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清司はため息を吐いた。これで何度目だろうか。
麻由美とのお茶会の後、清司は毎日後悔のため息を吐いていた。
やはり、麻由美に栄一のことを話さなければよかった、と悔やんだ。
どうして話してしまったのか。
栄一に会いたい、と泣いた麻由美の顔が、トゲのように胸にささっていた。
完全に麻由美の心は栄一の方に向いてしまった。
しかしもうもとに戻せない。
栄一と麻由美が、二人きりで立っているのを想像すると、全身から冷や汗が噴出した。
また麻由美が自分を愛してくれるには、何が必要か。
どうすれば、麻由美ともっと仲良くできるだろうか。
清司は何度も考えた。
そんな日々を過ごしていた清司の前に、ある好機がやってきた。
何気なく机の中を掃除していた時に、すっかり忘れていたものを見つけたのだ。
雪男にもらった、鳥居家の三つの鍵だ。
それを見た瞬間、清司の頭の中で、危険な作戦が生まれた。
そして、むくむくと膨れ上がった。
「そうだ。これがあったんだ」
にやりと笑いながら、清司は独り言をいった。
どうして気が付かなかったのだろう。
別にお茶会のお誘いを待たなくても、清司は麻由美に会えることができたのだ。
「これを使えば、麻由美ちゃんに毎日会える」
清司は三つの鍵を強く握り締めると、さっそく決行の日を考え始めた。
夜遅く、家族が全員眠ったのを確認して、清司は自宅から外に出た。
いつものように、美しい麻由美がいる城に向かって歩いた。
別におかしいことをするわけじゃない。
ただ眠っている麻由美を驚かせてやろう、そして二人で笑って少しおしゃべりをして家に帰る。
麻由美も自分に会いたがっているはずだ、と清司は信じていた。
門を開け屋敷に忍び込み、真っ暗な廊下を歩いた。
何とか麻由美の部屋にたどり着くと、栄一の悔しがる顔を想像した。
中には、眠っている麻由美がいるはずだ。
そうだ、キスをして起こしてあげようかな……。
うきうきしながら、清司はドアを開けた。
もう麻由美は自分のものだと思っていた。
しかし部屋の中に麻由美はいなかった。
清司はあわてた。予想外の出来事だった。冷や汗が滝のように流れた。
どうしよう……
このまま家に帰ろうか。
あせったが、すぐに「どこかに隠れて、部屋に入ってきた麻由美を驚かそう」という考えを思い付いた。
清司は隠れられそうな場所を探した。清司の太った体を完全に隠せるところはどこだろう。
しばらく広い部屋の中を歩いてから、クローゼットの中に隠れることにした。
清司は体操座りをして、麻由美が帰ってくるのを待った。
早く帰ってこないかな、とうきうきしていた。
……しかし、いつまで経っても麻由美は部屋に戻ってこない。二時間経っても三時間経っても、気配すら感じないのだ。
清司はまたあせった。もう空が明るくなり始めている。早く家に帰らなければ、家族にどこへ行っていたのか訊かれてしまう。
仕方なく、清司はクローゼットから出た。
冷や汗で服はぐっしょりと濡れていた。
袖で額の汗を拭い、清司はズボンのポケットに手を入れた。
清司はぎくりとした。ポケットに入れておいたはずの鍵が無くなっているのだ。
どこかで落としたらしい。しかし、あの広い廊下を探している暇などない。
あれがなければ、もう麻由美に会えなくなってしまう。
いまの清司にとって、一番大切なものなのだ。
動揺してうろうろとしていると、背後で部屋のドアが開く音がした。
清司は凍りついた。誰かが、自分を見つめているのを強く感じた。
「……何をしているのですか……?」
凛とし、大人びた麻由美の声が後ろから聞こえてきた。
清司は死にたくなった。
もう何もかもお終いだという声が聞こえた。
なぜか目の前に、最後に見せた栄一の笑顔が浮かんだ。




