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ペンライトで光を当ててみたが、何も置かれていないようだった。

さらに奈那子はドアを開け、首だけ部屋の中に入れた。やはり、何も置かれていない。

物置としても使われていないようだ。

完全に、必要のない部屋だった。

奈那子は足を踏み入れた。

部屋に入ると、なぜか不思議な気持ちになった。

何というか、空気が変わったような気がした。

冷たいような、ぴんと張り詰めたような空気だ。


奈那子は、辺りをきょろきょろと見回し、麻由美のいっている、死んだ母親との再会の答えを探した。

しかし、どこも変わった様子はない。

遺骨でも残っているのかと思ったが、それも見当たらない。

奈那子はため息をつき、先程の麻由美の姿を思い出した。

ひどくつらそうな顔をして、まるで大きくて重い鉛を背負っているようだった。

きっと麻由美は寂しいんだろう。現実逃避で、この部屋にやって来るのかもしれない。

けれど先程の麻由美の顔は、ただ母親がいないから、という理由ではないと思った。

どう見ても、もっともっと暗い世界を生きている人間の顔をしていた。


奈那子も、学生時代はずっと一人でいた。

片想いの男子が可愛い女の子と歩いているのを見て、現実逃避したくなった。

この世で、一番不幸なのは自分かもしれないなんて思ったこともある。

しかし、あの麻由美の顔は、そんなものではなかった。


奈那子はその場に立ち尽くした。どきりとした。

気が付いたら、奈那子は完全な闇に囲まれていた。

真っ暗で、何も見えない。何も聞こえない。

いま自分がどこにいるのかわからない。そして、この空間から出て行くことはできるのか、また明るい道を歩けるのか、わからない。

急に、この「何もない部屋」が怖くなった。しかし、どこに逃げたらいいのかわからない。もしかしたら、もうこの空間から抜け出せないかもしれない。

孤独と恐怖が、一気に押し寄せてきて、奈那子は冷や汗が出てきた。

早くここから抜け出せなくては……

奈那子は腕を伸ばして、何かに触ろうとした。だがこの部屋には何も置かれていない。あせりが増した。

奈那子は、いま自分が歩いてきた辺りを引き返した。そのまま戻れば、必ず出口に行けるはずだ。

しかしたどり着いたところは、ガラス戸の前だった。

部屋に入って来た時はカーテンがひかれていたので、気付かなかったのだ。

そっとカーテンをひくと、ぼんやりと月の光が見えた。

さらに奈那子はガラス戸を開けた。この部屋には、広めのバルコニーが備え付けられていた。

奈那子はバルコニーに出て、また足元に何か置かれていないか見回した。しかし、部屋と同じく、何もなかった。


奈那子はため息をつき、柵にもたれかかった。

結局、何も答えなど見つからなかった。

そっと顔を上げると、どんよりと暗い雲が浮かんでいた。


死んだ人間は、星空に行くんですよ……


麻由美の言葉を思い出し、奈那子はこの部屋からは星空なんて見えないだろうな、と思った。

星空に行った母親も、ここでは見ることができない。

それなのに、どうして麻由美はこんな部屋に行くのか。

答えが見つかるどころか、逆にまた疑問が出てきてしまった。


麻由美が背負っている鉛は何なのか。

母親が死んでしまったという寂しい気持ちだけなのだろうか。

それならば、誰かが一緒にいてくれれば、麻由美の鉛は軽くなるんじゃないか。


一人でいろいろと想像したが、奈那子はあきらめて部屋に戻ることにした。

考えても答えが出ないなら、さっさと切り捨てたほうがいい。


奈那子は以前のように、麻由美の世話係を努めた。何も知らないでいてあげる方が、麻由美のためだと思うことにした。



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