76
栄一に似た人物を探し始めて、もう何日経っただろうか。
待てども待てども、その人物は現れない。
また今日も……という虚しい思いと、痛む左足が増加していくだけだった。
清司はあきらめようかと考えていた。
ずっと待っていても現れない。そして無駄に足を痛める。そんなことを繰り返して、何か意味があるのだろうか。
さらに清司は、もし栄一だったらどうしようと迷っていた。
どういう顔で、どんな言葉を発せばいいのだろうか。
逆に栄一ではなかったら、どうして話しかけてきたのかと訊かれてしまう。もしかしたら怪しい人物として警察を呼ぶかもしれない。そんなことになったら死んだも同然だ。
怖いという気持ちが、清司の心を覆った。
足の痛みも増していく。少し歩いただけで、すぐにしゃがみこんでしまう。これ以上足を動かしたくなかった。
真っ暗闇の公園のベンチで、痛む足を抱え、清司は泣いた。止められることなどできなかった。
もうどうすることもできない。自分は独りきりなのだ。栄一にも会えない。家族は死んでしまった。帰る場所もない。金もない。
だがこうなってしまったのは、誰でもない、自分なのだ。自分がもっと成長しようと努力をして、立派な大人になれるように頑張れば、こんな目には合わなかったはずだ。
誰かが一緒にいてくれないと何もできない。昔、栄一に情けない男だといわれたが、その通りだった。
そして結局自分は栄一に負けてしまった。
清司はもう待つことをやめた。栄一のことを思い出さないと決めた。
残り少ない人生を、できるだけ楽しむことだけを考えた。
清司が、いま一番幸せを感じる場所は、あの喫茶店だった。
入り口に出されているメニューの看板を見て、小さい頃のことを思い出す。そんな日々を過ごした。
清司は、幼い頃に母に読んでもらった「マッチ売りの少女」のようだと思った。燃えかすを持ち、幸せそうな少女の顔が頭の中に浮かんだ。
そういう生活を送っていたある日のことだった。清司の頭の中から栄一という人間が消えかけていた時だ。
いつものように喫茶店に行った清司は、何となく店内の中を見た。
その瞬間、まるで雷が落ちてきたように、清司の体が震えた。
栄一がいたのだ。お茶を飲み、雑誌を読んでいた。清司は思わず口を両手で塞いだ。叫びそうになった。
本当に栄一はいたのだ。やはりあの人物は栄一だったのだ。
店の壁に隠れ、清司は栄一をじっと見つめた。
自分を知っている人物がまだいたのだ。
まだ自分は、本当に、誰とも繋がっていない人間ではなかった。
清司の目から涙が溢れてきた。どうして溢れてきたのか、清司にもわからなかった。




