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翌朝、何も無かったかのように、麻由美は人間の姿で部屋から出てきた。

「おはようございます。奈那子さん」

笑った顔も、昨日とは全く違う、可愛らしく穏やかだった。

奈那子は、昨日どうしてあんな姿になってしまったのか、気になって仕方がなかった。

しかし本人に聞くことなど、絶対にできない。

とりあえず、麻由美がもとに戻ってくれたことに、ほっとした。

昨日のことは、誰にも話さないことにした。

そして、あのお茶も二度と出さないことにした。

もしあのお茶が麻由美をおかしくさせたのだったら、お茶を出さなければ死人にはならない。

それでも麻由美が死人になったら、清司の発した言葉だ。

もしそうだとしたら、奈那子は関係がない。

麻由美は、美しく上品な、大富豪の一人娘に戻っていった。



しかしある夜、また奈那子は麻由美と真夜中の廊下で出会った。

その日は仕事が大変で、最後の屋敷の戸締りが遅くなってしまった。

奈那子は、夜に屋敷の中の戸締りするという仕事が一番嫌いだった。

奈那子はペンライトを持ち、長い廊下を歩いていた。

そして、二階の廊下を歩いている時に、突然ドアが開く音がした。

緊張した。また麻由美だろうか、と冷や汗が流れてきた。

奈那子はペンライトを消し、柱の影に隠れた。

麻由美は奈那子に気が付いていなかった。そのまま奈那子の前を通り過ぎた。

その時、暗闇でほとんどわからなかったが、奈那子は麻由美の顔が別の人間のように見えた。

いつもの上品で綺麗な大人のような姿ではなかった。

そして、まるで何か大ケガをしたように、ひどくつらそうな顔をしていた。

目からは涙が流れているようだった。

もちろん、これは真っ暗闇の中でちらりと見ただけだから、本当かどうかはわからない。

しかし、奈那子はそう感じた。

あれは、ただ母親が死んでしまった少女の顔ではなかった。

もっと大きな、黒くて重くて、一人では持てない鉛を、必死に背負っているようだった。

そしてその鉛は、一生麻由美の細い体にのしかかる。

決して放れることはないのだ。



麻由美の気配が完全に消えた後、奈那子はペンライトを点けて、麻由美が出てきたドアに行ってみた。

廊下の、一番端にある部屋だった。

奈那子は、こんな部屋があったのか、と少し驚いた。

誰も使っていないし誰もこの部屋を知らない、はっきりいって、あってもなくてもいい部屋だ。

奈那子はドアの取っ手を握った。

この部屋に入れば、麻由美がいった「お母様に会いに行っていた」という言葉の意味がわかるかもしれない。

部屋の中に何が置かれているのかと思うと怖くなったが、それよりもこの意味不明な言葉の答えを知りたかった。

そっとドアを開き、隙間から中を覗いてみた。









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