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お茶会が終わり自宅に向かって歩いていると、誰かがすぐ近くにいるのに気が付いた。

清司は立ち止まった。

栄一だった。


死神………………………

見てはいけない、と思った。

しかし、清司は見た。

その時の栄一は、死神には見えなかったからだ。


栄一は、じっと夜空を見ていた。

あの、どこか遠くを眺める目で、暗い夜を見つめていた。

何を考えているか、清司にはわからなかった。


「……栄一くん……」

呼んでみたが、栄一は全く反応しない。

「栄一くん」

さらに呼んでみたが、栄一は顔を向けてもこなかった。

「栄一くん。こんなところで、何をしてるの?」

近づきながら訊くと、栄一は目だけを動かした。睨んでいるような顔だ。

そして、ゆっくりと後ろに振り向き、すたすたと歩いていった。

「ねえ、栄一くん」

清司は栄一を追いかけた。すると栄一は早足になった。

「栄一くん、ちょっと待って」

清司はいったが、栄一はそのまま歩き続ける。

「ねえ、どうして、僕の話、聞いてくれないの?」

ずっと思っていたことだ。なぜ、栄一は、自分の話を聞いてくれないのだろうか。

「……僕ね、栄一くんと、仲良くなりたいんだ」

しかし栄一の反応はない。

「僕は、栄一くんと、ただ仲良くなりたいんだ。兄弟みたいになりたいんだ。一緒に遊んだり、勉強したり……」

話していくうちに、何だか切なくなってきた。

清司は目を閉じて、足もとを見た。

「……栄一くんは、なにも教えてくれないね……」

寂しさが急に高まって、清司の目から涙が溢れた。

「寂しいよ。僕。すごく……寂しいよ……」

泣きながら、清司は栄一に話しかけた。

それでも栄一は無反応だ。

二人はそのまま、ゆっくりと自宅へと向かった。





清司はずっと泣いていた。

もう10年も一緒にいるのに、栄一は友だちと認めてくれない。

みっともなく泣き続ける清司の声を聞いて、栄一は気分が悪くなっていた。

家の近くまで来た時に、栄一は清司に一言、いった。

「俺が、お前に何を教えても、お前には意味がわからないから、いわないんだよ」

清司は驚いた顔をし、栄一の顔を見つめた。

「……どういうこと?何を教えてもって……。どうして、僕には意味がわからないの?」

栄一は、小さくため息をついた。

「じゃあ、お前は」

栄一も清司の顔を見つめ返し、質問をした。

「殻って知ってるか?」

「えっ?なに?殻?」

「そうだよ。殻だよ」

「……知らないよ。なに?殻って」

清司の声を聞き、栄一は、また小さく息を吐いた。

「ほらな。やっぱり知らない。だから、いちいちいわなくてもいいんだ。特に、殻のことなんか聞いたって、気分が悪くなるだけだ」

清司はじっと栄一を見つめ、訊いた。

「どうして気分が悪くなるの?」

栄一は首を横に小さく振った。もうこの質問攻めに嫌気が差した。

「人間は、必ず殻を持っている。だから自分の殻に篭る、っていう言葉があるんだよ」

「自分の殻に篭る……?」

栄一は頷き、また話し始めた。

「その殻に気づくか気づかないかってことで、その人間の人生は変わる。俺と、お前みたいにな」

「僕と栄一くんの人生が変わる?どうして?一緒に住んでるのに」

「そうじゃなくて、これから先、俺たちがどうやって生きていくのかってことだよ」

「どうやって生きていくか……」

清司が小さく呟くと、栄一はまた頷き、さらに付け足した。

「その殻の中には、喜びとか、幸せなんてない。ほとんどが、人間の汚らしい心、残酷なところ、そして、信じたくないことだけだ」

「人間の汚らしい心って……?」

栄一はじっと清司の顔を見つめ、強い口調でいった。

「人間の汚らしい心なんて、数えきれないほどあるだろ。たとえば、妬み、恨み、憎み。そして、信じたくないことは、後悔、恐怖、孤独感、劣等感、絶望感。……もうキリがないだろ」

栄一の口から出てくる言葉を聞いて、清司はだんだん気分が悪くなってきた。

「……本当だ……。そんなこと、僕、全然気付かなかった」

栄一は清司の顔から目を逸らし、さらに強くいい切った。

「気が付かなかったのは、お前がそういう汚らしい心を見たことがなかったからだ。お前は、いままでずっと幸せな日々を送っていたから、わからなかったんだよ」

栄一の言葉を聞き、清司は首を横に振った。

「そんなことないよ。僕、小さい頃は独りぼっちで孤独だったよ。それに、いじめられたりして劣等感で死んじゃいそうだったし」

「でも」

素早く栄一はいい返した。

「いまは、そんな気持ちじゃないだろ。もう、その時の気持ちなんか消えただろ」

「……うん」

清司はこくりと頷いた。

「それは、殻の中にある、人間の汚らしい心じゃない」

そして栄一は、そっと息を吐くと、少し震えたような声で、また話し出した。

「殻の中にある、本当の、人間の汚らしい心っていうのは、知ってしまったら絶対に消えない。ずっと、一生その汚らしい心を見ながら、生きていくんだ。信じたくない、悪い夢だったんだって思いたくても、忘れようと思っても、できない。だから、ふつうに生きている人間には、殻は見つからない。見つかったとしても、それは本当の殻じゃない。本当の殻じゃないから、もとの自分に戻れるんだ」

清司はわけがわからなくなってきた。

「……そんな……、そんなもの、本当にあるの?っていうか、何でそんなこと知ってるの?」

緊張しながら訊くと、栄一は、睨んだような顔で答えた。

「俺がいままで生きてきた場所が、そこだったからだ」

「えっ」

清司が驚いた顔で見ると、栄一はそっと目を逸らし、付け足した。

「俺が生まれたのは殻の中だ。そして、いまも殻の中にいる。これからもそうだ。俺はそうやって、一生汚い心と隣り合わせで生きていくんだ」

そして、もう何もいわない、というふうに、口を閉ざした。

清司も、そのまま黙って立ち尽くした。

栄一にいえる言葉が見つからなかった。











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