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お茶会が終わり、清司は帰り道を歩いていた。
いつもは飛び跳ねるような気持ちだった。
だが今日は正反対だった。
鉛のような足をずるずると引きずっているような気がした。
もちろん、理由は麻由美だ。
ちょっとした言い争いをしてしまったのだ。
「どうしてパスタ作ってくれなかったの!?」
清司がいうと、麻由美は黙ったまま、じっと清司の顔を見つめていた。
「がんばってみるっていってたじゃないか!」
少し大声を出してしまった。
麻由美は何もいわなかった。ただ、じっと清司の顔を見ているだけだ。
「麻由美ちゃん、聞いてる!?」
清司が顔を覗き込むように麻由美にいうと、麻由美は静かな声で話し出した。
「私にも、作れないものがあるって、以前いったでしょう」
「でも、パスタなんて、すっごく簡単じゃないか」
清司がいうと、麻由美は顔を下に向けた。
ごめんなさい、と謝っているようには見えなかった。
「麻由美ちゃんだったら、お母さんに教えてもらわなくても、すぐに作れると思うけどな」
すると麻由美は、小さくため息をつき、答えた。
「勝手なこといわないで。私は完璧な人間じゃないわ」
「完璧な人間だなんて思ってないよ。ただ、僕はパスタが食べたかったんだ」
そういうと、麻由美はじっと清司の顔を見つめ、さらに静かな声で訊いた。
「清司さんは、何をしに、ここへ来ているの?」
「えっ」
清司は目を大きくした。何のことか、よくわからなかった。
「清司さんは、私の作った料理が食べたいだけなの?」
それを聞いて、清司は、はっとした。
確かに、お茶会をすると誘われた時に、ぱっと頭に浮かぶのは、お菓子や料理だった。
「そ……、そんなことないよ。僕は、そんなこと……」
「じゃあ、どうしてそんなに怒っているの?」
清司は黙った。何と答えたらいいのか、動揺した。
「怒ってなんかないよ……。僕」
震える声でいうと、麻由美はさらにきつい言葉を投げかけた。
「もしお菓子や料理が食べたいだけだったら、わざわざここへ来なくてもいいんじゃない?他の女の子が作ったものでもいいんじゃ」
「ちょ、ちょっと待って」
清司はあわてて麻由美の言葉を遮った。
「僕、嫌だよ。他の女の子の作ったお菓子なんて。食べたくないよ」
麻由美はそっと顔を横に向けた。
「それなら、もうパスタのことで怒鳴るのはやめて」
清司は何もいえなくなった。
ごめん、と頭を下げた。
清司は、麻由美に、いいたいことがあった。
「……何か、最近麻由美ちゃん、冷たいよね……」
麻由美は何も聞こえなかったように、紅茶を飲んでいた。
「ねえ。どうして?麻由美ちゃん、僕のこと嫌いなの?結婚したくないの?」
清司は訊いた。麻由美が何と答えるか、緊張して体が震えた。
しかし麻由美は何もいわなかった。
それが、清司をさらに不安がらせた。
「ねえ」
清司がまた訊いてくるのを遮るように、麻由美は、独り言のようにいった。
「何だか疲れちゃった。今日は、ここで終わりにしましょう」
そしてソファから立ち上がり、ドアの方へ向かった。
しかし突然立ち止まり、清司にいい忘れたように話した。
「しばらくお茶会はお休みしましょう。これからは、私が呼んだ時にだけ、ここへ来てください」
清司は何もいえず、ただがっくりと項垂れたままだった。
そうして、お茶会が終わったのだ。
清司は暗くなり始めた道を、とぼとぼと歩いた。
だんだん麻由美との距離が、遠くなっていくような気がした。




