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結婚式は盛大に行われた。
西口家の人々はもちろん、美代の学校の教師や、友人なども満面の笑みで祝ってくれた。
隣にいる、純白のドレスを纏った美代を見ると、清司の心の中は熱くなった。これ程の幸せを、清司は感じたことは一度もなかった。何度も夢ではないかと思った。
「清司さんも、美代も、幸せになってね」
美代の母が泣きながらいってくれた。美代も嬉し泣きで涙を流していた。
それを見て、清司も泣いてしまった。目の前が、きらきらと輝いた。
目を拭きながら、清司はあることを思っていた。
栄一の、「泣いたら負け」という言葉だ。
栄一は何度も「泣いたら負けだ」といっていた。
泣いたから、清司は殻の中を歩くことになってしまった。
だが、泣いていても幸せはこうしてやってきた。
「泣いたら負け」は、間違いなのだ。
栄一に、このことを教えてやりたかった。
泣いていても、必ず幸せはやってくる。勝ちも負けも、関係ないのだ。
人間は、皆平等。幸せだけの人間はいないし、不幸だけの人間もいない。
神様はきちんと見ているのだ。清司の不幸は、ここで終わったのだ。
「私、清司さんと会えて、本当によかった」
にっこりと笑い、美代が話しかけてきた。
「僕もだよ。僕も、美代さんにたくさん助けられた」
また涙が溢れてきた。それを、美代がそっと拭った。
「私たち、幸せになろうね。ずっとずっと、幸せに生きていこうね」
「うん」
清司は美代を力強く抱きしめた。美代も清司の胸にうずくまった。
素晴らしい結婚式だったが、少し寂しいと感じる時があった。
美代が家族に囲まれているのを見ると、死んでしまった父や母や叔母の姿が頭に浮かんだ。
もしこの結婚式を見たら……。
三人は、どういう言葉を自分にいってくれたか。
きっと叔母は泣くだろう。母も泣くかもしれない。父もすごく喜んでくれただろう。
しかし、三人はもうこの世にいない。目の前に現れてくれることは、絶対にない。
この晴れやかな日を、三人と過ごしたかった。一緒に幸せになりたかった。
何となく惨めな思いになった。だがもう死んでしまったのだから仕方がないのだ。
そして、栄一の姿も浮かんだ。
栄一は、清司が殻の中で歩いていた時に、麻由美とそっくりの女性と結婚していた。
栄一も家族がいない。やはり寂しいと思ったのだろうか。
強い栄一のことだから、もう過去など忘れてしまって、明るい未来のことしか考えなかったのかもしれない。それは、清司にはできないことだ。
栄一の妻となった女性も思い出した。あんなに美しい女性をどうやって見つけたのか。
清司は、まだあの女性を自分のものにできなかったことを悔やんでいた。美代という、相性抜群の女性が目の前に現れたが、本当はあの美しい女性と結婚をしたかった。
もちろん、こんなことを美代にいえるわけがない。もう無理なことなのだと自分に強くいい聞かせ、美代を見つめた。
自分に合っているのは、美代なのだ。美代という素晴らしい女性が、すぐ側にいるではないか。そう思うことにした。
できる限り栄一たちのことは考えないようにした。もう自分はあの二人となんの関係もないのだ。他人のことなど、いちいち気にするのはやめようと決めた。




