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美代との生活を始めて、清司はあることに気が付いた。

胸の中に、不思議な、言葉では表現できない気持ちがぼんやりと浮かんでいるのだ。

清司自身も何なのかわからない。でも、不思議な気持ちがあることは確実だ。そしてそれはだんだん大きくなっていくのだ。

しばらくして、それが美代への愛情だということを知った。美代を見ると、その気持ちは熱くなっていくからだ。美代にじっと見つめられたり、話しかけられたりすると、のぼせたように汗が噴出してくる。

僕は美代さんに惚れている……

毎日そのことばかり考えていた。


美代が好きだということを、本人にいってしまってもいいのだろうか。

清司には恋する相手でも、美代はどう想っているのか。

もしかしたら、ただのクライアントとしか見ていないかもしれない。

変に告白をして、ぎくしゃくした関係になってしまったら最悪だ。絶対に避けなければいけない。


美代がキッチンでいつものように料理をしているのを、清司はじっと見つめていた。

無意識にキッチンに入り、背中から美代を抱きしめた。

「わあっ」

驚いて美代は振り向いた。そして、子どもに叱る親のような顔をした。

「びっくりさせないで。危ないでしょう」

「ごめん」

すぐに清司は後ろに下がった。美代は「もうっ」といい、また料理を再開した。

しかし清司は、もっとずっと抱きしめていたかった。


さらに後日、清司は美代に「映画を観に行こう」と誘った。

「忙しいからだめだよ」

美代は困った顔で断ったが、無理矢理映画館に連れて行った。

映画は、ありきたりな、特に感動もしないラブストーリーで、男が観たいと思うような内容ではなかった。

だが清司は、まるで恋人とデートに来ているような気持ちになった。

「清司さんって、こんな映画が好きなんだ」

映画館を出ると、美代が目を丸くしていった。

清司は少し照れたように笑った。

「いや、別にそういうわけじゃなくって。どうしても美代さんと一緒に観たくって」

「私と?」

不思議そうに訊いてくる美代に、少し真剣な口調でいった。

「僕は、好きな人ができたら、こういう恋愛がしたいなあって思ってるんだ」

すると美代はどきりとした顔をした。「恋愛」という言葉に、何か気が付いたようだ。

「そうだね。ああやって、お互いに持ちつ持たれつで付き合うの、すごく素敵だよね」

そういって何かを伝えるように、清司を見つめた。


その後も、一緒に食事をしたり、喫茶店でお茶を飲んだり、特に記念日ではないけれどプレゼントを渡したりと、一気に距離を縮めていった。

周りにいる人々には、恋人同士のように見えているかもしれない。

そう思うと、清司は胸が弾んだ。

こうして一緒にいれば、いつかは美代と結ばれるのではないか。

しかしそれは夢物語だと自分にいい聞かせた。そんなことが本当に起きるわけがないとあきらめていた。世の中はそんなに甘くない。映画のような恋愛は、余程のことがない限り、できるわけがない。


夢と現実の間で過ごしていた清司に、美代が「話があるの」といってきた。

いったい何だろう、と清司は戸惑った。

何だか嫌な予感がした。

もう回復したのだから、家を出て行ってほしい。

そういわれるのだろうか。

清司は気持ちが暗くなった。

美代の部屋に入ると、清司は緊張した。

出て行かなくてはいけないのか……。

鉛のようなものが、心の中に生まれた。

「清司さん、もっとこっちに来て」

美代の声が聞こえた。次にいう言葉が何なのか、清司は怖くなった。

「美代さん、僕は、もう……」

ぼそぼそと呟くと、美代はしっかりとした口調で、話し始めた。

「あのね、清司さん。私ね、考えたんだけど」

清司は目をつぶった。もう……もう幸せはここで終わりなのか。

「清司さん、よく聞いて」

「美代さん」

耐えられず、清司は声を出した。がくがくと震えながら、訊いた。

「もう、僕は、ここから出て行かなくちゃいけない?」

すると美代は首を傾げた。そして不思議そうな目で見つめてきた。

「どうして出て行くの?誰が、出て行けなんていった?」

「だって、僕もう元気になったから……」

そういうと、美代はにっこりと笑った。

「私は、清司さんを追い出したりしないよ。一緒に幸せになりましょうっていったでしょう?」

「一緒に……?」

清司はどきりとした。まさか、それは……。

「結婚したいなって思ったの」

美代はさらりといった。動揺したり、恥ずかしがったりせず、堂々としていた。

「結婚……?」

一瞬訳がわからなくなった。いま美代は何といったのか。

「そうよ。結婚よ」

美代は少し照れたように笑い、もう一度いった。

「私、清司さんの優しいところが好き。一緒にいて、すごく楽しい。もしよかったら、結婚してくれないかな」

「ほ……本当に……」

驚いた。美代も自分と同じように、好きだと想ってくれていたのだ。奇跡としかいいようがない。

「本当よ。カウンセラーが嘘なんかつくわけないでしょう」

「でも、僕なんかと結婚だなんて」

すると、突然美代は厳しい顔になった。

「清司さん、「僕なんか」っていったらだめだよ。そうやって自分を悪者みたいにするのはだめ。それから何度もいってるけど、死にたいっていうのもだめだからね。もしいったら、追い出しちゃうから」

「ああ……。そうだった」

清司は反省し、美代と同じくはっきりと気持ちを伝えた。

「僕も、美代さんのことが好きだ。でも、もし美代さんが、僕のことをただのクライアントだって思ってたらぎくしゃくしちゃうと思っていえなかったんだ」

「そうだったの」

美代も驚いた顔をし、目を丸くした。

「じゃあ……結婚……してくれる?」

美代にもう一度いわれ、清司は頷いた。

「結婚しよう。一緒に幸せになろう」




















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