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一つの命を生むということは、こんなにも難しいことなのか、と清司は痛感した。

先の見えない道は、思っていたよりも険しかった。

不安でいっぱいになりながら、清司も美代も日々を過ごした。

もし自分たちの体の状態がよくなかったら、大切な我が子は悲しい運命を背負って生まれてしまうかもしれない。

病院だって選ばなくてはいけないのだ。いま自分たちがほしいものは、ちょっとやそっとで手に入れることはできないのだ。

「元気な子どもを産めるかな……」

美代は何度も震えた声でいった。

「大丈夫だよ。そうやって落ち込んでばかりいたら、いつまで経っても子どもは授からないよ」

励ますと、そうだよね、といって美代は笑った。


険しい道を歩いていたある日のこと、突然二人の前に、光が差し込んできた。

病院から帰ってきた美代が、太陽のように明るい顔だったのだ。

「清司くん、やっとよ」

「やっと?」

始めは何のことだろうと思っていたが、だんだん意味がわかってきた。

「もしかして……」

清司がいいかけると、美代は頷いた。

「おめでたですねっていわれたよ」

清司は思わず飛び上がった。奇跡が起きたと思った。

「やったね!美代さん!」

「よかった!本当によかった!」

二人で手を繋ぎ、笑いながら踊った。しかしすぐに美代は「あっ」といい、椅子に座った。

「お腹に赤ちゃんがいるから、体動かしちゃだめなんだ」

そして、まだ膨れていない腹を優しくさすった。

「大好きな人と、可愛い赤ちゃんを作って、大切に育てるの。すごく素敵でしょう。ずっと願ってた。やっと夢が叶った」

「よかった」

清司は美代を抱きしめた。愛する美代に、ようやくお返しができたと思った。


しかし、まだゴールではなかった。

むしろ、ここからスタートなのだ。これからこの大切な命を育てていくには、どうすればいいのか。

美代は育児の本をどっさり買い、読み漁った。同じように、清司も全ての本を熟読した。こんなに本を読んだのは初めてかもしれない。

また、二人で名前を考えたりした。男の子だったらかっこいい名前、女の子は可愛い名前、といろいろな案を出し合った。

二人で頑張って作り上げた宝物を手にするのはいつなのだろう、とわくわくしていた。

美代の腹は徐々に大きくなっていく。体調が悪くなる時もあったが、美代はいつも笑顔でいた。

しかし、その笑顔はある日突然消え去った。


いつもの病院に行くと、医師が衝撃の一言を投げかけてきた。子どもの心臓が動いていないというのだ。

「お腹の中で、子どもが死んでるってことですか?」

医師は残念そうに頷いた。それを見て、清司も美代も愕然とした。

「嘘だよ。子どもが死んでるなんて。嘘だよ」

何度も美代はいった。清司も、医師がでたらめなことをいっていると思っていた。しかしそれは本当のことだった。

美代は泣き続けた。ようやく子どもが授かったというのに、流産してしまったのだ。期待で胸がいっぱいだったのに、こんな不運が我が子に起こるとは夢にも思わなかった。

泣いている美代を見て、清司はやりきれない思いだった。子どもができないんだったら、始めからやめておけばよかった。そうすれば、美代の心が傷つくことはなかったのだ。

やはり自分は不幸な人生を歩まなくてはいけないのか。だとしたら、不幸になるのは自分だけでいい。美代や他の人間を巻き添えにしたくなかった。また清司は後悔した。後悔してばかりだ。





悲しみに暮れて数ヶ月経った。美代は、涙を流すことはなくなったが、笑わなくなってしまった。せっかく手に入れた夢が、粉々に砕け散ったのだから当然だ。口数も減り、無表情でぼんやりとしていた。

清司は美代が元に戻るように祈った。

「美代さん、もう一度、子どもを作ってみよう」

元気付けるためにいってみたが、美代は感情の篭らない声で答えた。

「無理だよ。私は、母親になれない女なんだから」

「そんなことないよ。ほら、前みたいに笑ってよ」

しかし美代は変わらなかった。どんなに繰り返し話しかけても、効果はなかった。

「何が、お返しだよ」

清司は自分のことが憎らしくて仕方がなかった。お返しをするどころか、美代を傷つけてしまった。西口家は何もいってこなかったが、きっと自分を恨んでいるに違いない。


清司にできることは、昔、美代がしてくれたように話を聞いて、癒してあげることだけだった。美代の笑顔を取り戻す。それしかできなかった。










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