鎌が言った。
なので、ターゲットを学生から大人に変更した。声をかけるのが一気に難しくなった。学生相手ならまだ話しやすかったのだが、大人相手だとそうもいかないだろう。なので、今回ばかりは聞く相手を慎重に選ぶことにした。と、その時だった。風舞はまたも直感を感じた。今日の朝、火鎌に話しかけようとした時と同じ感覚。それと同時に、目の前を二十代前半くらいと思われる女性が通り過ぎた。手には見覚えのある封筒とメッセージカード。風舞は駆け寄った。
「あの……すみませんが、あなたはミッションの参加者ではありませんか?」
と、単刀直入に聞くと
「あら? もしかして……。私ってすごいラッキーかも? 私もちょうど参加者を探してたところだったのよ。えーっと、後ろにいる二人もお仲間さんかな? てことは……。わたしを入れて四人じゃない! どう? わたしを仲間に入れてくれたりしないかな?」
「「「はい! 喜んで!!」」」
即決だった。ここで断ったとして、次がいつ見つかるのかわかったものではない。というわけで、こうして無事四人グループをつくれた風舞たちは、恒例の自己紹介をすることにした。
「はじめまして。私の名前は光翼雷華です。歳は二十一歳で、音楽教室の先生をしています。年の差関係なしに気軽に話してくれると助かるわ。よろしくね!」
「よろしくおねがいします!」
「よろしくな!」
「お姉さんね……やたっ!」
何とかグループを作ることができた。そう考えただけで疲労感が押し寄せてきたので、四人で連絡先を教え合ってその日は解散した。
それにしても、今日一日でいろんなことがあったものだ。初日だけでも疲労感半端ないっていうのに、今後はどれだけの動きをしなければならないのだろうか。というより、このミッションとやらはいつまで続くのだろうか。そこさえも謎なので、今はひたすら指示されたことをこなす事だけを考えることにした。そのままじっとしているうちに眠気に襲われ、そのまま眠りについた。
五月二十日 午前六時
今日は土曜日なので、学校は休み。珍しく早起きした風舞はとりあえず顔を洗って、早めの朝食。ここまでを二十分程度で済ませて自室に戻る。今日のミッションが届くまであと四十分弱。さてどうするか……。ここで風舞はひらめく。「一万人しか参加してないとはいえ、ネットに情報が全く載っていないなんてことはないはず。誰かしらが「情報求む」だとか「なんか選ばれた……」などの情報を書き込んでていてもおかしくはない……」
早速、風舞は情報集めをはじめた。だが、始まってから二日程度しか経ってないこともあって、情報はごく限られたものしか得ることができなかった。
一、日本全国に参加者がいるのは確かだが、北海道と沖縄は含まれないらしいということ。
二、年齢層は、中学生から三十代前半くらい。
三、参加者の年齢分布は、おおまかに十歳代が五割、二十歳代が三割、三十歳代が二割。
以上の情報を得ることができた。たった二日だけでこれほどの情報量なら、むしろ高収穫だろう。
気づけば午前七時をすこし回っていた。早速ポストを確認すると……入っていた。今日はどのような内容なのだろうか。
「選ばれし一万人の諸君、おはよう。初日のミッションはどうだったかな? ほとんどの者は四人グループを組んだようだが、中には自ら進んで一人を選んだ者もいるようだな。まぁそれはさておいて、今日のミッションを指示する。
『本日、午前八時から午後八時までの間、日本全国のどこかにある「封筒」を探し出し、それを獲得せよ』以上だ。
ここからのミッションは、とても重要なミッションになる。この封筒には、今行っている第一ステージから第二ステージに移行する際に必要となる暗号が書かれた紙が入っている。その暗号を十個集めて、当局が決めたグループリーダーの封筒に同封してあるタブレット端末から入力してくれればいい。
ここで注意事項。一日に獲得できる封筒の数は一個まで。つまり、最低でも十日かけてこのミッションをクリアしてもらうことになる。第二ステージに移行できるのは先着千組まで。脱落したものは、今回のミッション計画に関しての記憶の一切を消去した後、日常生活に復帰してもらう。
なお、今現在の時刻をもって《 能力 》の使用を許可する。使用方法は人によってそれぞれ異なるので、あえて明記はしない。
説明は以上。諸君の健闘を祈る」
能力……? なんのことだろう。よくわからないが、自分の封筒にタブレットが入っていたということは、僕がリーダーに選ばれたらしい。とりあえずみんなに報告しておく事にした。
同日 午前七時四五分
ラッキーなことに、四人の家はそう離れていなかったらしく、一番離れている距離でも徒歩で二十分程度で行ける距離だったらしい。鉄矢と火鎌は徒歩、雷華さんは自転車で僕の家の前に現れた。どうやらこれからの集合場所は僕の家になったようだ。特になにかがあるわけではないけど、リーダーのところに集まるのが当然だろう。だから気にしない。
ということで、ミッションまで十五分。能力に関してはよくわからなかったが、とりあえず封筒を探して見つければいいのだろう。何というか……簡単なんじゃないか? のちに風舞は、この考えがとても甘かったことを思い知らされることになる。
そして午前八時になった。風舞たちは封筒がありそうなところを探した。それから一時間ほど経った頃、ようやく封筒を見つけ出すことができた。だが、前からも何か目線が……。と思ったその瞬間、何か銃弾のようなものが飛んできた。訳が分からなかったがとりあえず回避し、相手の状態を確認する。
男が三人に、女が一人。しかも見た感じ全員が中学生と思われた。この状況で考えられることは一つ……。それは……
「みんな! よくわからないけど、戦闘に備えるんだ!!」
相手はさっき間違いなく《 能力 》を使ったはずだ。ということは、相手の使用方法が分かれば何かのヒントになるかもしれない……。ここは無茶をせずにいく。
「ここは一旦様子を見よう。封筒は気にしなくてもいいから、とにかく相手の動きを確認しながらひたすら避け続けるんだ。作戦開始!」
ほか三人はそれぞれ頷くと戦闘態勢に入った。続いて風舞も戦闘に加わり、まずは相手の攻撃方法を確認する。男の子二人は紙に何かを書いて、それで紙ヒコーキを作成していた。もう一人の男の子は、前に手を突き出しながら何かを口ずさんでいる。何を言っているのかまでは確認できなかったが、恐らく何らかの魔術を詠唱しているのだろう。と思っているうちに、彼の手から銃弾が五発生成された。彼が手を振ると、その銃弾は風舞に向かって飛んできた。
「五発も同時に飛ばすなんて……。いくらなんでも卑怯だぞ!」
そう思いつつも、とにかく避ける。五発とも避け切ったのを確認した後、続いて女の子に意識を集中する。どうやらさっき男の子二人が作っていた紙ヒコーキが武器らしい。それを手に持って、紙ヒコーキに手をかざしてからそれを前方に向かって投げる。ある程度飛んだところでヒコーキが発光した。すると次の瞬間、それは炎の矢に形を変えて一直線に鉄矢のところに飛んでいった。しかも運の悪いことに鉄矢は避けようとした際に、つまずいて転んでしまった。まずい! しかし助けるにはみんなの居場所からでは間に合わない。そしてついに鉄矢に直撃した。周りは砂煙に覆われてしまい、鉄矢の姿が確認できない。
「鉄矢! 大丈夫か!?」
「鉄矢くん!」
「やられてしまったの……?」
やがて砂煙が収まってきた。このとき風舞は頭の中で、鉄矢がそこに倒れている姿を想像していた。確実に当たる瞬間をこの目で確認していたから……。しかし目の前では、想像していた事とは違うことが起こっていた。
なんと鉄矢は無傷だった。かすり傷一つさえ負っていなかったのだ。鉄矢の無事を確認した風舞は次の指示を出す。
「全員撤退。速やかにこの場から離れるんだ!」
見つけた封筒を諦めて、四人で一斉に走って逃走した。相手は封筒が欲しかったから攻撃をしてきたのであって、僕たちを倒すためではないはずだ。よって、その場から離れれば追ってくることはないだろう。なので、相手が見えなくなってからは歩いて移動した。近くにベンチを発見したのでそこに腰かけた。休憩ついでに作戦会議をひらくことに。
「まず最初に……ごめん。僕がなんの計画もなしに、ただ見つけて回収するだけだと甘く考えていたせいで……本当にごめん」
「まぁそう落ち込むなって。俺も何とか無事だったんだし、何も失っちゃいないだろ? だから気にすることはねぇって」
「そうですよ? 私たち全員の意識が甘かったんですから、風舞くんが一人で責任を感じる必要はないんですよ? しっかりしてください。リーダーなんですから!」
「そうよ。それよりも一刻も早く《 能力 》について考えたほうがいいわ。少なくとも今日のうちは、能力の発動方法を見つけ出して、きちんと使えるように練習する日にしたほうがいいと思うの。そうは思わない?」
「そうですね。じゃあ気を取り直して……。さっきの戦闘から感じたことを一人ずつ言っていこう。じゃあまずは鉄矢から」
「うっす。うーんとなぁ、さっき攻撃を受けた時のことなんだけどよ……避けられないと思って咄嗟に防御姿勢をしたんだよ。前に手をクロスさせる感じな。そしたら目の前に、水みたいな物質でできたシールドが現れて、防いでくれたんだよ。んじゃ次どうぞー」
「次は私ね。私からは紙ヒコーキについて説明するね。特に注目したのは、投げていた女の子じゃなくて……後ろにいた男の子二人。前に出て術を使っていた二人に対して、あの二人は少なくとも術を使っていなかった。もしかしたら使えなかったのかもしれないね。だって、女の子が一回に投げていたのは一個。ということは作るのにわざわざ二人でなくても、一人で事足りるはずでしょ? ということは、能力は必ずしも使えるとは限らないってことにはならないかしら? 私からは以上です」
「次は私でいいわね? えっと、私からは攻撃の種類について説明させてもらうわ。見ていてみんなも何となくわかったとは思うのだけれど、今回の相手には攻撃方法が二種類あったわ。一つ目は術式から物体を生成して攻撃する方法。二つ目は元ある物体に術式で力を与えて攻撃する方法。二つ目に関してだけど……物体自体に力を与える際にどのような形に変えるかは、文字を書いて決めていたような気がするわ。あくまで予想に過ぎないんだけどね……。私からは以上よ」
「みんなありがとう。とりあえずみんなの意見をまとめると……能力は使える人と使えない人がいる可能性があり、攻撃方法は様々で初見での対処は難しい。そして鉄矢の説明。なぜ鉄矢は水でシールドを張ることができたのか……。鉄矢の説明を元に、能力の発動方法を考えたほうが良さそうだね。では今からの行動だけど、まず一回僕の家に戻ろう。それから能力の発動方法の研究。発動できた人からきちんとコントロール出来るようになるまで練習する。こんな感じで進めていこう。では、移動開始!」
それから三十分ほどで家に到着。さっそく能力の研究に取り掛かった。まずはみんなで話し合って、なぜ鉄矢が《水のシールド》を発動することができたのかを調べてみた。みんなで相談したところ、技の発動時において使用できる種類・属性・武器は「名前」でステータスが決まっているのでは? という結論に至った。鉄矢の場合、水守鉄矢で名前に「水」が含まれるので、この場合属性は「水」になり、ついでに言えば「矢」も含まれているので、この場合武器は「矢」になり、恐らく水属性の矢で攻撃する事が可能だろう。
この研究結果を元に、各自で練習を開始した。最初に技を発動させたのは鉄矢だった。鉄矢が言うには「体の動作」と「発声」が主な発動方法らしい。他の三人もこのヒントを参考に、着実に能力を自分の物にしていった……。
現在時刻は午後三時。ある程度戦闘ができるところまで能力のコントロールが出来るようになったと判断。三十分の休憩の後、新たな封筒を見つけ出すために四人は動き始めた。しかし封筒が中々見つからない。やっと見つけた時にはすでに午後五時を回っていた……。そして今回もそう簡単には取らせてくれなさそうだ。前から三人……。全員女だったが歳は恐らく僕たちと同い年くらいだろう。
「みんな、戦闘配置に付いて! さっき説明したとおり最初は相手を見極めて、それに対応しながら攻めていくんだ!」
「うっす!」
「了解です!」
「了解したわ!」
さぁ……かかってこい!
相手はさっそく攻撃を開始。まずは一番前にいた女の子が一歩前に出て何かを発声。すると、背中から真っ白な翼が生えた。そして空に飛び、そのままホバリング状態で待機。
「なぜ攻撃してこないんだ……?」
その答えはすぐに返ってきた。後ろにいたもうひとりの女の子が術式を唱えると、木でできた球体が彼女の両手に一個ずつ出現。彼女はそれを上に向かって投げた。ってまさか……! そのまさかだった。上に待機していた女の子が、それを思いっきり僕たちに向かって蹴りつけた。僕たちはそれを普通に避けようとしたのだが……。
そこで思いもよらない出来事が起こった。一番後ろにいた女の子が、球体を見つめながら何かを《発声》したと思ったその瞬間……球体が肥大化した。避けるなんて不可能な程に大きくなった。
また僕たちは……負けちゃうのかな……。その時だった。
「お前ら全員、俺が助けてやるからな……!」
鉄矢だった。何かを考えながら球体をじっと見つめている……。そして
「――我に守護の力を! 《水流之楯》(カレントシールド)」
それはさっき戦った時に使ったやつ……。でもそれで守りきれるのか? と思った次の瞬間……シールドがみるみる大きくなっていく。最終的には四人全員を守って、なお余りある大きさになっていた。まるで「水でできた巨大なカーテン」のような形をしていた。
まもなくして、シールドに球体が接触……カレントシールドは破れることなく守り続ける。しかし、これでは押し切られるのも時間の問題である。どうすれば……って何言ってんだ! 自分が動けばいいだけじゃないか。さぁ行くぞ!
「闇野風舞……行きます!」
と、それに続いて
「あたしも行くわ。水鳥川火鎌……行きます!」
「私にだって……。光翼雷華……行きます!」
まずは……
「雷華さん。相手の注意を逸らしてもらえますか?」
「分かったわ! 任せてちょうだい。――我に光の力を与えたまえ……! 《目潰之光》(ブラインドライト)」
すると相手は、あまりの光の強さに目を瞑った。今がチャンスか……行くぞ!
「――我に闇の力を与えたまえ……!《束縛之影》(レストレインシャドウ)」
これで相手の動きを封じることができた。あとは二人に任せるとしよう……。
「火鎌。キミは下の二人を倒してくれるかい?」
「分かったわ!」
「雷華。キミは上で飛んでいる一人を倒してくれるかい?」
「やっとタメで呼んでくれた……。了解したわ!」
こうして僕たちは、二戦目にして初めて勝利することができた。そのあと、僕の家に戻るまではみんなほぼ無言だった。家に着いてから、封筒の中身を確認してみると「よ」とだけ書かれていた。
「これが暗号なのかな? よくわからないけど、とりあえず十個集めれば分かることだよね。うん。では今日はこれにて解散! また何かあったらメールか電話で連絡よろしくね」
「りょーかい」
「了解です!」
「了解したわ!」
みんなを見送って家に入ると、例のごとく疲れが押し寄せてきた。
「勝った……んだ……うぅ」
そのままベッドに横たわると、風舞は深い眠りに包まれた……。
五月二十一日 午前七時半
「うぅ……。電話……? ってうわっ! すっかり寝過ごした!!」
そう。風舞はこの日……寝坊した。とりあえず電話に出てからの謝罪。
「ごめん鉄矢。寝坊してしまったよ……」
「んなことだと思ったから電話したんだ! 十分前にはそっちに集合するから、さっさと支度しろよ? じゃあな」
まずは朝ごはんを食べ、顔を洗い、服を着替えて外に出た。すでに外には三人が待機していた。
「おっす」
「遅いよ? 風舞くん。もしかして疲れが残ってる? 大丈夫?」
「あらあら。寝坊だなんて……風舞くんってば可愛い!」
昨日から重大ミッションが開始されているため、今日は手紙が届いていない。代わりにタブレット端末の方に連絡が来ていた。
「手短に連絡事項を伝える。昨日から始まっているミッションは最大で十五日間行われる。なお、この大規模ミッションが完了するまでの間は、当局からは一切の連絡を行わない。同時に、質問等も一切受け付けない。ただ、当局は現在『第二ステージ開催に向けての準備』を行っているとだけ伝えておこう……。以上だ。諸君の健闘を祈る」
準備? 何か大掛かりなことでもやるのだろうか……。いや、それよりも今後の活動方針を話し合うほうが大事だ。今はとにかく毎日封筒を集めることだけを考えよう……。それに、僕が寝坊をしてしまったせいでもう開始時刻になってしまっている。半日あるとはいえ、時間には余裕を持っておくに越したことはない。早速僕たちは封筒を探し始めた……。
「そういえばさぁ……休日はこうしてみんなで活動しているけど、平日ってどういう風に活動していく? たとえ許可証があったとしても、毎日行かないのはどうかと思うんだよ。僕からの意見なんだけどさ、交代制にするのはどうかな? 高校生組から二人出動して、一人は学校に残って授業内容を記録して、あとで情報の交換を行う。そこで無理を承知でお願いしたいんですけど……雷華さんはなるべく来てほしいのです。つまりは監督になって欲しいんです! お願いできませんか?」
「ええ。喜んで! 監督らしい態度を取れるかは分からないですけど、最年長として頑張りますわ」
気になっていたのだ。休日はさっき言ったとおり全員で活動ができるだろう。しかし、平日は違う。学校や会社はいつもと変わらない動きをしているので、行かなければならないだろう。もちろん休むためには特別許可証を見せればそれで済むことだが、学校なら勉強内容だとか、会社なら人付き合い。こういったものは特別許可証ではどうしようもないものだ……。
それにこのような動きをしているのは「選ばれた一万人」だけである。それ以外の普通の人たちからすれば、僕たちは言わば《異常者》になるのかもしれない。「こいつら夢でも見てるんじゃねーの?」とか「遊んでないで仕事しろよなー……」とか思われてるんだろうなぁって思うだけでも僕は怖い。昔はそのような事柄に怯えながら生活を送っていたから。だから僕は交代制案を出したのであった……。
こんなことを考えながらぼぉーっと歩いていると、横から視線を感じたのでとりあえずそちらの方向を向く。火鎌だった。
「風舞くんってば珍しく考え事してたの? まぁそれは置いといて……一緒に頑張ろうね?」
いきなりこんなことを言われた。しかも火鎌の顔を覗いてみると……照れていた。僕はどちらかというと敏感な方なのですぐにわかった。どうやら火鎌は僕に好意を寄せているみたいだ。まぁ勘違いの可能性も十分にあるので、ここではあまり触れないことにした。ってあれ? 何か僕じゃないみたいだ……。今までなら女の子に見られるだけでも恥ずかしかったのに、さっき僕は「相手が好意を寄せている」などという言葉を平気で言ってのけた。何故だ……? 僕の心にまた一つの疑問が追加されたのであった。
それから一時間後、封筒を発見。またしても敵に遭遇してしまう。
「全員、戦闘準備! いつも通りの戦法で行くぞ!」
うーん……こうして戦うことにも慣れてきたけど、よく考えればこの状況はなんか変だ。こんなに何回も必ず敵がいるなんてことがあるだろうか……? ましてや参加者はたったの一万人なのであって、この周辺のエリアにはいてもせいぜい百人くらいではないだろうか。それに僕たちが封筒を見つけたタイミングとほぼ同時に相手も出てきたし、今考えてみれば、今までの敵全員が他の仲間と「会話」しているところも一切見なかった。僕たちは何か大事なことを知らないのかもしれない……。
「みんな! ちょっと確かめたいことがあるからそのまま待機していてくれ」
風舞は一歩前に進み出て、確認のために声をかける。
「君たち、名前はなんていうんだい?」
「……?」
やはり反応がない。これはもしかすると……。
「みんなには悪いけど、ここは一回撤退しようと思う。理由は後で説明するからとりあえず僕の言う通りにしてくれるかな」
「あぁ……。どうかしたのか?」
「あれ? 戦わないのですか?」
「――何か考えがあるのね? 分かったわ」
三人とも不思議そうな顔をしていた。無理もないだろう。相手はまだ動いていなくてこっちも一切動いていないのに撤退なんて、普通に考えたらおかしな行動だ。でも今すぐにこの事に関してはみんなと話し合いをしておきたかった。なぜなら、僕たちがこのミッションが始まってからずっと思っていたであろうことが「勘違い」である可能性があるかもしれないからだ。僕の考えがもし正しいものであるなら――《参加者一万人の中に敵は居ない》ということになる……。
撤退した僕たちは近くのベンチに腰を掛ける。みんなが落ち着いたことを確認してから話を始める。
「じゃあさっそく僕の考えをみんなに話したいと思う。これはあくまで僕自身の考えなんだけど……」
先ほどの考えを一通り説明し、最後に結論を述べた。
「つまり僕が言いたいことは――この企画の本当の目的は、参加者同士の生き残りをかけた戦いなんかじゃなくて《謎の組織が何らかの目的のために参加者の力を試す》って事なんじゃないかな? 組織の目的までは検討もつかないけど、少なくとも今さっき出会った敵は組織の人間なんじゃないかなって思ったんだけど……。考え過ぎかな?」
これを聞いた三人はそのまま黙り込んでしまった。数分後、最初に口を開いたのは雷華だった。
「風舞くんの話、一応筋は通ってるけど……なんていうか信じがたいわね。でも風舞くんが説明してくれると何だか現実味があるのよ。本当なのかしら……」
そこに鉄矢が続く。
「確かに俺たちはこのミッションに強制的に参加させられているし、今まで戦ってきた敵とも会話を一切していない。マジなのかよ……」
そして最後に火鎌が話す。
「風舞くんの言っていることが真実だったとするなら、今行なっている第一ステージっていうのは《参加者一万人の中から優れた人物だけを選び出すための「選別ステージ」》ってとこかな。なんていうか……すごくムカつくわ。だって、それだと私たちは組織の目的を達成するために利用されてるってことでしょ? そんなの嫌よ」
そう。火鎌が言った事こそが参加者の大きな「勘違い」なのだ。
参加者の多くは「一万人の参加者がミッションを行っていて、先着千組が第二ステージにすすめる」という情報を「各ステージをクリアしていけばいい事がある」という考えに変換しているはずだ。しかしそれは大きな勘違いで、本当は「各ステージをクリアしていけばしていくほど組織の思惑が達成へと近づいていく」ということなのだ。組織の思惑がどんなことなのかまでは分かるはずもないが、風舞の直感はこう告げていた。――止めなければいけないと……。
ミッション・オンリーライフの世界観。少しでも感じていただけたでしょうか?第一章が半分までしか載っていません。ごめんなさいm(_ _)m 今後はなるべく早く書いて続きを載せる予定です。←作者の都合により、一時「完結済み」とさせていただいています。出せそうであれば、新たに2章を出す予定です。。