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しばらくして、栄一はあさがお園が無くなってしまったことをすみれに話した。

「花公園も雑草だらけだったんだ」

そういうと、すみれは少し目を大きくした。

「え、何いってるの?無くなってないでしょ?」

栄一は驚いた。四年前、確かに栄一はあさがお園が無くなり、ゴミ捨て場に変わってしまったのを見たのだ。

わけがわからず黙っていると、すみれが独り言のように呟いた。

「ああ、そうか。もうあの時栄一くん出て行っちゃったんだっけ」

「あの時って?」

訊くと、すみれは話し始めた。

「栄一くんが出て行ったすぐ後、あさがお園、違う場所に移動したみたい。もう建物がボロボロだったでしょう?名前まで変えて、いまは「ひまわり園」じゃなかったかな」

「ひまわり園?」

「そう。あさがおの次はひまわりって、なんかもう少しいい名前付ければいいのにね」

笑いながらいうすみれの目をじっと見つめ、栄一は訊いてみた。

「施設で働いてた人たちはまだそこにいるのか?」

するとすみれは首を傾げ、「たぶんそうじゃないかな」と答えた。

「私は結婚してボランティア活動やめちゃったからよく知らないけど、おばさんたちは変わってないと思う」

その言葉で、栄一の胸の中は急に暖かくなった。

あさがお園が無くなっていることを知り、栄一はもう育った場所も無くなったのかと思った。

しかしあさがお園はまだ残っていた。建物と名前だけ変わっただけで、消えていなかったのだ。

栄一が黙っていると、突然すみれがこんなことをいい出した。

「ねえ、ちょっと行ってみない?ひまわり園」

「えっ」

驚いた栄一の顔を見つめ、すみれは立ち上がった。

「行ってみたくない?13年ぶりの養護施設。いまはどんな風になってるのか」

栄一は黙った。行きたくないと思った。あの場所でいい思い出なんて、一つもないのだ。

孤独だった時をまた思い出してしまうのが、嫌だった。

「ほら、行こう。ねえ、栄一くん」

すみれに腕をつかまれ、栄一は仕方なく連いていくことにした。


喫茶店から出ると、すみれはすたすたと歩いた。

その後ろを、栄一はとぼとぼと歩いた。

昔の自分と同じ思いで日々暮らしている子どもの顔なんて見たくないと思っていた。

30分程歩くと、周りに建物が建っていない空き地に出た。

あさがお園があったような場所だ。

その空き地の角の方に、小さな建物がぽつんと建っていた。

その建物も、あさがお園とほとんど同じようだった。

「あそこだよ」

そういって、すみれはその建物に向かって歩いていこうとした。しかし栄一はその場に立ち止まった。

「何してるの」

手を引かれたが、栄一は動こうとしなかった。

「もしかして緊張してるの?」

栄一の足が前に進まないのは、緊張しているのではなかった。

何だか嫌な予感がしてたまらないのだ。

行ってはいけない、と頭のどこかで誰かが警告していた。

「栄一くん」

すみれに呼ばれ、栄一は頭を横に振った。

「行きたくない」

「どうして?」

「わからないけど、何か行きたくないんだ」

自分でもわからない。なぜか、行ってはいけない気がするのだ。

「じゃあ、私だけ先に行ってる。気持ちが落ち着いたら、施設に来てね」

そういい、すみれは一人でひまわり園に行った。


すみれの後ろ姿を見つめ、栄一は立ち尽くしていた。

あの時と同じだ、と思った。

愛子が何かをいおうとした、最後の夜だ。

栄一は愛子の言葉を聞かず、逃げてしまった。

あれからもう何年も経つが、未だに後悔している。

また今回も後悔する気がした。


行かなくちゃいけない。

行かないと、また後悔する。


栄一は足を前に出した。











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